8 / 13
8話
しおりを挟む「センジ殿」
「どうしましたか?」
それは朝の掃除の時間だった。
「今日は休まれてください」
「え、でもいいんですか?」
「えぇ、二人は今日は来ないので。これを機会に街を回られてみてはどうかと思いましてな」
「言われてみればあまり街の様子は確認してないですね」
「そう言う訳で、変わったこの街を、この世界を少しばかり見てくるとよいでしょう」
「……わかりました。お言葉に甘えます」
掃除を終えると朝食を摂る。朝も早くからメリルが来て料理をしていてくれた。
「オススメの場所? そうだなぁ……やっぱりメサイアタワーかな」
「メサイアタワー? あの街の中央にある大きな塔か?」
「そうだよ。救世主の塔。センジ兄ちゃん達の事だよ」
「なんだかむず痒いな。塔って言えば天罰の塔を思い出すよ」
天罰の塔とはセンジ達が以前、攻略した世界の中心にあった塔である。
「その塔がモチーフですな。オリジナルはかの魔王との決戦で壊れてしまいましたが」
「いや、あれには事情があったんですよ」
「ほぉ、なにやら面白き話が聞けそうですな」
「まぁ、時効でしょう。実はですね──」
「ソーイウのは後でいいでしょ。メサイアタワーの展望フロアから見る景色は絶景だよ」
「なら行ってみるか」
「私も行く! デートしよ!」
「学校だろ」
「サボるから平気!」
「メリルや、理由があるなら学校を休むのは仕方ないがそんな理由では認められんな」
バーンズに怒られしゅんとなるメリルをセンジはフォローする。
「なら土日のどちらかで行こう。今日は下見って事で見てくるよ」
「やったぁー! じゃあ土曜日ね! 約束だよ!」
騒がしい食事も終わりメリルを見送ると、早速センジも街へ繰り出した。
「まずは服を買おう」
スーツとバーンズの古着しか持っていないからである。
向かったのは大型の複合商業施設。ここならばアパレルショップも複数あるだろう。
施設に入ったセンジが思ったのは現代日本と遜色がないと言った物だった。気分が高揚したセンジは施設内を全て見てまわることにした。
色々な店に入り何に使うか分からない物を手に取り冷やかしていく。そうこうしている内にセンジは気になる店に行き着いた。それは書店だった。技術が進んでも紙媒体はなくならないのはこちらも一緒かと笑う。
魔法理論に興味がありその手のコーナーに向かう。沢山の本の中から『初心者も安心。初めての魔法』というのを手に取った。パラパラと捲ると分かりやすそうだったのでコレを購入した。
さて、やっと本題という事で立ち並ぶアパレルショップに踏み込む。そこまでファッションセンスに自信がある訳では無いので店員のアドバイスを聞きながら無難な物を選んだ。
昼過ぎには買い物は終わり腹のスキ具合も昼食の頃合いだった。興味をそそられたのは『ニホン』という看板を掲げた店だった。
「いらっしゃいませ!」
と、威勢の良い声で迎えらる。席に案内され手渡されたメニューに目を通した。
「てんぷら、カツ丼、うどん、って本当に日本食じゃないか」
センジはカツ丼とうどんを注文する。待つこと数分、出てきた品は見覚えのある物だった。味はというと普通に美味しかった。
帰りの際に店員に話を聞いてみた。
「首都にある本店のオーナーがニホン人なんですよ」
店員の回答に唖然とした。自分以外の転移者がいるなんて思いもしなかったからだ。
「なんて方なんですか?」
「サイトウさんです」
礼を言うとセンジは店を後にした。是が非でもサイトウなる人物に会いに行かねばならない。
ふと気になったセンジはスマホで調べてみる。
「検索、転移者、リトフィリア」
どうやらリトフィリアへの転移者は年々増えているらしい。検索結果に驚きを隠せなかった。
「原因がある筈だ……あの女か?」
考えても埒が開かないので思考を切り替える。メサイアタワーに行く事にした。
タワーにはナビなしでも到着した。あれだけ大きければ迷わない。
「さて、少しばかりタワーについて調べて見るか」
タワーの中を歩きながら情報を検索する。
「なになに、世界中の有力な都市に存在する塔。それぞれネットワークで繋がっている、ね」
先程から気になっていたがタワー内は何か頭が重くなる様な気がした。
「特殊な魔法建材で出来ており、塔内での魔法使用はオススメできない。なるほど、これか」
癖のような物で絶えず軽く防御の魔法を使っているのだ。それを解くと頭が軽くなった。
日本ならエレベーターが設置されているのだろうがここは異世界、あるのはトランスポーターという決めらた短距離感をワープする物が設置されていた。
魔法陣の中央に立つと浮遊感を感じる。それも一瞬で最上階の展望フロアに到着した。
「すごい」
メリルの言う通り絶景だった。センジはただただその光景に見惚れていた。
『センジ兄ちゃんたちの事』
メリルの言葉が思い出される。この景色まで発展したの紛れもなくセンジ達の功績だった。少し誇しい気持ちを抱くとフロアを後にする。トランスポーターの前に立つと数人の男女が転移してくる。
何か暗い気配を感じた。注意してみれば歩き方が常人のそれではない。隙のなさは戦う者特有のものだった。関わり合いになるのごめんなのでセンジはそのまま帰路につくのだった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。
なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。
そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。
そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。
彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。
それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
婚約破棄された国から追放された聖女は隣国で幸せを掴みます。
なつめ猫
ファンタジー
王太子殿下の卒業パーティで婚約破棄を告げられた公爵令嬢アマーリエは、王太子より国から出ていけと脅されてしまう。
王妃としての教育を受けてきたアマーリエは、女神により転生させられた日本人であり世界で唯一の精霊魔法と聖女の力を持つ稀有な存在であったが、国に愛想を尽かし他国へと出ていってしまうのだった。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる