18 / 26
感動の名シーン(童話ver.)
しおりを挟む「西校舎の3階か。……了解、っと」
大和からのラ◯ンに『了解』とだけ返信をすると、フーッと小さく息を吐いて携帯をポケットへと入れる。
本来ならば片時も離れずに美兎ちゃんの側に居たいところなのだが、ミスコンの予選に通過していた俺は、やむなく美兎ちゃん達を一旦大和達に任せると、一人ミスコン本戦へと出場してきた。
結果は勿論優勝。4年連続優勝という素晴らしき偉業を成し遂げたその勇姿を、愛する美兎ちゃんに見せてあげられなかったとは……なんとも心苦しい。
とはいえ、未変装姿を晒す事が出来ない以上、仕方のないことなのだ。
(…………。今日だけで既に何回着替えてんだ、俺)
通りすがりのガラス越しに映った自分の姿を眺め、フッと鼻から息を漏らす。
(全く……こんなにも慌しくも刺激的な文化祭は、さすがの俺も生まれて初めての経験だぜ)
天使と見紛う程の可愛らしさで、こんなにも俺を翻弄させる美兎ちゃん。一体この先どこまで小悪魔ちゃんへと進化を遂げてゆくのかと想像すると、俺の心臓が持ち堪えられそうにもなくてちょっと怖い。
──が。そこは這ってでも食らいついてゆく。
「今行くからね~っ♡ 待っててね~♡ 俺の可愛いうさぎちゃんっっ♡♡♡♡」
俺は瞬時にデレッと鼻の下を伸ばすと、ルンタッタ・ルンタッタと軽快に廊下をスキップする。
ほんの少しの間とはいえ、俺と離れてさぞや寂しい思いをしているに違いない。仕方がなかったとはいえ、一刻も早く美兎ちゃんの元へと行かねば──。
ギュルンッと勢いよく角を曲がると、そのまま西校舎の3階廊下を軽快にスキップしてゆく。
(俺の可愛いエンジェルちゃんはどこかなぁ~?♡♡♡♡)
不気味な笑顔を浮かべながら、行き交う人々で混雑している廊下をキョロキョロと見渡す。そんな人集りの中、神々しくも光り輝く天使を見つけ出した俺は、その姿を捉えると驚きに瞳を全開にさせた。
────!!?!!?
(エッッッ!!?!!?)
俺の目に飛び込んできたのは、車椅子に乗って健に押されている美兎ちゃんの姿。一体、俺の居ない間に何があったというのか──。
気付けば、人集りを押し退けて夢中で廊下を駆け抜けていた俺。秒で美兎ちゃんの元へと辿り着くと、勢いよくその場に跪く。
「……っ、ど、どどどど、どうしたのっ!!? 美兎ちゃんっっ!!! 足!!? 足でも挫いちゃった!!? 大丈夫っ!!?!!?」
目の前にある美兎ちゃんの足を凝視しながら、ペタペタと触って隈なくチェックする。万が一にでも傷跡が残ろうものなら、健と大和の腹を2度……いや、3度切腹させたって足りない程の一大事だ。
「バーカ。ちゃんと見てみろって」
「……っ!?」
そんな健の声につられるようにして顔を上げてみると、俺と視線を合わせた美兎ちゃんがニッコリと微笑んだ。
(……っ、ぐぉぉぉおおーー!!! 可愛いっっ♡♡♡♡ 今すぐ抱きしめたいっ!!!!)
驚異的に可愛いエンジェル・スマイルを前に、俺は顔面蒼白だった顔から瞬時に顔を崩すと、鼻の下を全開に伸ばして一気に破顔させる。
「瑛斗先生。これ、コスプレだよ?」
「…………。ふぇ?」
天使を目の前にして、その可愛さのあまり暫し惚けてしまった俺。
告げられた言葉によくよく目の前を見てみれば、何やら美兎ちゃんの服装が先程までと変わっている。
どこか見覚えのある気がする水色のワンピース。そんな美兎ちゃんの隣にチラリと視線を移してみると、そこには赤いワンピースを着た悪魔が立っている。
これは──。
(……あ。ハイジ)
ちゃんと車椅子に乗って移動するとは、なんとも完成度の高いコスプレ。まんまと騙されてしまった。
だが、そのお陰でこうして公然と美兎ちゃんの足にも触れることができたのだ。突然降ってきた、天からのお恵みとも言うべきこの幸運。
後光の差し込む美兎ちゃんを仰ぎ見ると、感動に震える両手をグッと握って喜びを噛み締める。
この手は一生洗わない。
「これ、うちの出し物。本当はコスプレ着て写真撮るだけなんだけど。せっかく遊びに来てくれたからさ、2人には1時間レンタルさせてあげたんだ」
「へっ、へぇ~。そうなんだ……。にににっ、似合ってるね。……大和……っ、本当にありがとう……っ」
こんなにも素晴らしい機会を与えてくれた大和に心から感謝をすると、喜びから溢れ出た涙がキラリと一雫、俺の頬を伝って床へと落ちた。
「瑛斗先生。これね、クララだよ。知ってる?」
「……うん」
ハイジなんて見た事もなければストーリーすらもよく知らなかったが、楽しそうに話す美兎ちゃんの姿を見ているだけで、その可愛らしさから自然と俺の顔は蕩ける。
「じゃあ、あのシーンやるね?」
「うん……っ♡」
美兎ちゃんの言う”あのシーン”が何なのかはよくわからないが、はにかむような笑顔がただただ可愛くて、俺の顔面は蕩ける一方。
車椅子に手を掛け、立ちあがろうとする美兎ちゃんの姿を見守る。
「…………!」
これはあれだ。『クララが立った!』とかいうあのシーン。その名場面らしき部分なら、ハイジを見たことのない俺でも知っている。
そんな事を考えながら、床に片足を置いた美兎ちゃんの姿を眺めていた──次の瞬間。
残されたもう片方の足を車椅子に引っ掛け、俺に向かって倒れてくる美兎ちゃん。その姿は、まさに俺の胸へと飛び込んでくる天使のよう。なんて素敵なアドリブなんだ。
これは──今日一日慌しくも頑張って乗り切った俺へのご褒美なのだろうか?
「っ、……ぐふっ♡」
堪えきれない喜びから、思わず溢れ出た小さな笑い声。俺は迷うことなく両手を広げると、そのご褒美を受け入れる体制に入った。
(さぁ……っ!! 俺の胸に飛び込んでおいで……っ♡♡♡♡)
────ゴンッ!!!!
「フグゥ……ッッ!?♡!?♡」
まるで落雷にでもあったかのような強い衝撃に、強打した顔面を真っ赤にさせるとそのまま卒倒して後ろに向かってぶっ倒れた俺。
予想していた以上に激しい、美兎ちゃんからの求愛行動。どうやら俺の準備では不足だったようだ。
流石は予測不能な小悪魔ちゃん。頭突きとは恐れ入った。
激しすぎるその求愛行動に酔いしれながら、仰向けに倒れたままピクピクと痙攣する。
「……っ、きゃぁぁあーー!! 瑛斗先生っ!!!」
強打した鼻からドクドクと鼻血を流す俺を見て、無事に立ち上がることのできた美兎ちゃんが顔面を蒼白にさせる。
この世の何よりも愛しい、俺の可愛い可愛い天使ちゃん。君が無事なら俺の犠牲は厭わない。
「…………」
(……あっ♡ クララが立(勃)った♡♡♡♡)
パンツ越しに見える美兎ちゃんの姿を見上げながら、ズキズキと痛み始めた股間に身悶える。
──主演、美兎ちゃん&俺の『クララ』。
これぞ感動の名シーンだ。
俺の頭上で慌てふためきながら、パンツ付きという素晴らしいアドリブを披露してくれる美兎ちゃん。
そんな姿を堪能しながら、俺はドクドクと流れ出る鼻血で貧血をおこしつつもニヤリと不気味に微笑んだのだった。
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたのだが、この後どうしたらいい?
みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。
普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。
「そうだ、弱味を聞き出そう」
弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。
「あたしの好きな人は、マーくん……」
幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。
よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。俺は一体どうすればいいんだ?

〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI

彼氏持ち隠れサド女子高生の姪っ子と彼女いない歴=年齢の隠れマゾおじさんが、性癖マッチして幸せになるやつ
卍マン
恋愛
兄夫婦が旅行に行ってしまい、今家にいるのは兄夫婦の娘である高校生の姪と、あなただけ。
そんなある日、姪は彼氏とのデートがあるからと、あなたにお小遣いをねだってきました。もう何度も姪にお小遣いをあげているあなたは、それを拒否します。
しかし、姪はお小遣いをくれたら、チンポを気持ちよくしてくる……というのです。
女性に縁のなかったあなたはあっけなくその誘惑に負けてしまいました。
そして、実はあなたは隠れマゾで、姪にいじめてください……とお願いしてしまいます。
さすがに気持ち悪いと断られるだろうと思っていたあなたの提案を、姪は快く承諾してくれました。
不思議に思いながらも興奮が抑えられないあなた。
あなたは知りませんでしたが、隠れマゾだったあなたと正反対に、姪は、男をおもちゃにしたい……と思っている、隠れサドだったのです。
※こちらの作品は、音声作品風にSっ気のある姪っ子女子高生が、叔父であるあなたを責め立てるという内容になっています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる