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悪魔、再び
しおりを挟む(今日~はっ、た~のし~いデートッの日~っ♡)
今にも踊り出しそうな勢いで、ルンタッタ・ルンタッタと軽快にスキップをしながら、カテキョに向かうご機嫌な俺。
言っておくが、別に熱中症でおかしくなった訳ではない。強いて言うなら──。
(うさぎちゃんに狂ってるだけさっ♡♡♡)
1人、鼻の下を伸ばしてだらしなく微笑む。そのままルンタッタ・ルンタッタとスキップをしながら角を曲がると、その先に見えてきたカップルらしき一組の男女。
(っ……クゥ~ッ! 夏だね~♡ 恋の季節だね~っ♡ どんどん恋しろよ~っ、ガキどもっ!)
中学生らしき若いカップルを眺めて、そんなことを思ったご機嫌な俺。そのまま軽快にスキップをしようとした、その時。
ピタリと歩みを止めた俺は、左足を宙に浮かせた体制のまま硬直した。
────!!?
その見覚えある女の子の姿に驚き、近くにあった電柱にシュバッと素早く身を隠す。
(あ、あれは……っ! いつぞやの悪魔っ!!!)
ピンぼけのように薄っすらとしかその姿の記憶は残っていないが、あれは間違いなく──天使(美兎ちゃん)に初めて遭遇した時にその傍らに居た少女だ。
俺のことをキモいと罵り、挙げ句の果てに俺の顔面目掛けて雑にパンを投げつけてきた……。
あの、悪魔のような女の子。
(っ……な、ななな、何でこんなとこにいるんだっ!!?)
あの日の出来事に若干のトラウマを抱えていた俺は、プチパニックを起こして思わず身を隠してしまったが。冷静になって考えてみれば、あの子は美兎ちゃんの同級生。つまりは同じ学区なわけで……。
近所で見かけたとしても、なんらおかしくはないのだ。現に、初めて2人に出会ったのもこの先にある公園だ。むしろ、あれから今まで遭遇しなかったことの方が奇跡だったのかもしれない。
電柱からコソッと顔を覗かせると、恐る恐ると悪魔──もとい、中学生カップルの動向を窺う。
(…………。たかだか中学生相手に、俺は何をこんなにビビッてんだ?)
だが、相手はあの悪魔のような女の子。万が一にでも正体がバレようものなら、また何を言われるかわかったもんじゃない。例えバレなくとも、通りすがりに”キモダサ眼鏡”とか馬鹿にしてきそうだ。
あの悪魔なら、その可能性は充分にあり得る。
(仕方ない。遠回りだけど迂回するしか──)
そう思って踵を返した、その時。
「もうっ! だからしつこいってばっ!!」
────!?
突然聞こえてきた荒々しい声に、ピタリと足を止めると声のした方へと視線を向けてみる。するとそこには、何やら男と揉めている悪魔がいる。
(ん……? 痴話喧嘩か?)
先程までは仲良さげに見えていたカップルだったが、どうやら喧嘩でも始めたらしい。
(フッ……これも青春だな。頑張れよ、ガキども)
今の内にこの場からずらかってしまおうと、再び2人に背を向けて歩き始める。
「なんでだよ! いいじゃんか、少しくらい!」
「……っだから! 嫌だって言ってるでしょ!?」
ただならぬ気配に、思わずピタリと足を止めた俺。チラリと後ろを振り返って様子を見てみれば、嫌がる悪魔の腕を無理矢理掴んで、必死に引き止めようとしている少年の姿が目に入る。
(おいおい……。そんなんじゃモテねぇぞ、少年)
いくら相手はあの悪魔とはいえ、あれでは女の子の扱いがまるでなっていない。『ロリコン変態野郎』の俺ですら、女の子に対してあんな粗暴な態度は絶対にとらない。
そこはあれだ、最低限のモラルってやつだ。変態には変態なりのモラルがあるのだ。
(…………。いや、待て。俺は別に変態なんかじゃねぇし)
1人そんなことを考えていると、益々ヒートアップしてゆく痴話喧嘩。
「……やっ! ちょっ、痛いから! 離してってば!!」
「いいじゃんかよ、キスくらい! 減るもんじゃないし!」
「……っ、はぁぁあ!? 何言ってんの!? あんたバカじゃないの!!?」
「……っ! なんでだよ! いいだろ!? な? …………って、あんた誰だよ!!?」
「…………。……あっ」
突然俺へと向けられた視線に驚き、ピクリと口元を痙攣らせた俺は小さく声を漏らした。
(ヤベッ……、思わず飛び出しちまった。どーすんだ、これ……)
気付けば、少年の腕を掴んで悪魔から引き離してしまっていた俺。なんとも気不味い今のこの状況。ハッキリ言って、かなりピンチな予感しかしない。
そう思ってゆっくりと視線を下へと向けてみると、そこには敵意剥き出しで俺を睨みつけている少年と……その隣りには、唖然と俺を見つめている悪魔がいる。
(ゲッ……!!? ヤ、ヤベェ!!! ヤベェぞこれ……!!? 何やってんだ……っ、俺のバカ野郎……ッ!!!)
今更ながらに、その場で1人あたふたとする。
(あ、あああっ、悪魔に気付かれる前にっ!! さっさとこの場からずらからなきゃヤベェ……ッッ!!!)
「だからっ! 誰だって聞いてんだろ!? シカトすんなよ、クソダサ眼鏡っ!!」
(──!!? クソダサ、眼鏡……だ、と……? こん、の……っ、クソガキがぁぁああ!!!)
ピキリと額に血管を浮き立たせると、目の前のクソガキを見て口元をヒクつかせる。
確かに今の俺はクソダサ眼鏡だ。わざとそうしているのだから、それは仕方のない事実。だが──こんな中坊のクソガキに言われたかない!
(っ……この俺を誰だと思ってやがる!! ナメやがって、このクソガキがぁぁあ!!!)
「女の子には優しくしなきゃダメだよ、クソ……少年。嫌がってるの分かるよね?」
青筋を立てながらもニッコリと不敵に微笑めば、そんな俺を見て瞬時に青ざめるクソガキ。所詮は中坊のガキ。チョロいもんだ。
「……じょっ、冗談に決まってるだろっ! じゃあ俺、もう帰るから! ま……っまたな、衣知佳!」
掴んでいた俺の手を振り払うと、この場から逃げるようにして走り去ってゆく少年。そんな後ろ姿を眺めながら、悪魔のような笑い声を脳内で響かせる。
(グハハハハッ!!! ブァカめっ!!! 俺に勝とうなんざ、1億年はぇーんだよっっ!!!)
「…………。あのぉ……」
「……ファッ!!? ゥグッ!!」
いきなり目の前にドアップで現れた悪魔の顔に驚き、瞬時に後ろに身体を仰け反らせた俺。思いのほか仰け反ってしまったせいか、激痛の走った腰を抑えて悶絶する。
(ヤベェヤベェヤベェヤベェヤベェ……ッッ!!!! 絶対ヤベェ……ッッ!!!!)
俺の顔を覗き込むようにして、ジーッと静かに俺を見つめている悪魔。その沈黙が、やけに恐ろしい。
俺は悶絶しながらも仰け反った腰に手を当てると、もう片方の手で顔を覆って天を見上げた。その体制で、悪魔の視線から逃れようと必死に顔を逸らす。
「…………」
とてもじゃないが、到底モデルをしているとは思えない無様なポーズだ。
だが、今はそんな事を気にしてはいられない。なんとかこの場を切り抜けなければならないのだ。
「助けてくれて……ありがとうございます」
「…………ふぇ?」
予想外な言葉に間抜けな声を発した俺は、チラリと指の隙間から様子を伺ってみる。すると、ほんのりと赤く頬を染めた悪魔が俺を見て小さく微笑んだ。
モジモジとした仕草がいささか気にはなるところだが、どうやらこの様子を見る限りでは、俺の正体には気付いていないらしい。ホッと胸を撫で下ろすと、ズレた眼鏡を直しながら姿勢を整える。
「いやいや、礼なんていいよ。たまたま通りがかっただけだから。……それじゃ、気を付けてね」
今はバレていないとはいえ、いつ正体が見破られるとも限らない。長居は無用だ。
そう思った俺は、それだけ告げるとそそくさとその場を後にした。
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