82 / 91
八十二話 行けるのか?
しおりを挟む 近づけば、その山の全貌が見えてきた。
あの鱗、ドラゴンだろうなー。
鳥みたいに丸まって、体に首を埋めるようにして眠っているのではないかと思う。
眠っているうちにその守っているとかいう、白い像をいただきたいところだけど……。
周りは特に何もない。だだっ広い草地でお眠りになっている感じだ。
ってことは……。
身振りでスケボーを貸してと言われ、スコットに貸すと、少し上にあがって上から様子を見ている。
降りてきた。
小声でアダムに報告。
「白い何かをお腹に敷くようにして眠ってる」
マジか。
その時腕輪が点滅して、2時間たったことを知らせた。
移動に2時間かからないぐらいの位置ってことだ。帰りの時間を入れると次の点滅までに白い像をなんとか手に入れないと。
「どうする?」
「奴を起こすしかないだろうな」
「ね、待って。あれを浮かせて下の像を取ればいいんじゃない?」
メランが言った。
「どうやって浮かせるんだよ?」
眉を寄せたヒックに、メランは事も無げに答える。
「それこそ風魔法使える人たちで」
わたしたちは顔を見合わせる。
もしそれができればドラゴンを起こさないで済む。
じゃあ風魔法を使える人でと集まり、早速魔法をかけようとしたところにアダムが待ったをかけた。
もしそれで起こしてしまった場合の対策を練ろうと。
そっか!
起こしてしまった場合、人がわらわらいて、なんだこの小さいのは?と、首を傾げるだけってのは希望的観測すぎるよね。しかも守っている白い像をいただくのだから敵認定されそうだ。
白い像とドラゴンを引き離すことが要だ。
ということで、起こしたら、オトリ部隊がうるさく&攻撃してドラゴンを引き連れて遠くへ行く。
その間に他の人たちが白い像をなんとかして……脱兎。
さて、そこでどうやって上に出るんだ? という話になった。
わたしたちは上にあがることを考えず、下に降りてしまった。
わたしはうっかり上に上がらなくちゃいけないことを忘れていたんだけど、アダムも考えが至らなかったなんて、そんなことある?
思わず横を見ると。
「僕は自力で上がれる」と言った。
え。
すると後何人かは、自力でいけると言った。
マジか。
3メートル飛び上がれるとか、おかしいでしょ。
無駄に高い運動能力、少しはわたしに寄越しやがれ。
その人たちは自力で上がってもらうとして。
「……ドラゴンを風魔法で浮かせられるなら、みんなのこともひとりずつ浮かせられるんじゃん?」
それもそうか。
「あ、シュタイン、お前、靴の下敷き持ってない?」
「あ、数足分なら」
アスレチックで遊んだ時に貸し出したヤツは収納ポケットに入っている。
わたしたちは作戦を立てる。
風魔法を使える子がドラゴンを浮かせる。
浮かすことができたら、その間に下にある白い像を他の人たちがどうにかする。
もしドラゴンを起こしてしまって、攻撃されそうになったら。
オトリ部隊が連れて穴と反対方向へドラゴンを連れていく。
その間に白い像をいただく。
さて、それが持ち上げられないくらい大きかった場合だけど、どうする?と。
ところで、このドラゴンは森に生息する物なのか先生が作り上げた物なのかと誰かが言った。
今、それ考える必要がある?とこれまた声がした。
「でも、本当にいるドラゴンなのだとしたら、守っているぐらいだから大切な物なのに、それを全部持っていくのは可哀想」
とダリアが言った。
その優しい呟きに、みんな自分勝手な心根を反省した。
「そうだね、ドラゴンに悪いから、一部だけちょっともらおうか」
レニータがまとめる。
みんなそれに異論はなかった。
ただ一部を取り壊す方法があるかも、見てみないとわからないところではある。
でもまぁ、状態を見るまでは対策は立てられないので、なんとか一部を切り取ることにする。
もし一部を取ることができたら、そのまま穴まで戻って上にいく。それを見届けたらオトリ部隊もドラゴンの隙をつき、上に逃げる。
もし白い像を一部にすることができなかったら、丸ごと。
上に運べればいいし、ドラゴンがそれを許さなかったら、総力あげてドラゴンを倒すしかない。
ペアも離れてはいけないけれど、この草地の中なら離れたとまでは言われないだろうと、アダムはオトリ部隊で、わたしは風魔法の部隊だ。
オトリ部隊の自力では上がれない子に、トランポリンの靴の下敷きを渡した。
さ、作戦開始だ。
近づくと、閉じているまぶたがわたしが丸くなったぐらいの大きさだから、やはり大きい。風魔法を使ってみんなでドラゴンを浮かそうと試みる。
わたしたちは声を立てないようにして、身振りで息を合わせ、浮かす。
う、尻尾が浮かない。水平に持ち上がるように調整をかける。
先生が見ているわけではないので、ちょっとぐらいオーバーして魔法を使ってもわからないだろう。
ドラゴンが浮き上がる。1メートルぐらい上がった。
他の子たちがおっかなびっくり白い像に手をかけた。
大人の人ほどの大きさのものだった。
何人もでえっちらほっちら動かす。丸ごと運ぶのは大変そうだ。
「何の像なんだろう?」
「……これって、骨?」
白い像に触れたドムが、怯えた声を出した。
そう言われてみると、ものすごく大きなものの骨の一部という感じだ。骨だった場合、人間ではあり得ない。もっと大きな魔物……。
密かに鑑定すると〝風のドラゴンの骨〟とでた。
え。ドラゴンが守っている白い像は同じ風のドラゴンの骨。
なんかそれは胸を突かれる思いがした。
「犬が骨隠してる、あれとは違った感じだよね?」
「うん、大きいってドラゴンの骨だったりして」
「え? そういえばこいつ一人でいるんだよな、こんな魔の森に」
グラッとドラゴンが揺れた。
誰かの魔法が弱くなったみたいだ。
「とりあえず、これもっとこっちに出そう」
7人がかりで白いものを動かし、元の場所にドラゴンを下ろした。
近くにドラゴンがいるのは精神衛生上大変よろしくないが、このまま白い物を丸ごと運びつづけるのは重たすぎるみたいだ。
比較的真っ直ぐな太い骨に突起のように水平に伸びているいくつかの細目の骨。こちらを折っていただいて行こうということになった。
細い方でも、短剣を当てたぐらいじゃなかなか折れない。
わたしは肩を叩かれた。
「ん、何?」
次に短剣を当てる時に、風で援護するか。
「ん、だから何、ダリア?」
振り返るとダリアは涙目だった。
「どしたの?」
びっくりして聞くと、ダリアは人差し指で横をさす。
指の先にはドラゴンが首を丸まった体の中に置くようにしていて、何も変わりはない。
いや、変わりなく、ない。子供が丸まった大きさはありそうなまぶたはなく、代わりに縦の瞳孔の目がこちらを見ていた。
あの鱗、ドラゴンだろうなー。
鳥みたいに丸まって、体に首を埋めるようにして眠っているのではないかと思う。
眠っているうちにその守っているとかいう、白い像をいただきたいところだけど……。
周りは特に何もない。だだっ広い草地でお眠りになっている感じだ。
ってことは……。
身振りでスケボーを貸してと言われ、スコットに貸すと、少し上にあがって上から様子を見ている。
降りてきた。
小声でアダムに報告。
「白い何かをお腹に敷くようにして眠ってる」
マジか。
その時腕輪が点滅して、2時間たったことを知らせた。
移動に2時間かからないぐらいの位置ってことだ。帰りの時間を入れると次の点滅までに白い像をなんとか手に入れないと。
「どうする?」
「奴を起こすしかないだろうな」
「ね、待って。あれを浮かせて下の像を取ればいいんじゃない?」
メランが言った。
「どうやって浮かせるんだよ?」
眉を寄せたヒックに、メランは事も無げに答える。
「それこそ風魔法使える人たちで」
わたしたちは顔を見合わせる。
もしそれができればドラゴンを起こさないで済む。
じゃあ風魔法を使える人でと集まり、早速魔法をかけようとしたところにアダムが待ったをかけた。
もしそれで起こしてしまった場合の対策を練ろうと。
そっか!
起こしてしまった場合、人がわらわらいて、なんだこの小さいのは?と、首を傾げるだけってのは希望的観測すぎるよね。しかも守っている白い像をいただくのだから敵認定されそうだ。
白い像とドラゴンを引き離すことが要だ。
ということで、起こしたら、オトリ部隊がうるさく&攻撃してドラゴンを引き連れて遠くへ行く。
その間に他の人たちが白い像をなんとかして……脱兎。
さて、そこでどうやって上に出るんだ? という話になった。
わたしたちは上にあがることを考えず、下に降りてしまった。
わたしはうっかり上に上がらなくちゃいけないことを忘れていたんだけど、アダムも考えが至らなかったなんて、そんなことある?
思わず横を見ると。
「僕は自力で上がれる」と言った。
え。
すると後何人かは、自力でいけると言った。
マジか。
3メートル飛び上がれるとか、おかしいでしょ。
無駄に高い運動能力、少しはわたしに寄越しやがれ。
その人たちは自力で上がってもらうとして。
「……ドラゴンを風魔法で浮かせられるなら、みんなのこともひとりずつ浮かせられるんじゃん?」
それもそうか。
「あ、シュタイン、お前、靴の下敷き持ってない?」
「あ、数足分なら」
アスレチックで遊んだ時に貸し出したヤツは収納ポケットに入っている。
わたしたちは作戦を立てる。
風魔法を使える子がドラゴンを浮かせる。
浮かすことができたら、その間に下にある白い像を他の人たちがどうにかする。
もしドラゴンを起こしてしまって、攻撃されそうになったら。
オトリ部隊が連れて穴と反対方向へドラゴンを連れていく。
その間に白い像をいただく。
さて、それが持ち上げられないくらい大きかった場合だけど、どうする?と。
ところで、このドラゴンは森に生息する物なのか先生が作り上げた物なのかと誰かが言った。
今、それ考える必要がある?とこれまた声がした。
「でも、本当にいるドラゴンなのだとしたら、守っているぐらいだから大切な物なのに、それを全部持っていくのは可哀想」
とダリアが言った。
その優しい呟きに、みんな自分勝手な心根を反省した。
「そうだね、ドラゴンに悪いから、一部だけちょっともらおうか」
レニータがまとめる。
みんなそれに異論はなかった。
ただ一部を取り壊す方法があるかも、見てみないとわからないところではある。
でもまぁ、状態を見るまでは対策は立てられないので、なんとか一部を切り取ることにする。
もし一部を取ることができたら、そのまま穴まで戻って上にいく。それを見届けたらオトリ部隊もドラゴンの隙をつき、上に逃げる。
もし白い像を一部にすることができなかったら、丸ごと。
上に運べればいいし、ドラゴンがそれを許さなかったら、総力あげてドラゴンを倒すしかない。
ペアも離れてはいけないけれど、この草地の中なら離れたとまでは言われないだろうと、アダムはオトリ部隊で、わたしは風魔法の部隊だ。
オトリ部隊の自力では上がれない子に、トランポリンの靴の下敷きを渡した。
さ、作戦開始だ。
近づくと、閉じているまぶたがわたしが丸くなったぐらいの大きさだから、やはり大きい。風魔法を使ってみんなでドラゴンを浮かそうと試みる。
わたしたちは声を立てないようにして、身振りで息を合わせ、浮かす。
う、尻尾が浮かない。水平に持ち上がるように調整をかける。
先生が見ているわけではないので、ちょっとぐらいオーバーして魔法を使ってもわからないだろう。
ドラゴンが浮き上がる。1メートルぐらい上がった。
他の子たちがおっかなびっくり白い像に手をかけた。
大人の人ほどの大きさのものだった。
何人もでえっちらほっちら動かす。丸ごと運ぶのは大変そうだ。
「何の像なんだろう?」
「……これって、骨?」
白い像に触れたドムが、怯えた声を出した。
そう言われてみると、ものすごく大きなものの骨の一部という感じだ。骨だった場合、人間ではあり得ない。もっと大きな魔物……。
密かに鑑定すると〝風のドラゴンの骨〟とでた。
え。ドラゴンが守っている白い像は同じ風のドラゴンの骨。
なんかそれは胸を突かれる思いがした。
「犬が骨隠してる、あれとは違った感じだよね?」
