君は愛しのバニーちゃん

邪神 白猫

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江頭○:50

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「お散歩楽しいね~、山田さんっ」


 公園からの帰り道、俺の隣で天使のような微笑みを向けて山田に話しかける美兎ちゃん。
 そんな美兎ちゃんの声に反応した山田は、ポテポテと歩きながらも美兎ちゃんを見上げる。それはもう、嬉しそうにプリプリと尻尾を振りながら。
 

(そりゃ嬉しいだろうよ! なんたって美兎ちゃんが名付け親だからなっ!)


 何度も何度も愛おしそうに『山田さん』と呼んでもらえる山田に嫉妬すると、悔しさから溢れ出そうになった涙を堪えて天を仰ぐ。


(っ、……ちくしょ~! 俺だって美兎ちゃんに名付けてもらいたかったわ! せめて、『瑛斗先生』じゃなくて『瑛斗』って呼ばれたい……っ)


「瑛斗先生。いつもお散歩に付き合ってくれてありがとう」

「いいよいいよ、どうせ暇だしね。散歩くらい(山田抜きでも。いや、むしろ抜きで!)いつでも付き合うよ?」
 

 無邪気に微笑む美兎ちゃんの姿を見て、その天使のような愛らしさに瞬時に癒された俺は、鼻の下を伸ばすと顔を綻ばせた。


「……あのさ、美兎ちゃん。『瑛斗先生』って呼び方、ちょっと長いじゃん? だからさ、その……もうちょっと略すとか……さ? 違う呼び方にして欲しいなって」
 
 
 美兎ちゃんから視線を逸らすと、しどろもどろになりながらも勇気ある提案をしてみる。
 決して長ったらしい呼び名とは言えないのだが、これを機に『瑛斗』と呼んでもらえるようになれれば。そんな淡い期待を胸に、ドキドキと鼓動を跳ねさせる。


「……あっ。うんち」


(……!!! えっ!? うんちっ!!?)
 

 驚きにグリンッと勢いよく首を動かすと、美兎ちゃんのいる方へと視線を向けてみる。
 すると、何やら一点を見つめたまま立ち尽くしている美兎ちゃん。その視線を辿ってみると、後ろ足をプルプルと震えさせて力んでいる山田がいる。


(なんだ、山田の糞か……。ビビった。俺の名前、『うんち』になったかと思ったわ)

 
 いくら美兎ちゃんから名付けてもえるとはいえ、流石の俺でも『うんち』にはヒヤリとした。
 ホッと胸を撫で下ろすと、山田の側に腰を下ろした美兎ちゃんの姿を静観する。


「えっと……呼び方、だよね? うん、わかった。じゃあ、『先生』って呼ぶねっ!」


 クルリと後ろを振り返った美兎ちゃんは、俺に向けて無邪気な笑顔を見せると、再びその視線を山田へと戻した。


(エッッ!!? まっ、まさかのそっち採用!!!?)


「いやっ、あの……『先生』だと学校の先生と同じじゃん? だから名前がいいかな~? なんて」

「名前?」

「……う、うん」


 思ってもみなかったまさかの【降格宣言】に、山田のうんち処理中の美兎ちゃんの背中に向けて即座に軌道修正を始める。

 
「だからさ、俺のことはえガ──ッ!!!?」


(グおぉぉおーーッッ!!! いっっ、てぇぇぇえーーーー!!!!)


 あまりの痛さに、その場でうずくまると悶絶する。


「あっ。ごめんなさぁ~い」


 ケバケバしい香水を身にまとった女は、まったく悪びれた様子もなくそう告げると、恋人らしき男に腕を絡ませてその場を去ってゆく。

 
「……っ、ちゃん(と前向いて歩きやがれ、クソがっ!)……っ!」


 声にならない声を懸命に振り絞ると、余裕で20cm程はありそうなピンヒールを履いた、ガッツリと背中の開いた服の女の背に向けてガンを飛ばす。
 あれはどう見たって、凶器以外の何物でもない。ズキズキと痛む左足がなによりの証拠だ。


「エガちゃん……?」

「……え?」


 ポツリと呟くようにして落とされた声に視線を向けてみると、キョトンした顔をする美兎ちゃんが俺を見つめている。
 その左手には、取れたてホヤホヤの山田の『うんち』が入ったビニール袋を握っているが……。そんな姿でさえも愛おしい。
 

(ああ……、俺の可愛いうさぎちゃん♡)


 左足の痛みも忘れて口元を綻ばせると、目の前の美兎ちゃんを見つめて鼻の下を伸ばす。


「うん、わかった。『エガちゃん』って呼ぶね!」


(エガちゃんて、誰……?)


 満面の笑顔を向ける美兎ちゃんを見つめながら、とろけた顔のまま暫し考える。
 

(…………。あ……、俺? ……いや、俺の名前……瑛斗だけど……)


 そうは思ったものの、美兎ちゃんの無邪気な笑顔を前にすると、そんなことどうでもよくなってくる。
 結局のところ、美兎ちゃんから名付けてもらえるなら、俺は『うんち』だって何だっていいのだ。それぐらい、うさぎちゃんLOVEだってことには自分でも気付いている。

 嬉しそうに山田の頭を撫でる美兎ちゃんを見つめながら、新たな名前を授けてもらったことに喜び、健達に自慢してやろうとほくそ笑む。





 ──その後日。
 ことの経緯いきさつを自慢げに話す俺に向かって、散々『江頭○:50』と弄ってきた健達。
 美兎ちゃんにお願いして、結局『瑛斗先生』に戻してもらったことは、言うまでもない。




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