咲かせるのは

乃愛

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第一話

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「好きですっ」
バレンタインの夜、残業中の俺は恋に落ちた。純粋でまっすぐな告白、林檎のように赤く染まった頬と耳、自信なさげに俯いた彼女に俺は言った。
「俺も…好きです。」
彼女は驚きながらも嬉しそうに微笑むと、付き合ってくれますか?と聞いてきた。
俺は頷いて
「よろしく」そう言って笑った。

あれからもう、七ヶ月だ。今でも関係は続いているが、何せお互い仕事が忙しく食事も月2,3回程で、ほぼ毎日会社ですれ違っては会釈するだけであった。まぁ、それでも毎日会えるだけ幸せだと思い、仕事に励んだ。
彼女、近藤さくらは可憐で誰にでも好かれる優等生と言ったところだ。いつも笑顔で仕事が忙しくてもしんどい顔をせず、何でもこなしていた。その上、しっかり者で口が堅いので同僚にも相談をよくされるらしい。20代前半の若者とは思えない頼りがいのある女性であった。
何故そこまで非の打ち所がない子に好かれたのか…全く分からない。
一方の俺、本島奏介は地味で平凡などこにでもいる会社員。暗くて人見知り。滅多に予定が入らないので、部下や同僚の仕事が片付かないと残業を押し付けられる。頼まれたことは断れない性格なのでほとんど毎日残業だ。
さくらとの関係は社内の人間には知られていない。だから、時には彼女が告白されている場面にも出くわす。毎回丁寧に断る彼女を見て安心するが、一方で少し申し訳ない、というか不安な気持ちになる。さくらに告白する男はいつも俺より優れた人ばかりだ。むしろ俺より優れていない人間を探す方が難しいほどなのだから。
でもさくらは、俺を選ぶ。約七ヶ月も俺の隣を歩いている。時には誰にも見せないような笑顔で笑ってくれたり、誰も知らない彼女の表情や姿を知る。そしてまた好きになる。
本当にそれでいいのか。さくらはそれで本当に幸せなのか。俺はさくらを世界の誰よりも幸せにしてあげられるのだろうか。
劣等感と不安で押し潰されそうになる。

そして俺は、彼女の秘密を知ることになる。
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