2 / 92
二話 平穏な日々
しおりを挟む
風太は身体が大きくなり、田畑仕事をするようになった。
今日は田に米の苗を植えていた。身体を少し伸ばし、周りを見渡す。田には、まだ苗の植わってない所が多く、風太はまだまだかと思うと、
「おーい、休憩だ!」
宗太の声が聞こえた。風太は田から出る。桶に貯めてた水で手足を洗い、座って休む。
「風太兄ちゃん!」
風太は声のする方に顔を向ける。そこには五歳くらいの男の子二人と、女の子一人がいた。
「なんだ?」
「独楽の綱渡りやって!」
男の子が風太に独楽を渡す。
「できるかな?ちょっと待ってて」
独楽に紐を巻いていく。
「危ないから離れて・・・・・・よっしょ」
独楽を勢いよく投げ、紐が完全に離れる前に、手元に引っ張った。独楽は右手に乗ったものの、しばらくして回らなくなった。
「ああぁ」
風太と子供達が残念そうに叫ぶ。
「やっぱ難しいなぁ」
風太が頭を掻きながら言った。
「どうした?」
「名主さん」
「おっ独楽か?」
「はい。今、子供達に綱渡りせがまれたんですけど、上手くいかなくて・・・・・・」
「どれ、貸してみ」
宗太は独楽を紐で巻いていく。
「離れてな・・・・・・よっと」
独楽を勢いよく投げ、自分の手元に引っ張った。独楽は右手に乗り、そこから独楽を紐に乗せて綱渡りさせた。
「おお」
「わあ」
「すごーい!」
その後も宗太は独楽の回転が止まるまで何度も綱渡りさせた。
「ありがとうございます!」
子供達はお礼を言うと、独楽を持って去って行った。
「相変わらず、上手いですね」
「褒めても何もでないぞ」
そう言いながら、宗太は顔をにこにこさせる。
「あれって、名主さんが作った独楽ですよね?」
「ああ」
「オイラも独楽や竹とんぼ、風車を作ってもらいましたっけ」
「だな」
「オイラも父ちゃんに、綱渡りせがんだけど・・・・・・」
「・・・・・・できなかったんだろ?」
「ええ」
「不器用だったからな」
「そういえば、名主さんと父ちゃんって仲いいですけど、幼馴染だったんですか?」
「いや、佐吉に会ったのは大人になってからだ。お互い助けられてな」
「へえー」
「ちなみに川次郎は、佐吉に命を助けられたと言ってたな」
「そうなんだ」
「ああ。そろそろ、田植え始めるか」
「はい」
そこから時は流れ、夕刻。
「ただいま」
「おかえり」
風太が家に帰ってくると、十六歳くらいの口角に黒子と豊満な胸をした少女が応える。
「咲姉、来てたの?」
「うん、さっきまで陽子さんと少しお話してたんだけど、疲れて寝ちゃったみたい」
陽子の方を見る。
「どうもありがとう」
「いいえ。今、夕餉作るから、待ってて」
「オイラも手伝うよ」
しばらくして、食材を入れ、鍋で煮るだけになった時に、咲が風太に話し掛ける
「今日、田植えお疲れ様」
「うん、まだ終わってはないけど」
「でも、お父は田植え早いから、後二日くらいで終わっちゃうんじゃないの?」
「かもしれないね。オイラの二倍いや五倍早いし。名主さん、人間じゃないよ」
「うん、そうね」
「手先も器用だし、面倒見も良いし、ほんと凄い人だよ。ご飯なんか結構食べてるんじゃない?」
「ううん、お父って、ああ見えて少食なのよ」
「そうなの?意外!」
「でも、それですごい体力あるの。不思議よね?」
「ほんとだね」
「あたしはそんなお父が好き。血の繋がりのないあたしを、ここまで育ててくれたし」
「えっ?名主さんと血繋がってないの?」
「あれ、言ってなかった?」
「今、初めて聞いた」
「そっか、ごめん」
「謝ることじゃないけど、驚いた」
「うん。前のお父が死んで、数年後くらいにお母と婚姻したんだ」
「そうだったんだ」
風太はちらっと陽子の方を見た。
「どうしたの?」
「いや、オイラの父ちゃんは今も必死で、病気を治せる者を探してるのかなと思ってさ」
「・・・・・・そうだね」
その頃、風太達の村から約十里(約三十九キロメートル)離れた森の中で、獣の激しい悲鳴が聞こえた。
そこには倒れた猪と、激しく息を切らした佐吉がいた。
「・・・・・・夕餉にするか」
今日は田に米の苗を植えていた。身体を少し伸ばし、周りを見渡す。田には、まだ苗の植わってない所が多く、風太はまだまだかと思うと、
「おーい、休憩だ!」
宗太の声が聞こえた。風太は田から出る。桶に貯めてた水で手足を洗い、座って休む。
「風太兄ちゃん!」
風太は声のする方に顔を向ける。そこには五歳くらいの男の子二人と、女の子一人がいた。
「なんだ?」
「独楽の綱渡りやって!」
男の子が風太に独楽を渡す。
「できるかな?ちょっと待ってて」
独楽に紐を巻いていく。
「危ないから離れて・・・・・・よっしょ」
独楽を勢いよく投げ、紐が完全に離れる前に、手元に引っ張った。独楽は右手に乗ったものの、しばらくして回らなくなった。
「ああぁ」
風太と子供達が残念そうに叫ぶ。
「やっぱ難しいなぁ」
風太が頭を掻きながら言った。
「どうした?」
「名主さん」
「おっ独楽か?」
「はい。今、子供達に綱渡りせがまれたんですけど、上手くいかなくて・・・・・・」
「どれ、貸してみ」
宗太は独楽を紐で巻いていく。
「離れてな・・・・・・よっと」
独楽を勢いよく投げ、自分の手元に引っ張った。独楽は右手に乗り、そこから独楽を紐に乗せて綱渡りさせた。
「おお」
「わあ」
「すごーい!」
その後も宗太は独楽の回転が止まるまで何度も綱渡りさせた。
「ありがとうございます!」
子供達はお礼を言うと、独楽を持って去って行った。
「相変わらず、上手いですね」
「褒めても何もでないぞ」
そう言いながら、宗太は顔をにこにこさせる。
「あれって、名主さんが作った独楽ですよね?」
「ああ」
「オイラも独楽や竹とんぼ、風車を作ってもらいましたっけ」
「だな」
「オイラも父ちゃんに、綱渡りせがんだけど・・・・・・」
「・・・・・・できなかったんだろ?」
「ええ」
「不器用だったからな」
「そういえば、名主さんと父ちゃんって仲いいですけど、幼馴染だったんですか?」
「いや、佐吉に会ったのは大人になってからだ。お互い助けられてな」
「へえー」
「ちなみに川次郎は、佐吉に命を助けられたと言ってたな」
「そうなんだ」
「ああ。そろそろ、田植え始めるか」
「はい」
そこから時は流れ、夕刻。
「ただいま」
「おかえり」
風太が家に帰ってくると、十六歳くらいの口角に黒子と豊満な胸をした少女が応える。
「咲姉、来てたの?」
「うん、さっきまで陽子さんと少しお話してたんだけど、疲れて寝ちゃったみたい」
陽子の方を見る。
「どうもありがとう」
「いいえ。今、夕餉作るから、待ってて」
「オイラも手伝うよ」
しばらくして、食材を入れ、鍋で煮るだけになった時に、咲が風太に話し掛ける
「今日、田植えお疲れ様」
「うん、まだ終わってはないけど」
「でも、お父は田植え早いから、後二日くらいで終わっちゃうんじゃないの?」
「かもしれないね。オイラの二倍いや五倍早いし。名主さん、人間じゃないよ」
「うん、そうね」
「手先も器用だし、面倒見も良いし、ほんと凄い人だよ。ご飯なんか結構食べてるんじゃない?」
「ううん、お父って、ああ見えて少食なのよ」
「そうなの?意外!」
「でも、それですごい体力あるの。不思議よね?」
「ほんとだね」
「あたしはそんなお父が好き。血の繋がりのないあたしを、ここまで育ててくれたし」
「えっ?名主さんと血繋がってないの?」
「あれ、言ってなかった?」
「今、初めて聞いた」
「そっか、ごめん」
「謝ることじゃないけど、驚いた」
「うん。前のお父が死んで、数年後くらいにお母と婚姻したんだ」
「そうだったんだ」
風太はちらっと陽子の方を見た。
「どうしたの?」
「いや、オイラの父ちゃんは今も必死で、病気を治せる者を探してるのかなと思ってさ」
「・・・・・・そうだね」
その頃、風太達の村から約十里(約三十九キロメートル)離れた森の中で、獣の激しい悲鳴が聞こえた。
そこには倒れた猪と、激しく息を切らした佐吉がいた。
「・・・・・・夕餉にするか」
10
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
拾われ子だって、姫なのです!
