【総集編】読切短編小説集

Grisly

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浮気会見

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N氏は、国民的俳優である。
のだが、記者会見の場に立たされ、
ピンチである。

ここに至るまで遡って話をしよう。


ありがちではあるが、
たまたま中学の修学旅行で
表参道を歩いていたところ、スカウト。

その当時、たまたまハリウッド映画に
坊主役が必要であった。

しかし、当然だが、売り出し中の俳優は
全員他の役との兼ね合いがあり、
彼に白羽の矢が立ったというわけ。

野球部であり、身長が高く、
ガタイも良かった彼はイメージにピッタリ。



ハリウッドと言っても無名の監督。
資金がなく、日本で撮影したというわけ。

全くの偶然だったのだが、
ジャパンブームにあやかり、
映画は大ヒット。

彼の素人っぽい演技が逆に役柄とマッチし、
一躍人気俳優となる。



当然色んなところから
出演オファーがかかる。

やると決めたからには
仕事に精を出さねばならない。

野球で培った体力があった。
出れる限りの作品に出演し、
金を稼いだ。

必然と言うものだが、演技力が身につく。
20で演技派俳優と呼ばれ、絶大な人気に。

偶然ではあるが、
初演の映画が素人っぽい演技だったため、
成長が傘増しされて映った結果だった。


28で偶然共演した女性と意気投合し、
結婚。
偶然ではあるが、順調な人生と言える。



しかし、今。
N氏はピンチに陥っている。

ありがちなことだが、
バーを出て道を歩いていたところをスクープ。
つまり、浮気現場を押さえられたのだ。

ストリートで始まった彼の人生は、
ストリートでピンチを迎えていると言える。



そもそもスターとはそう言うものであるし、
俳優とは私生活と一切切り離し、
スクリーンの中でのみ存在するべきもの。

むしろ、人格が破綻していたり、
犯罪まがいのことや、黒い部分、
危ないところがあったり、
普通の人間にないものを見たい。

と言うのが作者の個人的な意見だが、
時代はそうはいかない。
一応記者会見を開きましょうと言う事になる



記者からの質問。
「報道にあった女性とは、
 どんな人ですか。」

ああ面倒くさい。
どうでもいいじゃないか。


「どこで知り合ったのですか。」

バーに決まっているだろ。
バーで写されているのだがら。


「どこに惹かれたのですか。」

やはり、豊満なボディだろうな。
新しい刺激…。おっといけない。


「いつから浮気が始まったのですか。」

それは私の方が聞きたい位だ。
人によって違うじゃないか。
そんな曖昧な質問はない。

明確な基準があれば教えて欲しい。


「奥様に悪いと思わなかったのですか。」

それは悪いと思っている。
人に顔を知られている分、
被害が大きくなってしまった。

本能的に仕方のないこととはいえ、
彼女の気持ちを考えると、
そこは胸が痛むのだ。


「どうしてこんな事になったのですか。」

これまでふて腐れ、退屈そうにしていたが、
この質問にN氏はピクンとなった。

どうしてこんな事に。

俺があの時、
もう少しちゃんと変装していれば…

いやそもそも、新規ではなく、
馴染みのバー行っておけば…



いや、もっと根本的な問題がある。

結婚相手が女優でなければ。
こんなに大きい被害に
苦しませる事も無かった。

いやいや、大前提として、
俺が一般人なら、ニュースにもなっていない

体を壊して早々に俳優を引退していたら、
スカウトのオファーを蹴っていたら、
修学旅行に、欠席していたら、
野球部に入っていなければ…

2度と同じことは起こしたくない。
反省し、悔い改めようと考えれば考える程、
この過ちの、
スタートがどこだったか分からなくなるのだ



もっとも、
私達全員がそうなのかも知れない。

どうして今の自分が存在しているのか、
ある程度は答えることはできても、
明確なスタートは存在するのだろうか。

現に、この小説を最後まで
読んでくれた貴方は、
その理由を、スタートを、
説明できるだろうか。













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