上 下
2 / 2

2話

しおりを挟む
『二話 電車帰り』

 授業が終わると、真っ先に教室を出て最短コースでバス停へむかう。そしてバスに揺られ、中央桜駅で電車に乗り換える。
 そんな電車に今まさに乗っているわけであるが、今日はいつもとは違う。
 普段はイヤホンをし、一人座席の隅でアニソンを大音量で流して楽しむ。とは言っても客観的に見ればただの静かでぼっちな男子高校生。
 そして今日もそうして過ごすはずだったのだが――

 スマホのYoutubeでいつものアニソンメドレーリストを開こうとしていたとき、誰かが俺のすぐ隣に座った。
 一見当たり前のように感じられるかもしれないが、絶対に当たり前なんかじゃない。何故ならば、他の座席はガラ空きであるからだ。
 他に座席が広く有り余っているのにわざわざ隣に――
 それも肩の触れ合いそうな距離でいられると、一体誰なのかが気になってしまう。
 変に思われたらどうしようかなどと思いながらも横目でチラッと見てみる。かなり特徴的なスカートだったので直ぐにわかった。うちの高校の女子だ。

 流石に顔を直接見るのは本当に変に思われそうだったので…… ってよく考えたらわざわざ俺の隣にこんなに距離を詰めて座った隣の女子の方がかなり変だ。
 でもやっぱり誰なのか気になる。そしてわざわざ隣に座るという事には何らかの理由や目的があるはずだ。
 意を決し、サラッと車窓から外を眺める感じで顔をみてみる。

 ――鈴村さんだ。
 相手には顔を直視したことがバレているようなので、気まずさを消す為にも、とりあえず一声かけてみる。
「あ、鈴村さん。ども…」
 鈴村さんも何やらYouTubeで動画を見ていたようだ。こちらの声に気づき、丁寧に両耳のイヤホンを外す。そして、
「どうも」
 とだけ言ってこちらを見つめてくる。
 ――このままじゃ会話が続かない! ピンチ!
 こういうときには、とりあえず目に映ったものについて話せばいい。目に映ったもの…… 鈴村さんのスマホ。
「何の動画を見てらっしゃったんですか?」
 すると鈴村さんはさっきまで真剣に見つめていたスマホの画面を俺に差し出してきた。
 まるでこのときを待ち続けていたかのように、サッとさしていて手際が良かった。もしやこれがわざわざ隣に座った目的では??

 動画タイトルには「ただ声一つ (複合MAD) 」と書かれていた。どうやら今までの人気アニメの名シーンなどを最近流行りの楽曲に合わせて編集したものらしい。
 正直あまり興味はないのだが、ここはやはり鈴村さんからの好感度を得る為にも、
「せっかくなら家でしっかり見たいので、ちょっとこっちのスマホで探してみます」
 と積極的な感じで言って自分のスマホのYouTubeでその動画を検索した。
 そして似た動画が沢山出てきたかと思っていると、なんと鈴村さんが身をこちらに乗り出して、俺のスマホを操作しその動画を探していた。

 鈴村さんはラノベのヒロインほどの美少女とは言えず、俺のタイプでもないのだが、普通にそれなりの可愛さがあるので、あまり近づかれるとドキドキしてしまう……
 自分の心拍数の上昇を察知し、鈴村さんに気づかれてしまったらどうしようかと考えていると。
「ありました。これですね」
 どうやらその動画が見つかったようだ。
 鈴村さんを見るからにはどうやらこちらの動揺には気づかれていないようだ。
 幸せな時間は須臾のように感じられ、いつしか鈴村さんの降車駅のホームに着いていた。
 特徴的なブザー音を鳴らし、扉が開く。
 すると鈴村さんは席を立ち、こちらに軽く手を振って改札へと向かっていくのであった。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

放課後の生徒会室

志月さら
恋愛
春日知佳はある日の放課後、生徒会室で必死におしっこを我慢していた。幼馴染の三好司が書類の存在を忘れていて、生徒会長の楠木旭は殺気立っている。そんな状況でトイレに行きたいと言い出すことができない知佳は、ついに彼らの前でおもらしをしてしまい――。 ※この作品はpixiv、カクヨムにも掲載しています。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

【R18】通学路ですれ違うお姉さんに僕は食べられてしまった

ねんごろ
恋愛
小学4年生の頃。 僕は通学路で毎朝すれ違うお姉さんに… 食べられてしまったんだ……

男女比:1:450のおかしな世界で陽キャになることを夢見る

卯ノ花
恋愛
妙なことから男女比がおかしな世界に転生した主人公が、元いた世界でやりたかったことをやるお話。 〔お知らせ〕 ※この作品は、毎日更新です。 ※1 〜 3話まで初回投稿。次回から7時10分から更新 ※お気に入り登録してくれたら励みになりますのでよろしくお願いします。 ただいま作成中

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

処理中です...