田古みゆう
歴史・時代
南蛮人、南蛮人って。わたくしはれっきとした倭人よ!
お江戸の町で与力をしている井上正道と、部下の高山小十郎は、二人の赤子をそれぞれ引き取り、千代と太郎と名付け育てることに。
月日は流れ、二人の赤子はすくすくと成長した。見目麗しい姿と珍しい青眼を持つため、周囲からは奇異の眼で見られる。こそこそと噂をされるたび、千代は自分は一体何者なのだろうかと、自身の出自について悩んでいた。唯一同じ青眼を持つ太郎と悩みを分かち合おうにも、何かを知っていそうな太郎はあまり多くを語らない。それがまた千代を悶々とさせていた。
そんな千代を周囲の者は遠巻きに見ながらも、その麗しさに心奪われる者は多く、やがて年頃の千代にも縁談話が持ち上がる。
しかし、当の千代はそんなことには興味がなく。寄ってくる男を、口八丁手八丁で退けてばかり。
果たして勝気な姫様の心を射止める者が、このお江戸にいるのかっ!?
痛快求婚譚、これよりはじまりはじまり〜♪

不屈の葵
ヌマサン
歴史・時代
戦国乱世、不屈の魂が未来を掴む!
これは三河の弱小国主から天下人へ、不屈の精神で戦国を駆け抜けた男の壮大な物語。
幾多の戦乱を生き抜き、不屈の精神で三河の弱小国衆から天下統一を成し遂げた男、徳川家康。
本作は家康の幼少期から晩年までを壮大なスケールで描き、戦国時代の激動と一人の男の成長物語を鮮やかに描く。
家康の苦悩、決断、そして成功と失敗。様々な人間ドラマを通して、人生とは何かを問いかける。
今川義元、織田信長、羽柴秀吉、武田信玄――家康の波乱万丈な人生を彩る個性豊かな名将たちも続々と登場。
家康との関わりを通して、彼らの生き様も鮮やかに描かれる。
笑いあり、涙ありの壮大なスケールで描く、単なる英雄譚ではなく、一人の人間として苦悩し、成長していく家康の姿を描いた壮大な歴史小説。
戦国時代の風雲児たちの活躍、人間ドラマ、そして家康の不屈の精神が、読者を戦国時代に誘う。
愛、友情、そして裏切り…戦国時代に渦巻く人間ドラマにも要注目!
歴史ファン必読の感動と興奮が止まらない歴史小説『不屈の葵』
ぜひ、手に取って、戦国時代の熱き息吹を感じてください!
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
16世紀のオデュッセイア
尾方佐羽
歴史・時代
【第13章を夏ごろからスタート予定です】世界の海が人と船で結ばれていく16世紀の遥かな旅の物語です。
12章は16世紀後半のフランスが舞台になっています。
※このお話は史実を参考にしたフィクションです。
大江戸怪物合戦 ~禽獣人譜~
七倉イルカ
歴史・時代
文化14年(1817年)の江戸の町を恐怖に陥れた、犬神憑き、ヌエ、麒麟、死人歩き……。
事件に巻き込まれた、若い町医の戸田研水は、師である杉田玄白の助言を得て、事件解決へと協力することになるが……。
以前、途中で断念した物語です。
話はできているので、今度こそ最終話までできれば…
もしかして、ジャンルはSFが正しいのかも?
【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部
山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。
これからどうかよろしくお願い致します!
ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。
鬼を討つ〜徳川十六将・渡辺守綱記〜
八ケ代大輔
歴史・時代
徳川家康を天下に導いた十六人の家臣「徳川十六将」。そのうちの1人「槍の半蔵」と称され、服部半蔵と共に「両半蔵」と呼ばれた渡辺半蔵守綱の一代記。彼の祖先は酒天童子を倒した源頼光四天王の筆頭で鬼を斬ったとされる渡辺綱。徳川家康と同い歳の彼の人生は徳川家康と共に歩んだものでした。渡辺半蔵守綱の生涯を通して徳川家康が天下を取るまでの道のりを描く。表紙画像・すずき孔先生。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる