世界を救った後のお話

才花

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「和睦は上手く行ったんだな。これで一件落着だな」
「えぇ、貴方のおかげです。勇者様」

 今日は終戦を記念して華やかなパーティーが開かれていた。当然ながら勇者とその仲間たちは城に招かれソレに参加していた。散々っぱら参加客に祝辞を述べられ疲れた勇者はテラスへとでると先客がいたので話しかけたのだった。

「……帰られるんですね」
「あぁ、突然召喚された時はどうなるかと思ったけど……俺まだ十五だし学校とかあるから帰るよ」
「寂しくなりますね」
「まぁ、また会えたりするんじゃないか。リシテアは王位を継ぐのか?」
「はい、後々は女王としてこのリトフィリアを治めることになるでしょう」
「凄いよ。がんばれよ」
「ワガママを言ってもよろしいですか」
「なんだい」
 
 リシテアの目は潤み頬は赤く染まっていた。月光が照らす彼女を勇者は綺麗だなと思った。

「残っては下さりませんか」
「……」

 勇者は押し黙った。仲間たちからも残るように説得された。だが、元の世界には家族や友人もいる。剣と魔法の世界で生きる、それはすごく魅力的だったが。断腸の思いで告げる。

「ごめん」
「……そうですか」

 リシテアの目には涙が浮かぶ。なんとも言えない空気を破るように声がかけられた。

「勇者様、こちらにおられましたか。おや、姫様も。準備が整いましたので玉座の間にお越し下さい」

 兵士はそれだけ告げると去っていった。

「時間のようだな。行こうか」
「……はい」

 このパーティーは終戦記念と共に勇者のお別れ会の意味もあったのだ。
 異世界との門を繋げるのは満月の晩のみ。今日はちょうど満月だった。
 玉座の間に着くと仲間たちが駆け寄ってきた。

「おい! 考え直せって! まだ間に合うだろ。俺と一緒に店でもやりながら生きようぜ!」

 パーティーのムードメーカーだったラステォが言う。

「ありがとう。でも、帰るよ」
「そうか……そうだよな。悪い、お前にも家族や友がいるもんな……楽しかった! ありがとうよ相棒!」
「おう! 俺も楽しかったぜ!」
「ちょっとムサイわよ男同士なんて」

 固く握手を交わす二人の間に割って入ったのは三人パーティーの紅一点、リュミエルだった。

「……元の世界に戻っても元気でね」
「あぁ、リュミエルもな」

 何か言いたそうにこっちを見ていたが結局彼女は泣きながら笑うとしばらく勇者を抱きしめ離れるのだった。

「さて、別れは済んだかの?」
「はい。王様、本当にお世話になりました」
「何を言うか。世話になったのはこちらの方じゃ。うむ、時間のようじゃな。名残惜しが魔法陣の中央に」

 天窓から月光が差し込む。その光に呼応して地面に描かれた魔法陣が輝きを放ち出す。

「そうだ。俺が生きた証って言うと変ですけどコレあげるよ。興味あるんだろリシテア」

 ポケットから取り出したの金属製の手のひらに収まるくらいの鉄の板。勇者の世界ではスマホと呼ばれるものだった。

「いいのですか!?」
「いいよ。その代わり、俺のこと忘れないでいてくれたら嬉しいな」
「決して……! 決して忘れません!」

 溢れる涙を拭きもせずにリシテアは叫んだ。気付けばその場にいた全員が泣いていた。勿論、勇者も。
 魔法陣の中央に立つと彼は力の限り叫ぶ。

「俺も! 永井 センジも! みんなの事は何があっても忘れない!」

 その叫びを最後に勇者の姿はかき消えるのだった。


 
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