10 / 91
十話 臆病者
しおりを挟む
「敵なのが、惜しいくらいだ」
「・・・・・・俺がこんなこと言うのもなんだが、さっきの奴らに対して何もないのか?」
「死んだのは弱かったからだ。それは仕方のないこと。それとも、馬鹿みたいに涙を流して悲しんだり、怒った方がよかったか?」
「・・・・・・いや、聞いた俺が馬鹿だった」
玉穂は宗太の日本刀をじっと見た。
「・・・・・・その刀のことは佐吉から聞いてるが、お前の妖気を混ぜて打ったんだってな」
「ああ、そうだ。まあ、打ったのは一本踏鞴の康夫だが・・・・・・」
「その刀は、おまえが死んでも消えないのか?」
「妖気のみで作ったわけじゃねえから、消えはしない」
「じゃあ、刀に混ぜた妖気はどうなるんだ?」
「・・・・・・それはわからねえな」
「そうか・・・・・・ちなみに刀は、他の奴でも使うことはできるのか?」
「持つことはできるだろうが、なんせ俺の刀は枷がついてるからな。まともには使えないだろう・・・・・・人に危害を与える奴には・・・・・・」
「じゃあ人が手にした時、その刀からおまえが使っていた風車や風独楽などの術を放つことは可能か?」
「それは無理だ。人に限らず、俺以外の妖怪にもできない。俺と同じ妖気でもない限り」
「・・・・・・そうか、話はここまでにしよう・・・・・・雷身!」
玉穂は身体中をバチバチさせ始めた。
「!・・・・・・」
宗太はじっと、玉穂を見る。
玉穂がその場からいなくなる。それと同時に宗太が左から右に水平斬りする。
玉穂はいつの間にか、右手で金扇を右横に上げたまま、宗太の斜め後ろにいた。そして、宗太の左腕が宙を舞い、身体の中心から左脇下まで切り裂かれていた。宗太は刀を落とし、右手で胸を押さえ、膝から崩れ落ちるように倒れた。
それと同時に玉穂の身体中をバチバチさせていたのが消えた。左肩を押さえながら、玉穂が口を開く。
「今ので、わっちに傷をつけるとは、なかなかだな」
「───名主さん!」
風毬の効果が切れて、風太は宗太に駆け寄った。
「しっかりして下さい!」
「・・・・・・風太」
宗太の身体から妖気が漏れ出した。
「俺はもう・・・・・・助からねえ」
「何言ってるんですか!諦めないで下さい!」
「俺の刀を持って・・・・・・逃げろ・・・・・・じゃねえとおまえが──」
宗太は動かなくなった。
「死なないで下さい!ゴホゴホ」
泣きながら、宗太にしがみつく風太。しかし、宗太は跡形もなく消え、残ったのは日本刀のみだった。
「さて、別れの挨拶は終わったか?」
「・・・・・・」
「わっちが作った金扇も、なかなかやるもんだろ?」
風太は、涙を流しながら、宗太の持っていた日本刀を玉穂に向かって構えた。
「止めとけ。切先が震えてるぞ」
「・・・・・・」
「刀の妖気は残ってるようだが、まあいい」
玉穂は勾玉に口をつけた。
「ん?」
玉穂は勾玉から口から離し、唇を舌で舐めた。そして、口元が緩んだ。遺体となった咲を見る。
「・・・・・・あの娘の約束を守ってやるか」
「?」
「おまえを殺すのは旦那様を解放してからだ」
何を言ってるんだ?こいつは・・・・・・と思った風太。何を企んでると聞きたかったが、恐怖で声が出なかった。玉穂はそれを悟ったのか、風太の思ったことを答える。
「深い理由はない。ただ、旦那様にもお前の負の感情を味わってもらいたいと思っただけだ・・・・・・だから、今回は見逃してやる。それまでがんばって生きな」
意味がわからない・・・・・・それより、動け!このまま逃がすな!奴を・・・・・・と思うが、震えと涙は止まらず、動かない。
「それじゃあ。また、会う日まで──臆病者」
玉穂はニヤリと笑い、一瞬で姿を消した。
しばらくして、風太は膝から崩れ落ち、手から刀が落ちた。地面に手を着いて、さらにぼろぼろと涙を流した。
「あああああああっ」
自分が許せなかった。何もできず、涙を流して、震わせていた自分に。
「オイラがもっと強ければ・・・・・・」
雨がぽつぽつ降ってきた。それは段々に強くなり、激しい大雨となった。しかし、風太はそのまま、地面に座り込んだ。まるで自分に罰を与えるかのように・・・・・・。
「・・・・・・俺がこんなこと言うのもなんだが、さっきの奴らに対して何もないのか?」
「死んだのは弱かったからだ。それは仕方のないこと。それとも、馬鹿みたいに涙を流して悲しんだり、怒った方がよかったか?」
「・・・・・・いや、聞いた俺が馬鹿だった」
玉穂は宗太の日本刀をじっと見た。
「・・・・・・その刀のことは佐吉から聞いてるが、お前の妖気を混ぜて打ったんだってな」
「ああ、そうだ。まあ、打ったのは一本踏鞴の康夫だが・・・・・・」
「その刀は、おまえが死んでも消えないのか?」
「妖気のみで作ったわけじゃねえから、消えはしない」
「じゃあ、刀に混ぜた妖気はどうなるんだ?」
「・・・・・・それはわからねえな」
「そうか・・・・・・ちなみに刀は、他の奴でも使うことはできるのか?」
「持つことはできるだろうが、なんせ俺の刀は枷がついてるからな。まともには使えないだろう・・・・・・人に危害を与える奴には・・・・・・」
「じゃあ人が手にした時、その刀からおまえが使っていた風車や風独楽などの術を放つことは可能か?」
「それは無理だ。人に限らず、俺以外の妖怪にもできない。俺と同じ妖気でもない限り」
「・・・・・・そうか、話はここまでにしよう・・・・・・雷身!」
玉穂は身体中をバチバチさせ始めた。
「!・・・・・・」
宗太はじっと、玉穂を見る。
