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2話
しおりを挟む「お疲れ様でした」
仕事を終え校舎を後にする。時刻は20時を過ぎた頃合いだ。明日は土曜日で休み、開放感に包まれたセンジはブラブラと夜の街へと繰り出した。
適当なファミレスで食事を済ませるとアルコールが欲しくなる。行きつけの所に行こうかと思ったがやめる。どうせなら新規開拓も悪くないと思い、当てもなく歩く事にした。
普段来ない道。そこに小さなバーの看板が目に入った。
「ここにするか」
声に出したのは自分を勇気付ける為。齢二十三になっても初めて入る店は少し緊張する。
扉を開けるとカランカランという音。店内に客はおらず内装は古綺麗で良い雰囲気が出ていた。
「いらっしゃい」
店の奥に妖艶な美女。カウンター席に腰を下ろすと注文をした。
「お客さん、初めてね」
注文の品が置かれる。二人しかいないので必然的に会話をすることになる。
「そうですね。こんな良い店あったなんてしりませんでした」
「ふふ、そうでしょうね。オープンしたばっかりだから」
「そうなんですね」
何故だろうか? やたらと酒が美味い。目の前の美女のせいだろうか? 美人を肴に飲むと美味くなるのだろうかとくだらない事を考えた。
「お若いですね」
「二十三ですね。教師をやってるんですよ」
「立派ね」
「そんな事ないですよ……先輩の教師達からは毎日怒られますし、生徒には舐められてますから」
「最初はそんなものよね。私も店を持つまでは大変だったわ」
「やっぱりですか。こんな事なら帰って来なきゃよかった」
酒の影響か思わずいらない言葉が溢れてしまう。
「……どこかに行っていたの?」
どう答えるか逡巡する。グラスが空になったのを見計らって新しいものが出てくる。一気に飲み干すと口を開いた。
「信じてくれないと思いますけど、ここじゃない世界にいたんですよ」
「……へぇ、どんな世界なの?」
酔いが回ってきたのか饒舌にセンジは語り出す。
「剣と魔法の世界! ゲームみたいな世界だよ! 十五の時に召喚されてさぁ、そっちで勇者やってたんだよ!」
「勇者、すごいわ。なら、魔王と戦ったのね。一番苦労したのは魔王戦かしら」
「そうそう。お姉さんもゲームとかするの? 魔王は強かったよ。それにその配下たちも、何度も死を覚悟したしね。でも、一番苦労したのは最初だなぁ、モンスターって言ったって生き物だしね殺すのがね……」
「もしかして……人も殺してたりして」
「……この際だから言うけど……殺てるよ……まぁ、仕方なかったんだ。この地球、日本とは倫理観も価値観も全く違う。やらなきゃやられる」
「ごめんなさい、悪い事を聞いたわね」
「いいよ話だしたのは俺だから」
「帰って来てからはどうなの?」
「ハハ、笑っちゃうんだよそれがさ」
気付けばセンジは俯き暗い雰囲気を放っていた。
「姫さまやリュミエルの好意には気付いていたよ……でもさ、こっちに家族もいたし友達もいた……だから帰って来たのに、帰って来たら一年間家出してた事になっててさ……親からは勘当、友達達も離れて行ったよ。なんとか大学出て教師にはなれたけど、奨学金やらで家計は結構大変なんだ」
「……もう一度行ってみたいと思ってる?」
「そりゃね、行けるものなら行ってみたいよ。あ、新しいの貰えるかな同じ奴で」
グラスが空になったので注文する。だが、美女はジッとセンジを見て動かない。
「本気で行ってみたい?」
「え……あぁ、本気だけど」
そう答えると新しいグラスが置かれる。それは虹色の飲み物だった。
「コレ、注文と違うよ」
「それは奢りよ私の特製なの。それとコレをあげるわ」
テーブルの上に置かれたの鉄製のプレート。手に取って裏表を見てみるが銀色のソレには特に何かが書かれているわけでもない。
「なにこれ」
「いいから必ず役に立つわ。ささ、グイッと飲んで」
「え、あぁ。いただきます」
センジは一気に飲み干した。途端に視界が歪む。目の前の美女もグニャグニャと歪んでいく。
「何を……飲ませた……」
歪む視界、薄れいく意識。目の前の美女はニヤリと笑うと耳元で囁く。
「責任を果たす時が来たのよ」
プツリとセンジの意識は途切れるのだった。
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