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猿蟹合戦

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「パキ。」

石臼が落ちてくると、
嫌な音と共に猿の頭が割れた。

当然、辺りは血の海と化し、
言いようの無い雰囲気が現場を包む。



蟹が最初に口を開いた。

「お、おい…
 何も殺すことはなかったじゃ無いか。
 ちょっと懲らしめればよかったはずだ。

 そうだろ。当初の計画と違う。
 石臼よ、何も頭に飛び乗る事は…」




石臼は言い返した。

「おいおい、
 俺1人が悪いのか。

 確かに決定打となったのは俺だが、
 俺が飛び乗らなかったとしても、
 もうほとんど死んでいたじゃ無いか。
 
 おい、蜂。
 お前の毒、かなり強すぎた筈では…」




蜂も負けずに言い返した。
このままでは自分1人罪を被せられ、
何十年と言う禁錮生活。

蜂は、最も寿命が短い。
そうなってしまっては
この中では最も困るのだ。

「いやいや、
 私1人の毒のせいにするには余りにも…

 そうでしょう。
 私の毒だけでは彼は死ななかった。
 皆少しずつやり過ぎたんだ。

 大体、栗さん。
 貴方が最初にやり過ぎ、
 猿さんの目を潰したでしょう。

 見えてさえいれば、臼も避けられ、
 死には至らなかったのでは…」





栗も必死で言い返した。
己の過ちのせいで、
栗の木ごと切られる可能性があった。

つまりは、
家族や兄弟ごと一気に失う事に…
頭を働かせ、牛糞を責めた。

「牛糞よ。
 お前にも責任があるぞ。

 お前が猿を転けさせ、
 頭を最初に傷つけた可能性がある。
 ドラマ等でよく観る、
 くも膜下出血というやつ…」




牛糞も頑張って言い返した。
彼は頭が良い方ではなかったが、
自分だけに罪を被せられるわけには…

「いや、俺はただ床に居ただけだ。
 勝手にあいつが足を滑らせただけ。

 道端に落ちている糞を誰が責められる…」











さっきまで、血圧が上がり、
興奮していた彼等だったが、
猿の死という絶望的な現実を前に、
血の気が引き、それぞれを責め合った。


確かに、石臼1人のせいにするには、
各々が少々やり過ぎていた。

かと言って皆殺す気はなかった。
ちょっとした遊びの延長のつもりだったのだ。

少々、石臼が重過ぎ、
特に度を越してしまったのは事実だったが、
かと言って、殺人に加担した事には変わりない。

もっとも、殺人とは言っても、
猿ではあるのだが…









1時間が経ち、
それぞれがゴニョゴニョと言い合った。

しかし、意見はまとまらなかった。
誰も強くは言えなかった。


それはそうである。
1人だけ皆から嫌われ、
哀れな姿になってしまった例が
目の前にいるのだ。

誰1人として嫌われたくなく、
誰も程々の主張を繰り広げた。






ウーウーウー。

騒ぎを聞きつけた近隣住人が通報したのだろう。
パトカーが近づいて来ている。


毒を持ち、このような状況に慣れている
蜂が声を出した。


「事故死した蟹の親父さん。
 
 彼が本当は猿に殺されていた事にして
 皆で証言しましょう。

 私達は共犯者。

 誰よりも固い絆で結ばれた。

 誰も裏切らず、誰も逃げ出さない筈だ。
 そうでしょう。


 そうだ。私達はをしたのです。」




誰1人として反論しなかった。
そう。彼等はこの世で最も強い絆で結ばれたのだ。
共犯者という…
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