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4話
しおりを挟む圧倒されていた。センジはただただ圧倒されていた。
聳え立つビル群。宙に投影された映像。空を走る車。
「八年でこんなになるのか……」
ボーッと立っていると肩を叩かれた。振り向けば笑顔の若者。服装から何かのセールスのようだった。
「お兄さんお兄さん! この街初めて? 凄いよね、俺も最初は圧倒されたよ」
「あ、いや、何度か来たことはあるけど久しぶりに来たから」
「分かる! 俺も久しぶりに帰ってきたらこの凄さ! いやぁ、おったまげたね」
「どこか違う国にいたのか?」
「海外にね。この国が一番発展してるよ。首都なんてとんでもないよ。それでだ、俺は見ての通りスマホの販売員やってるんだけど、どうかな新調していかない? 最新機器揃ってるよ」
「スマホ……ってなんだ?」
センジが知ってるスマホは地球製のものこちらのものは分からない。
「おいおいおい、これまたファンキーな質問だ! スマホっていうのはIDに紐付け出来る個人用の携帯端末さ。インターネットにビデオ通話、メールにチャットにリアルタイム言語通訳となんでもござれの超発明。ウチの店は最新機器のハイエンド揃えてるよー!」
「でもお高いんでしょ?」
「それはそうさ! だがしかし、コスパ最強のスマホも勿論ある!」
「説明ありがとう。でもお金持ってたか分かんないんだよ」
以前のリトフィリアの通貨はコインを使ったものだった。だが、これだけ技術が進んでいれば電子通貨ではないのかとセンジは考えたのだ。
「オーケー! なら残高どれだけあるか調べましょうか! 人差し指を拝借」
そう言うと若者はセンジの人差し指を取ると自分の人差し指と合わせた。
「はい出ました! は? 十億イェン!? 大金持ちじゃないか!」
イェン……国ごとに通貨単位が違ったが以前のこの国の単位ではなかった。
「そんなに金持ちなのか? イェンってフィリじゃないのか?」
「フィリはとっくに廃止されたでしょ! 今の世界基準がイェンさ! 金持ちも金持ち、俺の給料何百年分だよ!? こうなったらイクしかないでしょハイエンド!」
「イッちゃいますか!」
「はい! 一名様ご案内!」
気付けば店舗に通され言われるがまま契約を終えていた。
「買ってしまった」
少しの後悔と誰の金かも分からないものを使ってしまった罪悪感に襲われる。
「ま、まぁ仕方ない投資と言うことで。起動はこうだったか」
心の中でスマホ起動と念じると眼前に半透明の板が出現した。こちらの世界のスマホはバイザーの様に顔を覆う形だ。重さも何もなく他人からは無色透明に映るので画面を覗かれる心配もない。
「こりゃすごい。とりあえずは情報が欲しい、後は腹減った」
呟くと画面に地図が出現、赤い光点がいくつか点滅している。どうやら飲食店の様だった。
電子マネーはIDの中にあるようで残高を見ればスマホを買ったのに全く減っていない。必ず返すと心に誓い使わせてもらう事にした。
手近な飲食店に入るとメニューを眺める。知らない言語だったがスマホのおかげでスラスラと読め注文ができた。
食事を終えると情報収集を始める事にする。
「まずはこの八年何があったかだ」
わかった事はセンジが去ってすぐに技術革新があった事。それに伴い世界統一言語、通貨、数字等が普及していった事。最後にどうやらこの国の姫君だったリシテアが関わっている事、以上が得られた情報だった。
「何かきっかけがあったんだろう。元々、魔法なんて出鱈目なものがある世界だ。きっかけさえあれば爆発してもおかしくない。そうだ、どうせなら二人のことも調べてみるか」
UFOについて調べてみたが、どうやら旅客機らしい。
かつての仲間の事も調べてみる。
ラステォは世界でも有数のおもちゃ会社を経営していた。動画が上がっており、見てみると妹と二人で楽しそうにインタビューに応じていた。
「メリル、元気になって良かった」
思わず呟いてしまう。ラステォの妹のメリルは体が弱かったのだ。センジも何度か看病をした事があった。
「あれ? リュミエルは教師!?」
もう一人の仲間だったリュミエルは教師をしていた。『勇者の仲間が教える授業』と銘打った学校が検索でヒットしたのだ。
センジは少しのシンパシーを覚える。と、同時に複雑な感情も浮かぶ。悲しい様な嬉しい様な。
みんな、各々の道を邁進しているのだ。あの苦難の旅は思い出になったのだ。だから、会わない方がいいのかもしれない……そんな風に考えた。
「おかわりいりますか?」
「え……あ、すいません。もう出ますんで」
店員に声をかけられると逃げる様に店を後にした。
「どうするか。教会にでも行ってみるか」
困った時は教会に行くのが冒険の常だった。スマホで検索をかけると徒歩で行ける距離に小さな教会があったのでそちらに足を向ける。
小さいながらも装飾の施された立派な扉を開ける。最初に飛び込んできたのは綺麗なステンドグラス。礼拝者はだれもおらず神父の後ろ姿だけがそこにあった。
「あの」
「はい、なにか」
声をかけると神父は振り返る。お互いが驚愕の顔を浮かべる。
「……バーンズ大司教!」
「……勇者様!?」
バーンズとはかつてこの国に仕え、異世界召喚の儀を執り行っていたセンジも世話になった者だった。
「本当に本当に勇者様なのですか!?」
「えぇ、俺です。ナガイ・センジです。大司教はどうしてこちらに?」
「取り乱してしまい申し訳ありません。国王制から民主制に変わった折にお役目御免となりまして、こちらに教会を構えております。しかし、いつ戻られたのですか?」
「それが──」
これまでの経緯をつぶさに説明する。
「虹色の酒……いや、聞いた事ない。しかし、勇者様がこちらにおられる事は事実……」
「大司教でもわかりませんか……」
「いやはや面目次第もない。勇者様、これからどうなさるおつもりで?」
「特に決まってないんですよ。正直、困ってます」
「なるほど。かつてのお仲間に会われては?」
「いや、それも……みんな自分の道を進んでいるんで会うんならもっとちゃんとした自分になって会いたいです」
「ふむ、お悩みの様じゃな。ならば、こうしてはどうですかな? ここで教師の真似事などをやってみるとは」
「教師? たしかに向こうでは教師をやっていましたけど……ここでですか?」
「そうです。ここでは学校に馴染めなかった者に指導を行っているのです。教師の経験もあるのならば勇者様に向いていると思いますよ」
「でも、何を教えればいいんですか?」
「異世界学です」
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