世界を救った後のお話

才花

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8話

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「センジ殿」
「どうしましたか?」

 それは朝の掃除の時間だった。

「今日は休まれてください」
「え、でもいいんですか?」
「えぇ、二人は今日は来ないので。これを機会に街を回られてみてはどうかと思いましてな」
「言われてみればあまり街の様子は確認してないですね」
「そう言う訳で、変わったこの街を、この世界を少しばかり見てくるとよいでしょう」
「……わかりました。お言葉に甘えます」

 掃除を終えると朝食を摂る。朝も早くからメリルが来て料理をしていてくれた。

「オススメの場所? そうだなぁ……やっぱりメサイアタワーかな」
「メサイアタワー? あの街の中央にある大きな塔か?」
「そうだよ。救世主ゆうしゃの塔。センジ兄ちゃん達の事だよ」
「なんだかむず痒いな。塔って言えば天罰の塔を思い出すよ」

 天罰の塔とはセンジ達が以前、攻略した世界の中心にあった塔である。

「その塔がモチーフですな。オリジナルはかの魔王との決戦で壊れてしまいましたが」
「いや、あれには事情があったんですよ」
「ほぉ、なにやら面白き話が聞けそうですな」
「まぁ、時効でしょう。実はですね──」
「ソーイウのは後でいいでしょ。メサイアタワーの展望フロアから見る景色は絶景だよ」
「なら行ってみるか」
「私も行く! デートしよ!」
「学校だろ」
「サボるから平気!」
「メリルや、理由があるなら学校を休むのは仕方ないがそんな理由では認められんな」

 バーンズに怒られしゅんとなるメリルをセンジはフォローする。

「なら土日のどちらかで行こう。今日は下見って事で見てくるよ」
「やったぁー! じゃあ土曜日ね! 約束だよ!」

 騒がしい食事も終わりメリルを見送ると、早速センジも街へ繰り出した。

「まずは服を買おう」

 スーツとバーンズの古着しか持っていないからである。
 向かったのは大型の複合商業施設。ここならばアパレルショップも複数あるだろう。
 施設に入ったセンジが思ったのは現代日本と遜色がないと言った物だった。気分が高揚したセンジは施設内を全て見てまわることにした。
 色々な店に入り何に使うか分からない物を手に取り冷やかしていく。そうこうしている内にセンジは気になる店に行き着いた。それは書店だった。技術が進んでも紙媒体はなくならないのはこちらも一緒かと笑う。
 魔法理論に興味がありその手のコーナーに向かう。沢山の本の中から『初心者も安心。初めての魔法』というのを手に取った。パラパラと捲ると分かりやすそうだったのでコレを購入した。
 さて、やっと本題という事で立ち並ぶアパレルショップに踏み込む。そこまでファッションセンスに自信がある訳では無いので店員のアドバイスを聞きながら無難な物を選んだ。
 昼過ぎには買い物は終わり腹のスキ具合も昼食の頃合いだった。興味をそそられたのは『ニホン』という看板を掲げた店だった。

「いらっしゃいませ!」

 と、威勢の良い声で迎えらる。席に案内され手渡されたメニューに目を通した。

「てんぷら、カツ丼、うどん、って本当に日本食じゃないか」

 センジはカツ丼とうどんを注文する。待つこと数分、出てきた品は見覚えのある物だった。味はというと普通に美味しかった。
 帰りの際に店員に話を聞いてみた。

「首都にある本店のオーナーがニホン人なんですよ」

 店員の回答に唖然とした。自分以外の転移者がいるなんて思いもしなかったからだ。

「なんて方なんですか?」
「サイトウさんです」

 礼を言うとセンジは店を後にした。是が非でもサイトウなる人物に会いに行かねばならない。
 ふと気になったセンジはスマホで調べてみる。

「検索、転移者、リトフィリア」

 どうやらリトフィリアへの転移者は年々増えているらしい。検索結果に驚きを隠せなかった。

「原因がある筈だ……あの女か?」

 考えても埒が開かないので思考を切り替える。メサイアタワーに行く事にした。
 タワーにはナビなしでも到着した。あれだけ大きければ迷わない。

「さて、少しばかりタワーについて調べて見るか」

 タワーの中を歩きながら情報を検索する。

「なになに、世界中の有力な都市に存在する塔。それぞれネットワークで繋がっている、ね」

 先程から気になっていたがタワー内は何か頭が重くなる様な気がした。

「特殊な魔法建材で出来ており、塔内での魔法使用はオススメできない。なるほど、これか」

 癖のような物で絶えず軽く防御の魔法を使っているのだ。それを解くと頭が軽くなった。

 日本ならエレベーターが設置されているのだろうがここは異世界、あるのはトランスポーターという決めらた短距離感をワープする物が設置されていた。
 魔法陣の中央に立つと浮遊感を感じる。それも一瞬で最上階の展望フロアに到着した。

「すごい」

 メリルの言う通り絶景だった。センジはただただその光景に見惚れていた。

『センジ兄ちゃんたちの事』

 メリルの言葉が思い出される。この景色まで発展したの紛れもなくセンジ達の功績だった。少し誇しい気持ちを抱くとフロアを後にする。トランスポーターの前に立つと数人の男女が転移してくる。
 何か暗い気配を感じた。注意してみれば歩き方が常人のそれではない。隙のなさは戦う者特有のものだった。関わり合いになるのごめんなのでセンジはそのまま帰路につくのだった。



 

 
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