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狐の嫁入り
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昔々。
山奥に、一人暮らしの長太郎という若い男がいた。
ある晩、彼がいつも通り床へ就こうとすると、
扉を叩く音が聞こえた。
開けると、
それはそれは美しい若い娘が立っていた。
「道に迷ってしまって…
一晩泊めていただけますか。」
長太郎は中に招き入れた。
久しぶりの客人である。
精一杯もてなした。
日が昇ったが、
娘は帰ろうとしなかった。
長太郎もまた、追い出そうとしなかった。
2人は惹かれ合う物を感じていたのである。
そのうち2人は結ばれた。
しかし、何故だろう。
長太郎は娘に、
入浴の時だけは覗かないように
きつく言われていた。
禁止されれば、破りたくなる物。
ある晩、長太郎がこっそり娘の風呂を覗くと、
そこには1匹の子狐の姿があった。
驚きが隠せなかった長太郎は、
思わず声を出してしまった。
子狐が喋り出した。
「私は昔、子供達に捕まり、
命が危なかったところを
あなたに救ってもらった子狐。
どうしてもあなたと添い遂げたい。
そう思い、ここまで辿り着いた次第です。
私の正体を知ってしまった今、
夫婦には戻れないでしょう。
生かすも殺すも、
どうするかはあなたが決めて下さい。」
長太郎、少し考えてこう答えた。
「そうだったのか。
しかし、それを知ったからと言って
俺は変わらない。
あなたとの毎日はとても楽しかったし、
俺にとっては、それが全て。
あなたの正体なんて、どうでもいい。
1人で、人間の世界へ飛び込んで、
さぞかし大変な思いをした事だろう。
もう苦しむことはない。
さぁ、こっちへおいで。
もちろん、あなたが望めばだが…」
「なんて優しい人なの…」
2人は固く抱き合い、変わらぬ愛を誓い合った。
彼は優しく、懐の深い男だったのだ。
もっとも、彼が男と言えるかどうかは、
非常に疑問の残るところである。
彼女は気づいていないが、
彼の着物からは、時たま、ふさふさの尻尾が…
秘密を抱えているのは何も女だけではないのだ。
こちらの方がバレた時、
本当の終わりを迎えてしまう事だろう。
女性の秘密は美しい物だが、男の秘密は余り…
山奥に、一人暮らしの長太郎という若い男がいた。
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扉を叩く音が聞こえた。
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一晩泊めていただけますか。」
長太郎は中に招き入れた。
久しぶりの客人である。
精一杯もてなした。
日が昇ったが、
娘は帰ろうとしなかった。
長太郎もまた、追い出そうとしなかった。
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そのうち2人は結ばれた。
しかし、何故だろう。
長太郎は娘に、
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驚きが隠せなかった長太郎は、
思わず声を出してしまった。
子狐が喋り出した。
「私は昔、子供達に捕まり、
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あなたに救ってもらった子狐。
どうしてもあなたと添い遂げたい。
そう思い、ここまで辿り着いた次第です。
私の正体を知ってしまった今、
夫婦には戻れないでしょう。
生かすも殺すも、
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「そうだったのか。
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