浮気されたくない幸の恋愛奮闘記

和山忍

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プロローグ

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 赤いランドセルを背負った小四くらいの少女が、自宅近くで玄関から出る父の姿を見つける。

「パパ!」

「・・・・・・さちか」

「どうしたの?今日は早いね」

「・・・・・・半休を取ったんだ」

「そうなんだ」

 幸は父がスーツ姿にキャリーケースを持っているのに気づく。

「もしかして、今から出張?」

「いや、違う」

「じゃあ、どこに行くの?」

「・・・・・・幸」

「ん?」

「私はこの家を出て行く」

「えっ?」

「そして、私はもうお父さんじゃない」

「何を言ってるの?お父さん⁉」

「だから、もうお父さんじゃないと言ってるだろ」

「意味がわからないよ!ねえお父さん!」

 幸が父のズボンに掴みかかると、父が溜め息をつく。

「口で直接言わなきゃわからないのか?・・・・・・離婚したんだよ」

「離婚⁉なんで?」

「・・・・・・もう、疲れたんだよ。お前の相手をするのに・・・・・・」

「えっ?」

「子供ができれば、可愛くてしょうがないと思ったが・・・・・・そんなことはなかった。実際は大変だし、可愛くも感じない。真知もお前ばかりにかかりきりで、前ほど私の相手をしてくれなくなった。だから、彼女とやり直すんだ」

 父が自分の車を見る。そこには二十代後半くらいの女性が乗っていた。

「彼女とは十三ほど歳が離れている・・・・・・でも、こんな四十歳の若くない私をこよなく愛してくれる。しかも子供はいらないと言ってくれた」

「待ってよ!お父さん、考え直してよ!あたし、お父さんを疲れさせないようにするし、お母さんをかかりきりにさせないようにするから・・・・・・だから、離婚なんてしないでよ!」

「・・・・・・そういうことじゃないんだよ」

「?」

「お前の存在が私を疲れさせ、真知をかかりきりにさせてるんだよ!」

「えっ⁉」

「お前なんて、作らなきゃよかった」

「!」

 幸は掴んでいた父のズボンをゆっくり離した。

 そして、父はそのままキャリーケースを持って、車に向かった。

 幸は追いかける気になれなかった。

 幸は上着の裾を握りしめながら、下を向く。

「・・・・・・」

 父は車を走らせ、去って行く。

 幸は家に入った。靴を脱いで、玄関ホールに上がると、その場に座り込み、

「うわああああん」

 涙を激しくこぼしながら、泣き叫んだ。

「どうしたの?幸」

 目を赤く腫らした三十代前半の女性がリビングから顔を出す。

「お・・・・・・母・・・・・・さん」

「もしかして、離婚のこと・・・・・・お父さんから聞いたの?」

「・・・・・・うん」

 涙をこぼしながら頷く。

「・・・・・・」

 母は幸に近づき、

「!」

 そっと、首元を抱きしめる。手の震えといくらか湿った感じがした。

「・・・・・・」

 幸の涙が止まる。

 この時、母の優しさと同時に悲しさ、辛さが伝わったのか、その後、幸は浮気に対して強く嫌悪を抱くようになった。

 
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