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話第百十一話 元父その十三
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「家を出た後、私はこれで子供の世話から解放されると思った。美味しい物を食べたり、旅行に行ったり、趣味にも没頭した。妻も独り占めできた」
「・・・・・・」
「けど、その度になぜだか幸の顔がちらついた」
「え!」
「最初はちらつく程度だったのが、徐々にこれを幸がやったり、食べたらどんな顔するんだろうと考えるようになっていた」
「・・・・・・」
「一応言うが、これは嘘ではない。神に誓ってもいい・・・・・・それで三年前に妻が亡くなり、寂しさからか幸に会いたくなった」
「・・・・・・」
「私は見立市にある探偵事務所に依頼して、幸の居場所を見つけてもらった」
「ちょっと待って!前にあたしのことは永戸で偶然見つけたって・・・・・・」
「あれは嘘だ。ほんとのこと言ったら、ドン引きして怒ると思った」
・・・・・・確かに。
「幼稚園で働いてることを知って、幼稚園にも行った。とても楽しそうに仕事をしていたな」
気が付かなかった。
「その時はそれでもう満足したように思った。所がその二年半後くらいに・・・・・・末期の腺癌と診断され、余命宣告もされた」
「・・・・・・」
「そしたら、お前にまた会いたくなった」
「・・・・・・それで会いに?」
「そうだ。幸はあからさまに嫌がっていたが、それでも私は不思議と嫌じゃなかった」
「・・・・・・」
「正直言うと、死んだ妻がいる時に幸を何度か引き取ろうと考えたこともあった。でも、私は幸に対してひどいことを言った。そんなことをする資格も権利はないし、幸が拒否するのは目に見えていた」
そうだね・・・・・・。
「失って初めて、大事な物に気付かされるとは思わなかった」
「・・・・・・」
「・・・・・・ひどいこと言ってすまなかった」
雅彦がベッドの上で頭を下げる。
「!」
「・・・・・・許さなくていい。これは私の自己満足だ」
「・・・・・・わかった」
幸はドアに手を掛ける。
「じゃあね」
「ああ」
幸は病室を出る。
幸の目から涙が零れる。
その一週間後に雅彦は息を引き取った。
「・・・・・・」
「けど、その度になぜだか幸の顔がちらついた」
「え!」
「最初はちらつく程度だったのが、徐々にこれを幸がやったり、食べたらどんな顔するんだろうと考えるようになっていた」
「・・・・・・」
「一応言うが、これは嘘ではない。神に誓ってもいい・・・・・・それで三年前に妻が亡くなり、寂しさからか幸に会いたくなった」
「・・・・・・」
「私は見立市にある探偵事務所に依頼して、幸の居場所を見つけてもらった」
「ちょっと待って!前にあたしのことは永戸で偶然見つけたって・・・・・・」
「あれは嘘だ。ほんとのこと言ったら、ドン引きして怒ると思った」
・・・・・・確かに。
「幼稚園で働いてることを知って、幼稚園にも行った。とても楽しそうに仕事をしていたな」
気が付かなかった。
「その時はそれでもう満足したように思った。所がその二年半後くらいに・・・・・・末期の腺癌と診断され、余命宣告もされた」
「・・・・・・」
「そしたら、お前にまた会いたくなった」
「・・・・・・それで会いに?」
「そうだ。幸はあからさまに嫌がっていたが、それでも私は不思議と嫌じゃなかった」
「・・・・・・」
「正直言うと、死んだ妻がいる時に幸を何度か引き取ろうと考えたこともあった。でも、私は幸に対してひどいことを言った。そんなことをする資格も権利はないし、幸が拒否するのは目に見えていた」
そうだね・・・・・・。
「失って初めて、大事な物に気付かされるとは思わなかった」
「・・・・・・」
「・・・・・・ひどいこと言ってすまなかった」
雅彦がベッドの上で頭を下げる。
「!」
「・・・・・・許さなくていい。これは私の自己満足だ」
「・・・・・・わかった」
幸はドアに手を掛ける。
「じゃあね」
「ああ」
幸は病室を出る。
幸の目から涙が零れる。
その一週間後に雅彦は息を引き取った。
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