君は愛しのバニーちゃん

邪神 白猫

文字の大きさ
上 下
22 / 26

イエス♡マイ・ワイフ

しおりを挟む



「なんで俺達まで行かなきゃならないんだよ……」


 うんざりとした顔でそう告げる大和の腕を掴むと、俺は般若の如く顔でグワッと詰め寄った。


「っ、バカ野郎! 俺一人じゃ心細いだろ!? 受験に失敗したらどーすんだよ!!?」

「……別に瑛斗が受験するわけじゃないだろ」

「まあまあ、いいんじゃんか大和。憧れのJKとお近付きになれるチャンスだぞ? やっぱいいよなぁ……JKって」


 相変わらずうんざりとした顔をしている大和の肩に触れると、遠くの方を見つめてフッと鼻から息を漏らしたたける


「……ハァ。バカだなぁ、健。受験日なんだから在校生が来てるわけないだろ? それに俺彼女いるし。JKになんて興味ない」

「えっ!? JKいねぇの!? しかもサラッと彼女自慢!!? ……っ、瑛斗ぉーー!! お前、JKに会えるだなんて俺のこと騙したな!!?」

「煩い! どーせ暇だろ!? お前は黙って俺に着いてくりゃいーんだよ!」

「おいっ!! それが人に物を頼む態度かよ!?」

「…………。もう、恥ずかしいから二人とも静かにしててくれよ......」


 校門前でそんなやり取りをしている中、俺達の目の前をチラホラと通り掛かってゆく中学生達。そのほとんどが、何事かとこちらに視線を向けながらも、関わりたくないと言わんばかりに無言で通り過ぎてゆく。

 俺達は今、県内の公立高校である『葉練池はれんち高等学校』へと来ている。それは何故かというと、今日が美兎ちゃんの高校受験日だからだ。
 普段の美兎ちゃんの成績を考えると心配は無用なのだが、なにせ高校受験だ。緊張で思わぬミスや体調不良を起こすかもしれない。そう思うと居ても立っても居られなかったのだ。


(やっぱ『家庭教師』として見守る責任はあるしな)


 なんて想いも勿論本当だが、ただ単純に美兎ちゃんに会いたいだけだったりもする。
 ”家庭教師と生徒”という立場を利用して会えるのも、もう残り僅かな時間しか残されていないのだ。


「──瑛斗せんせぇ~!」



 ────!!?



 突然聞こえてきたその可愛らしい声に、すぐさまピクリと反応をみせた俺。右手に収まる潰れた顔の健を押し退けると、駆け寄る美兎ちゃんの姿を眺めて鼻の下を伸ばす。
 その姿は、まさに今俺の胸に向かって飛び込んでこようとしている天使! 俺は迷うことなく両手を広げると、よこしまな感情にまみれた心で曇りなき笑顔を見せた。


(……さぁ! 今すぐ俺の胸に飛び込んでおいで♡♡♡♡)


「瑛斗先生! 本当に来てくれたんだね!? 昨日急に来るってラ○ンが来たからビックリしちゃった! …………。瑛斗先生、どうしたの?」

「…………」


 俺の期待も虚しく、すぐ目の前でピタリと足を止めた美兎ちゃん。両手を開いたまま立ち尽くしている俺を見て、キョトンとした顔を浮かべている。
 相変わらず焦らしプレイがお上手な小悪魔ちゃんだ。この広げた俺の両手は何処いづこへ?

 所在なさげに宙に浮いたままの両手を下ろすと、何事もなかったかのように平静を装う。


「うん、心配だったからね。美兎ちゃん受験お疲れさま。大丈夫だった?」

「うん。ちょっと緊張しちゃったけど……たぶん大丈夫だと思う」


(フグゥゥ……ッ!!! なんて可愛さだっっ♡♡♡)


 寒さのせいか、赤く染まった頬ではにかむような笑顔を見せた美兎ちゃん。その姿がなんとも愛らしくて、今すぐにねぎらいの抱擁をしてあげたい──いや、抱擁したい!


「……そっか、なら良かった」


 抱きしめたい衝動を必死に堪えると、乱れはじめた呼吸を抑えながらとろけた笑顔を向ける。


「健さんと大和さんも来てくれたんですね。わざわざありがとうごさいます」

「受験お疲れ様。無事に受かるといいね」

「う……、じゃなかった。ミトちゃんお疲れ様!」


 健達に視線を移すと、ニッコリと笑って律儀にお礼を伝える美兎ちゃん。流石は良識ある良い子ちゃんだ。


「──美兎ぉ~っ! もうっ、先に行かないでよ~!」


 そんな悪魔の声と共に、ワラワラと集まりだしてきた美兎ちゃんと同じ学校の生徒らしき面々。やはり相当仲が良いのか、どうやら悪魔も美兎ちゃんと同じ高校を受験したらしい。


「……あっ。皆さんこんにちは! 文化祭の時はありがとうございました」

「いやいや、たいした事もしてないから。そっか、イチカちゃんもここ受験したんだ。受かるといいね」

「そうそう、俺ら別にな~んもしてないから。むしろ若い子と一緒に回れてこっちが感謝だよ! 2人とも受かるといいね」
 

 そんなやり取りをすぐ横で聞きながら、俺は集まってきた生徒達にチラリと視線を向けてみた。



 ────!!?



(キ……、サ……ッマァァアーーッッ!!!)


 その中からある人物の姿を見つけ出すと、途端に鬼のような表情へと変貌した俺の顔。


(市橋ぃぃいい……っ!! お前も受験したのかッッ!!!!)


 あの忌々いまいましい思い出を彷彿とさせると、憎しみを込めて『お前は落ちろ』と何度も脳内で唱える。美兎ちゃんを追いかけて(と予想)同じ高校を受験するとは、なんとも憎たらしい少年だ。
 例えどこまでも追いかけようとも、俺の美兎ちゃんは絶対に渡さない。


「あっ。そぉーだ! 今日ね、瑛斗先生が来るって聞いたから昨日作ってきたの。 ……はい、これ。少し早いけどバレンタインチョコ」


 そう告げながら鞄の中を漁ると、俺の目の前に綺麗にラッピングされた箱を差し出した美兎ちゃん。



 ────!!?♡!!?♡!!?♡



 その思わぬ出来事に、鬼のような形相から瞬時に破顔させた俺。あまりの嬉しさから卒倒しそうになるも、それをすんでのところでグッと堪える。
 フーフーと荒い鼻息を上げながら、俺は震える右手で目の前のチョコを受け取った。


(グォォォオオーーッッ!!♡♡!!♡♡!!♡♡!!♡♡)


 脳内で歓喜の雄叫びを上げると、そこかしこに飛び散るピンク色のハートを眺める。これは幻覚だろうか……? ──いや。確かに目の前の美兎ちゃんから溢れ出ているのだ。
 その不思議な現象に夢見心地で浸りながらも、俺は美兎ちゃんを見つめて感涙かんるいした。

 これはまさに、逆プロポーズ!?♡!?♡!?♡!?♡
 ならば俺の答えは一つしかない。特大の愛を込めて──!


(イエ ……ッ、ス……ッッ♡♡♡♡)


「あのぉ……。健さん達も来るって知らなかったので、これしかないんですけど……」


 憐れな健達に向けて、おずおずとチ◯ルチョコを差し出した美兎ちゃん。見るからに義理チョコだとわかるそれを受け取る健達を見て、自分との歴然たる差に満悦しながら慈悲深くも女神様のような美兎ちゃんの姿に見惚れる。
 チラリと生徒達の方を見てみれば、その義理チョコさえも貰えていない市橋がいる。なんとも惨めな少年。これは完全なる俺の圧勝だといえよう。


(……グハハハハハッッ!!! 恐れ入ったか!! 市橋めっ!!!!)


 脳内で悪魔のような笑い声を響かせると、手元の箱にそっと視線を落とす。
 そこにあるのは綺麗にラッピングされた透明な箱。そこから見える、なんとも表現しがたい不思議な型をしたチョコ。それを見て、いつの日か貰ったクッキーが脳裏を掠める。

 俺はいつか──本当に美兎ちゃんに殺される気がする。
 そんなことを薄っすらと考えながらも、それを上回る程の大きな愛と喜びに包まれた俺は、手元の箱を胸元に抱き寄せるとギュッと握りしめた。


(俺の愛するマイ・ワイフ♡    になら、殺されたっていい♡♡♡♡)


 そんなことを考えながら、俺は感無量の涙を大量に流すのだった。





 ──その日の夜。
 まるで爆発物でも入っているのかと疑う程のチョコに、胃袋を破壊れそうになりながらも必死に完食しきった俺。
 その後、数日間に及ぶ謎の腹痛に悩まされたことは……一生美兎ちゃんには秘密だ。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...