死ぬほど愛してる

邪神 白猫

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「「お疲れぇ~!」」

「……いやぁ~、ホント久しぶりだよな! 瞬が飲み会に参加するのなんて」

「本当、本当。寂しかったんだぞ~」

「みんな……。ホントごめんっ! これからは前みたく参加できるからさ、またよろしく頼むよ」

「オーケー、オーケー。じゃあ、今日はとことん飲もうなっ!」


 そんな言葉と共に、手元の酒をガブガブと飲み始めるサークル仲間達。流石は飲みサーと言うべきか。
 そのまま次々とグラスを空けていった俺達は、バイトを終えてやって来た颯斗はやとが合流する頃には、だいぶ仕上がった状態になっていた。


「次、カラオケ行こうぜ~! 今日は朝までコースなっ!」


 誰かが発したそんな言葉と共に居酒屋を後にすると、フラフラとおぼつかない足取りで歩道を歩いてゆく。


「おい瞬、大丈夫かぁ~? 弱くなったんじゃないか?」

「かもなぁ~。酒自体、随分と久しぶりだからな……」

「よし、鍛え直すぞっ! 今日は朝まで付き合えよ~?」

「わかった、わかった」


 ご機嫌な様子で酔っ払っている颯斗は、俺の肩に手を掛けるとニッコリと微笑む。ちゃっかりと俺の身体に体重を預けてくる辺り、俺より全然酒が弱いのは相変わらずのようだ。
 そんな颯斗のことを若干重いと感じながらも、この空気感が懐かしくて俺の顔には自然と笑みが溢れる。


「──うわ、マジかよ……」

「……? どうした?」


 ポツリと呟くようにして声を漏らした颯斗の顔を見てみると、そんな俺に向けてチラリと視線を合わせた颯斗。


「瞬……。あれ、莉子りこちゃんじゃね?」


 そう言いながら前方へと視線を移した颯斗。俺はそんな颯斗の視線を追うようにして前を向くと、声にならない声を詰まらせた。


「……っ、」

「な……? あれ、莉子ちゃんだよな」

「ああ……、だな」


 前方にある柱の陰から、こちらの様子をうかがうようにして立っている少女。それは間違いなく彼女の姿で──。
 暗くてその表情まではハッキリとわからないものの、その視線は確かに俺へと向けられている。


「今日、ここに来ること教えたのか?」

「いや……まさか。教えるわけないだろ」

「じゃあ、マジでスト──」

「いやいやマジでないからっ。やめろよ、そんなこと言うの」


 颯斗の言葉を遮るようにして口を挟むと、頭の中でよぎった『ストーカー』という言葉を無理矢理に打ち消す。
 本屋で感じた視線も、きっと彼女だったのだ。そう確信した俺は、面倒なことになってしまったと内心焦った。


「どーすんだよ、瞬」

「いや、どうするもなにも……。もう別れてるんだし、俺には関係ないだろ」


 そんなことを言いつつも、実際にはどうすれば良いのかわからなかった。付き纏いは勿論辞めてもらいたいが、それを伝える為にもう一度彼女と関わるだなんて、想像しただけでどっと疲れる。
 『死ぬ』と泣きわめく彼女をなだめるのに、俺がどれだけの労力を費やしたことか……。やっと別れられたというのに、もう一度関わりを持つだなんてどうしても嫌だったのだ。


「関係ないって言っても、あの子諦めないんじゃね?」

「…………。すぐに他に好きな男でもできるだろうし、その内飽きるだろ」

「……ま、そうだなっ」


 ケロリと笑って見せた颯斗は、そう答えると何事もなかったかのように普段通りの様子を見せる。
 それにならう様にして笑顔を浮かべると、俺は何でもない様な態度を貫くとそのまま彼女の横を通り過ぎた。

 恋多き10代の高校生ともなれば、すぐに新しい恋人でも作って俺のことなど忘れるだろう。きっと、一時的なものなのだ。
 そう思っていた俺の意に反して、彼女の付き纏いはそれから一カ月以上経っても終わらなかった。

 特に何をするでもなくジッと物陰から見つめているだけとはいえ、付き纏われている側からしたら充分に恐ろしい。それは周りにいる友人達も同じだったようで、彼女の姿を見掛ける度に不気味がっては、その内何かされるのではと怯えた。
 そんな状況を作ってしまった事に申し訳なく思いながらも、怒りと恐怖で俺のストレスは限界へと達していた。


「──瞬、大丈夫か?」

「ああ……。けど、流石に参るわ」

「不気味っちゃ不気味だよな……」

「いや、不気味すぎだろ。何がしたいのか意味わかんねぇし」

「相変わらず連絡つかないんだろ?」

「ああ……。面倒だけど、直接家まで行くしかないよな」


 どうやら俺の着信は無視されているらしく、一向に繋がらない彼女の携帯。
 こうなれば直接話そうと試みてみたものの、何故か一瞬の隙に姿を消してしまう彼女。そんな状況が一カ月以上も続き、俺はストーカー行為を辞めるよう伝えたくとも、未だ彼女に伝えられていないのだ。


「家か……けど、実家だろ? それも何だか気不味いよなぁ」

「めちゃくちゃ気不味いだろ……。でもそれしか手段がないから。このままストーカーされ続けるのも嫌だし、仕方ないよな」

「ま、そーだな」


 正直、別れているのにご両親の居る実家にまで顔を出すのはめちゃくちゃ気が重い。付き合っていた時でさえ2回程チラリと顔を合わせただけだというのに、今更どの面下げて顔を合わせればいいというのだ。
 けれど、このままではらちが明かないと思った俺は、取り返しのつかない事になる前にと覚悟を決めた。


「……よしっ。明日にでも行ってくるか」

「おう、頑張れよ」


 俺の肩にポンッと軽く手を乗せた颯斗は、そう言いながら何とも言えない微妙な表情を見せた。


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