「うん、大きいってドラゴンの骨だったりして」
「え? そういえばこいつ一人でいるんだよな、こんな魔の森に」
グラッとドラゴンが揺れた。
誰かの魔法が弱くなったみたいだ。
「とりあえず、これもっとこっちに出そう」
7人がかりで白いものを動かし、元の場所にドラゴンを下ろした。
近くにドラゴンがいるのは精神衛生上大変よろしくないが、このまま白い物を丸ごと運びつづけるのは重たすぎるみたいだ。
比較的真っ直ぐな太い骨に突起のように水平に伸びているいくつかの細目の骨。こちらを折っていただいて行こうということになった。
細い方でも、短剣を当てたぐらいじゃなかなか折れない。
わたしは肩を叩かれた。
「ん、何?」
次に短剣を当てる時に、風で援護するか。
「ん、だから何、ダリア?」
振り返るとダリアは涙目だった。
「どしたの?」
びっくりして聞くと、ダリアは人差し指で横をさす。
指の先にはドラゴンが首を丸まった体の中に置くようにしていて、何も変わりはない。
いや、変わりなく、ない。子供が丸まった大きさはありそうなまぶたはなく、代わりに縦の瞳孔の目がこちらを見ていた。
10
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
日日晴朗 ―異性装娘お助け日記―
優木悠
歴史・時代
―男装の助け人、江戸を駈ける!―
栗栖小源太が女であることを隠し、兄の消息を追って江戸に出てきたのは慶安二年の暮れのこと。
それから三カ月、助っ人稼業で糊口をしのぎながら兄をさがす小源太であったが、やがて由井正雪一党の陰謀に巻き込まれてゆく。
月の後半のみ、毎日10時頃更新しています。
剣客居酒屋 草間の陰
松 勇
歴史・時代
酒と肴と剣と闇
江戸情緒を添えて
江戸は本所にある居酒屋『草間』。
美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。
自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。
多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。
その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。
店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
蘭癖高家
八島唯
歴史・時代
一八世紀末、日本では浅間山が大噴火をおこし天明の大飢饉が発生する。当時の権力者田沼意次は一〇代将軍家治の急死とともに失脚し、その後松平定信が老中首座に就任する。
遠く離れたフランスでは革命の意気が揚がる。ロシアは積極的に蝦夷地への進出を進めており、遠くない未来ヨーロッパの船が日本にやってくることが予想された。
時ここに至り、老中松平定信は消極的であるとはいえ、外国への備えを画策する。
大権現家康公の秘中の秘、後に『蘭癖高家』と呼ばれる旗本を登用することを――
※挿絵はAI作成です。

本能のままに
揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった
もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください!
※更新は不定期になると思います。

奇妙丸
0002
歴史・時代
信忠が本能寺の変から甲州征伐の前に戻り歴史を変えていく。登場人物の名前は通称、時には新しい名前、また年月日は現代のものに。if満載、本能寺の変は黒幕説、作者のご都合主義のお話。
下田物語 -幕末の風景-
夢酔藤山
歴史・時代
幕末、下田。
どこよりも真っ先に海外に接した場所。少女・きちや、のちの通辞・村山滝蔵と西川助蔵に写真家・下岡蓮杖など、若い力が芽吹いた場所。そして、幕末の世相に翻弄された彼女たちの涙と笑いの染みた場所。
いざ。下田から、ニッポンが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる