まばゆいほどに深い闇(アルファポリス版・完結済)

おにぎり1000米

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幕間2

白い手の出会い―葉月(後編)

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 あずまやを背にしてひとりで道をくだると、ちらりと白いものが視界の端をかすめた。白鷺が大きく翼をひろげて飛んでいくところだ。近くでみるとこんなに大きな鳥なのか。
 僕は思わず小走りになり、水辺に沿ったせまい道を駆け下りる。片側は伸びすぎた蓮の葉がしげり、もう片側はあまり手入れされていない樹がならぶ。樹と水に囲まれたせいか、急に人の声も気配も感じなくなり、湿ってむっとした緑の匂いが鼻をつき、突然、僕は純白の花びらの前にいた。

 道の行き止まりは泉になっていた。真っ白の蓮の花が水面を覆っている。流れるかすかな水の音が歌うように響く。湧き水? 

 僕は魅入られたように泉に近づいた。泉の岸は彫刻されたような大きな岩でかためられ、申し訳程度の低い柵が泉と道を仕切るように立っていた。僕は柵の隙間を通って岩の上に立ち、水面を見下ろした。いつのまにか雲は晴れ、蓮に囲まれた泉の中央は空を映して青く、その周囲はびっしりと白い花に囲まれている。

 まるで、ここだけ他の場所から切り離されたような、閉じこめられたような場所だった。何か動いたと思ったら、蓮の葉そっくりの色をしたカエルが水の中を泳いでいる。
 はっとして僕はカメラを構え、ろくに考えもせずにシャッターを何度も押した。フィルムが残り少ないのに気づいて、やっと手を止めたとき、その気配に気がついた。

 うしろに誰かいる。
 うしろ?

 急に心臓がどくどく鳴った。耳のうしろの毛がふわっと立ち、首筋から背中の中心をぞくっと甘い感触が下った。
 へんだ、と思った。急におかしくなった。
 どうして?

「すまない、邪魔をしたらしい」
 声が響いた。低いがはっきり聴こえる声は穏やかで、それなのにその声に僕はびくっと――文字通りびくっとした。

 怖かったからではなく、逆だった。僕の体は勝手に動いて声の方を向いた。おかしな引力でも働いているような気がした。
 すぐそこに立っていたのは僕がまったく知らない人だった。

 その人も柵の内側にいたが、僕から二メートルは離れていた。少し困ったような表情をしている。一度も会ったことがないアルファの男だ。長身でがっしりして、顔は日に焼けている。日光が彼の上にふりそそぎ、日を透かした髪が薄い茶色に輝く。
 僕よりかなり年上だ。きっと藍閃よりも。
 僕はあわてて口をひらいた。
「あ、いえ……たまたまここに来て、びっくりして」

 何をいおうとしたのか、自分でもわからなかった。彼は僕のまうしろに立っていたわけじゃない。それなのに、その気配と匂いとそれに――それに――なんだかよくわからないとても強いもの、力のようなものが、僕の体の中心までまっすぐに飛んできて、僕はまともな言葉を忘れてしまったのだ。

 自分の心臓の音が耳の中を駆けまわっていた。すぐそばにいるわけでもない人の匂いを僕の鼻は勝手に嗅ぎ、味わおうとしていた。甘くていい匂いがした。もっと欲しくなる匂いだ。僕はごくりと唾を飲みこみ、そのはずみにカメラを持つ手がゆるんで外れた。首にかけたストラップが落下を防いでくれた。
 目の前にいる人が慌てた声でいった。
「大丈夫?」

 声を聴いたとたん、僕の足はまた勝手に動いた。自分で自分がコントロールできなかったのだ。一歩前に出て、僕はその人の匂いをさらにはっきり嗅いだ。腰の中心が熱でうずく。待ちのぞんだものがすぐそこにある、そんな考えが降ってきたように頭にうかぶ。とたんにうしろが濡れた。
 まさか。

 僕の頭の四分の一くらいが唐突に冷静になった。僕は本当におかしい。これは――これはヒートだ。
 そんな馬鹿な。僕は抑制剤を飲んでいる。それにこの人のことなんか、何も知らないのに。
「ええ。大丈夫です、そこで集まりがあって……僕は……」

 僕はなんとか言葉をひねりだした。ひょっとして、僕は今日抑制剤を飲み忘れていたのだろうか? 会ったばかりのアルファの前で発情するなんてありえないし、この人が誰かとつがいでなければ、大変な迷惑をかけてしまうかもしれない。
 僕は早く行かなければならない。蓮の会もはじまるにちがいない。

 それなのに僕の足は動かなかった。行きたくなかった。
 道に薄雲の影がおちた。彼もそこに立ったまま僕をみつめていた。僕らは目をあわせた。
「蓮が……きれいだったので、驚いて」
 僕の口は勝手に言葉を選び出し、話を続けようとしていた。
「こんなところがあるなんて、知らなかった」
「湖に咲く蓮で、白い花はここだけだ」
 目の前の人は何でもないことのようにいったが、視線は僕から動かない。
「僕は知らなかった。毎年来てるのに」
「毎年?」
「花が咲く頃に一族の集まりがあるんだ」

 そういったとたん、湧き水が流れる音が急に大きくなったような気がした。
 なぜか僕らは黙りこんだ。蓮の泉のまえですこし離れて立ち、みつめあったまま水音を聴いていた。どのくらいの時間だったろう。ほんとうに、ただのひとことも口に出さなかったのだ。

 しかし言葉はなくても彼の匂いと存在は僕の感覚を圧倒しつづけ、むこうも僕をみつめたままでいた。突然、僕は何かを理解した。何か――何を? まだ明確に言葉にできないまま、僕はまた一歩前に出た。彼の方も、一歩。

 僕と彼の距離はもう、あと二歩程度しかない。
 甘い匂いで頭が変になりそうだった。あと一歩前に出て手を伸ばせば、彼に触れる。彼に触って、そして……。

「葉月、どこ? 藤野谷家の準備ができたって!」
 小道をやってくるナミさんの声が呪縛を破った。
 僕は弾かれたように一歩下がった。ナミさんは僕の前にいる人に気づいたようだ。僕は彼女に向かって手をあげる。
「葉月? 誰かと一緒なの?」
「待って、すぐ行く」
 僕はおなじ道を戻ればいいだけだ。ここへ来た時と同じように。

 顔が熱く、体も熱く、首から下がるカメラが邪魔だった。僕はできるだけ大股で長身のアルファから離れ、柵の隙間から道へ戻った。ナミさんの方へ歩きながら、あそこに立ち止まっていたのはほんの一瞬じゃないか、と自分にいいきかせようとした。ほんの何秒か――何十秒か? 何分か?

 とにかく、あの知らないアルファと目をあわせていたのはごくわずかな時間だ。どういうわけか急にヒートがはじまったから、おかしな感じがしただけだ。あれはまったく知らない人で、これからどこかでもう一度会う可能性もない。突然はじまった僕のヒートに反応した様子がなくて、よかったと思わなければ。

 僕はもう一度小道を振り返った。あの人はまだ立って、僕をみていた。泉の中からは真っ白の蓮の花たちが、やはり僕をみていた。


   *


〈運命のつがい〉について、世の中にはたくさんの物語がある。
 たくさんの馬鹿げた物語だ。たった一度の出会いによって世界の在り方が変わってしまう。くすんだ世界はバラ色になり、何もかもが輝いてみえ、甘い気持ちで体じゅうがわきたつ。

 そんな話を僕はずっとベータの夢物語だと思っていたし、今もそう思っている。
 実際に運命に出会うのは、そんなに簡単な話じゃない。
 僕は藤野谷家の離れに座っている。あの日から――最初に空良と出会ったあの日から、いったい何年経っただろう。




 あれからいろいろなことがあった。空良と街で偶然――本当に偶然――再会し、彼の名前を知ったこと。色々な話をして、僕らは目を見かわして、すぐに愛しあうようになった。

 たった一度抱きしめてもらって、キスをしただけで愛しあっているなんて考えるのは、おかしいだろうか?
 あの時の僕にわかっていたのは、このまま藍閃と結婚しても、それはただの嘘になるということだけだ。

 僕は婚約を取り消したいと思った。父の銀星は僕の意思を尊重するといったが、佐井の当主は難しい顔をした。そして、僕が婚約を破棄したがっていると気づいた藤野谷家は、もっと露骨なやり方に出た。

 人間は自分にとって都合の悪い記憶を――思い出したくない出来事を、自分自身からも隠してしまうものだと、以前何かで読んだことがある。僕はあの夜のことがよく思い出せない。藍閃が僕を最初に噛んだ夜だ。

 僕は前触れなくやってきたヒートで朦朧としていた。空良に出会った時ともちがう、異様なヒートだった。記憶があやふやなのはきっとそのせいなのだ。

 覚えているのは熱くて、体じゅうが疼いて、苦しかったことだけ。目が覚めると首のつけねが痛くて、シーツがよだれで濡れていた。僕はうつぶせになって、両足をだらしなくひらいていた。足にも股にもまったく力が入らず、後ろの穴がひくひく震えた。離れの寝室には誰もいなかった。

 すぐに何もかも終わったのがわかった。僕は藍閃のものになってしまったのだ。それとも、婚約者なのだからこんなことは当たり前なのだろうか?
 藍閃は結婚まで待つと思っていた。だからこそ抑制剤を渡してくれたのだと思っていたのに。
 それともこれは、僕が空良に出会って、藍閃を裏切ったことに対する、当然のむくいなのだろうか。

 もう僕は空良に、自分は誰のものでもないのだと、きれいな体なのだとはいえなくなってしまった。他のアルファに噛まれたオメガを空良が欲しがるわけはない。彼がまともな男ならなおさらだ。

 僕はあきらめて藍閃と結婚する日を待った。彼に噛まれたあともヒートの苦痛は変わらなかった。つがいになればヒートが楽になるという話はなんだったのだろう?
 それでも藍閃は優しかったし、僕は彼に何度も抱かれて、肉体の悦びを知った。そしてそのたびに自分がとても汚い生き物のような気がした。

 結婚式の直前、最後の衣装合わせのために都心へ出かけたあの日、思いがけない偶然で――いつだってそうなのだ――空良に再会したときも、僕は彼のところへ逃げるつもりはなかった。なんといっても、僕は他のアルファが与えたものに囲まれて、他のアルファの匂いを纏わりつかせていたのだ。空良は失望したにちがいない。

 だから、あの日空良に向き合った僕の頭に浮かんだのは、この機会にさよならをいおうということだった。
 それなのに、僕らは離れられなかった。

 小さなホテルの質素な部屋、シングルのベッドの上で僕と空良は抱きあった。藍閃に馴らされた僕の体は空良の手に触れられるとまったくちがう反応をした。彼の唾液に濡らされて、ヒートでもないのに僕はやすやすと空良を受け入れた。自分がアルファに抱かれたいだけのいやらしい生き物じゃないか、なんて、考える暇もなかった。

 空良は僕の耳元でずっと僕を愛しているとささやいてくれた。僕がどこにいても、何をしていても、愛していると。そして藍閃が噛んだあとを塗り替えるように、僕を噛んだ。
 たった二日間のことだった。僕はすぐに藤野谷家にみつかってしまったからだ。あっさり連れ戻されて、僕は藍閃と結婚した。




 空良はいま遠くにいる。海外駐在を断れなかったのは藤野谷家の圧力だと僕は知っている。彼らは僕と彼を引き離すためなら何でもするのだ。
 薄暗い離れで僕は写真を広げている。

 現像して袋に入れたままの写真をときたま見返し、整理しようと思うのだが、いつも途中でやめてしまう。今はヒートを鎮静薬で散らしたあとだからなおさらだ。
 薬でヒートを散らすのは今にはじまったことではない。十七歳で最初のヒートが来てからというもの、抑制剤がうまく効かない場合、僕はときどき同じ処置を受けていた。つがいになればそんな必要もなくなると思っていたのに、僕のヒートは変わらない。

 鎮静薬には副作用もある。吐いたり、何日もろくに起き上がれなかったりするが、それでも行き場のないヒートの苦痛よりましだ。

 いまだに藍閃が僕をまっとうなつがいにできないのが悪いのだ、と僕はぼんやり思う。僕は藍閃を憎んでいるのだろうか?

 ときどき僕には自分の気持ちもよくわからなくなる。僕は空良を愛しているが、彼は遠くにいて、僕はこの離れで何度も藍閃に噛まれている。それでも僕のヒートは静まらず、一度はできた子供も流れてしまった。僕は藤野谷家の嫁としても不適格、完全にただのお荷物だ。

 おまけに近頃の藍閃は僕を抱くのを――抱こうとするのをやめてしまった。それも僕のせいだと彼はいうにちがいない。彼に抱かれていても、いく瞬間の僕はいつも、空良の名前を呼んでしまうから。

 藍閃はもう、僕に触れない。

 このことを天青に知られると何が起きるかわからないし、藍閃は父親を恐れている。だから僕と彼は夜をおなじ部屋で過ごす。ふたりとも押し黙ったまま、眠りが訪れるのを待つ。僕はときどき空良と一緒にいる夢をみる。目覚めたあと、勝手に涙がこぼれるのを藍閃に知られないようにする。
藍閃は何を考えているのだろう。

 天青とちがって藍閃は僕が空良と一緒にいたのを責めなかった。でも彼は僕を自由にする気はない。天青が僕に干渉するのは嫌なくせに。

 自分の気持ちだけでなく、藍閃のことも僕は年々わからなくなる。僕にわかるのは、僕の意思がどこにも存在しないこと。僕は藤野谷家のオメガだから。
 運命のつがい? そんなもの、藤野谷家の知ったことか。

 僕は写真を広げ、トランプのようにかきまわした。白い蓮の花が僕に微笑みかけていた。今年も僕は蓮の会に連れ出されたが、白い蓮は見つけられなかった。これを見たのは、空良に出会ったあの日だけ。

 次に空良に会ったとき、まっさきにしたいことがある。僕は空良の写真を撮るのだ。
 そう、ひとつだけ確かなことがある。こんなありさまでも、僕は二度と空良に会えないとは思っていない。僕らが本当に運命の相手なら、こんなに簡単に終わるはずがない。そうじゃないか?

〈運命のつがい〉についてはたくさんの馬鹿げた物語があるけれど、僕が信じる物語はひとつだけだ。
 僕はまた空良に会う。そして二度と離れない。



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