玉穂がその場からいなくなる。それと同時に宗太が左から右に水平斬りする。
玉穂はいつの間にか、右手で金扇を右横に上げたまま、宗太の斜め後ろにいた。そして、宗太の左腕が宙を舞い、身体の中心から左脇下まで切り裂かれていた。宗太は刀を落とし、右手で胸を押さえ、膝から崩れ落ちるように倒れた。
それと同時に玉穂の身体中をバチバチさせていたのが消えた。左肩を押さえながら、玉穂が口を開く。
「今ので、わっちに傷をつけるとは、なかなかだな」
「───名主さん!」
風毬の効果が切れて、風太は宗太に駆け寄った。
「しっかりして下さい!」
「・・・・・・風太」
宗太の身体から妖気が漏れ出した。
「俺はもう・・・・・・助からねえ」
「何言ってるんですか!諦めないで下さい!」
「俺の刀を持って・・・・・・逃げろ・・・・・・じゃねえとおまえが──」
宗太は動かなくなった。
「死なないで下さい!ゴホゴホ」
泣きながら、宗太にしがみつく風太。しかし、宗太は跡形もなく消え、残ったのは日本刀のみだった。
「さて、別れの挨拶は終わったか?」
「・・・・・・」
「わっちが作った金扇も、なかなかやるもんだろ?」
風太は、涙を流しながら、宗太の持っていた日本刀を玉穂に向かって構えた。
「止めとけ。切先が震えてるぞ」
「・・・・・・」
「刀の妖気は残ってるようだが、まあいい」
玉穂は勾玉に口をつけた。
「ん?」
玉穂は勾玉から口から離し、唇を舌で舐めた。そして、口元が緩んだ。遺体となった咲を見る。
「・・・・・・あの娘の約束を守ってやるか」
「?」
「おまえを殺すのは旦那様を解放してからだ」
何を言ってるんだ?こいつは・・・・・・と思った風太。何を企んでると聞きたかったが、恐怖で声が出なかった。玉穂はそれを悟ったのか、風太の思ったことを答える。
「深い理由はない。ただ、旦那様にもお前の負の感情を味わってもらいたいと思っただけだ・・・・・・だから、今回は見逃してやる。それまでがんばって生きな」
意味がわからない・・・・・・それより、動け!このまま逃がすな!奴を・・・・・・と思うが、震えと涙は止まらず、動かない。
「それじゃあ。また、会う日まで──臆病者」
玉穂はニヤリと笑い、一瞬で姿を消した。
しばらくして、風太は膝から崩れ落ち、手から刀が落ちた。地面に手を着いて、さらにぼろぼろと涙を流した。
「あああああああっ」
自分が許せなかった。何もできず、涙を流して、震わせていた自分に。
「オイラがもっと強ければ・・・・・・」
雨がぽつぽつ降ってきた。それは段々に強くなり、激しい大雨となった。しかし、風太はそのまま、地面に座り込んだ。まるで自分に罰を与えるかのように・・・・・・。
10
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
妖刀 益荒男
地辻夜行
歴史・時代
東西南北老若男女
お集まりいただきました皆様に
本日お聞きいただきますのは
一人の男の人生を狂わせた妖刀の話か
はたまた一本の妖刀の剣生を狂わせた男の話か
蓋をあけて見なけりゃわからない
妖気に魅入られた少女にのっぺらぼう
からかい上手の女に皮肉な忍び
個性豊かな面子に振り回され
妖刀は己の求める鞘に会えるのか
男は己の尊厳を取り戻せるのか
一人と一刀の冒険活劇
いまここに開幕、か~い~ま~く~
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます!
平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。
『事実は小説よりも奇なり』
この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに……
歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。
過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い
【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形
【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人
【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある
【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
剣客居酒屋 草間の陰
松 勇
歴史・時代
酒と肴と剣と闇
江戸情緒を添えて
江戸は本所にある居酒屋『草間』。
美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。
自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。
多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。
その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。
店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
旧式戦艦はつせ
古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる