妖戦刀義

和山忍

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十話 臆病者

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「敵なのが、惜しいくらいだ」

「・・・・・・俺がこんなこと言うのもなんだが、さっきの奴らに対して何もないのか?」

「死んだのは弱かったからだ。それは仕方のないこと。それとも、馬鹿みたいに涙を流して悲しんだり、怒った方がよかったか?」

「・・・・・・いや、聞いた俺が馬鹿だった」

 玉穂は宗太の日本刀をじっと見た。

「・・・・・・その刀のことは佐吉から聞いてるが、お前の妖気を混ぜて打ったんだってな」

「ああ、そうだ。まあ、打ったのは一本踏鞴いっぽんだたら康夫やすおだが・・・・・・」

「その刀は、おまえが死んでも消えないのか?」

「妖気のみで作ったわけじゃねえから、消えはしない」

「じゃあ、刀に混ぜた妖気はどうなるんだ?」

「・・・・・・それはわからねえな」

「そうか・・・・・・ちなみに刀は、他の奴でも使うことはできるのか?」

「持つことはできるだろうが、なんせ俺の刀は枷がついてるからな。まともには使えないだろう・・・・・・人に危害を与える奴には・・・・・・」

「じゃあ人が手にした時、その刀からおまえが使っていた風車や風独楽などの術を放つことは可能か?」

「それは無理だ。人に限らず、俺以外の妖怪にもできない。俺と同じ妖気でもない限り」

「・・・・・・そうか、話はここまでにしよう・・・・・・雷身!」

 玉穂は身体中をバチバチさせ始めた。

「!・・・・・・」

 宗太はじっと、玉穂を見る。

 玉穂がその場からいなくなる。それと同時に宗太が左から右に水平斬りする。 

 玉穂はいつの間にか、右手で金扇を右横に上げたまま、宗太の斜め後ろにいた。そして、宗太の左腕が宙を舞い、身体の中心から左脇下まで切り裂かれていた。宗太は刀を落とし、右手で胸を押さえ、膝から崩れ落ちるように倒れた。

 それと同時に玉穂の身体中をバチバチさせていたのが消えた。左肩を押さえながら、玉穂が口を開く。

「今ので、わっちに傷をつけるとは、なかなかだな」

「───名主さん!」

 風毬の効果が切れて、風太は宗太に駆け寄った。

「しっかりして下さい!」

「・・・・・・風太」

 宗太の身体から妖気が漏れ出した。

「俺はもう・・・・・・助からねえ」

「何言ってるんですか!諦めないで下さい!」

「俺の刀を持って・・・・・・逃げろ・・・・・・じゃねえとおまえが──」

 宗太は動かなくなった。

「死なないで下さい!ゴホゴホ」

 泣きながら、宗太にしがみつく風太。しかし、宗太は跡形もなく消え、残ったのは日本刀のみだった。

「さて、別れの挨拶は終わったか?」

「・・・・・・」

「わっちが作った金扇も、なかなかやるもんだろ?」

 風太は、涙を流しながら、宗太の持っていた日本刀を玉穂に向かって構えた。

「止めとけ。切先が震えてるぞ」

「・・・・・・」

「刀の妖気は残ってるようだが、まあいい」

 玉穂は勾玉に口をつけた。

「ん?」

 玉穂は勾玉から口から離し、唇を舌で舐めた。そして、口元が緩んだ。遺体となった咲を見る。

「・・・・・・あの娘の約束を守ってやるか」

「?」

「おまえを殺すのは旦那様を解放してからだ」

 何を言ってるんだ?こいつは・・・・・・と思った風太。何を企んでると聞きたかったが、恐怖で声が出なかった。玉穂はそれを悟ったのか、風太の思ったことを答える。

「深い理由はない。ただ、旦那様にもお前の負の感情を味わってもらいたいと思っただけだ・・・・・・だから、今回は見逃してやる。それまでがんばって生きな」

 意味がわからない・・・・・・それより、動け!このまま逃がすな!奴を・・・・・・と思うが、震えと涙は止まらず、動かない。

「それじゃあ。また、会う日まで──臆病者」

 玉穂はニヤリと笑い、一瞬で姿を消した。

 しばらくして、風太は膝から崩れ落ち、手から刀が落ちた。地面に手を着いて、さらにぼろぼろと涙を流した。

「あああああああっ」

自分が許せなかった。何もできず、涙を流して、震わせていた自分に。

「オイラがもっと強ければ・・・・・・」

 雨がぽつぽつ降ってきた。それは段々に強くなり、激しい大雨となった。しかし、風太はそのまま、地面に座り込んだ。まるで自分に罰を与えるかのように・・・・・・。










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