4 / 26
レッツ、いちご狩り!
しおりを挟む「なぁ、なぁ~。最近、瑛斗ってやけに付き合い悪くね? 前は合コン三昧だったくせに、もう二カ月は行ってないよな。お陰様で俺も枯れる一方だよ……」
恨めしそうな顔を見せながら、首を直角に曲げて俺の顔を覗き込む健。まるで壊れたブリキの玩具だ。
「なんだ、健知らないの? 瑛斗はね、今本気の子がいるから無理だよ」
「なんだよ、チクショー! やっぱ彼女がいるのかよっ!」
「いや……まだ彼女ではないらしいんだけどね?」
「えっ!? あの瑛斗が狙った女とまだ付き合ってないとかっ! そんな事あんの!? えっ! 大和、その女見たことある!?」
「いや、『うさぎちゃん』って名前しか知らない」
「……あっ! その名前! 俺もこの間聞いたっ! おい、瑛斗! 誰だよその『うさぎちゃん』て!?」
興味津々といった感じで、俺を見つめる健と大和。
(そんなに見つめたところで、お前らに会わせる気なんて微塵もないけどな)
「史上最強に可愛い、天使だよ」
「……えっ!? お前が天使とか言っちゃうわけ!? 俺のエンジェルをバカ呼ばわりしたお前がっ!?」
チラリと二人を流し見れば、さも驚いたような顔をさせている健。大和はといえば、それは面白そうにニヤニヤとしている。
「へぇ~、随分とご執心なようで。で、いつそんな子と出会ったの?」
(フッ……。そんなに聞きたいなら聞かせてやろうじゃないか。あの、天使が舞い降りた穏やかな午後の日のことを……)
「あれは……満開に咲き誇っていた桜が見るも無残に全滅した頃の、ある日の午後だった」
「なんだよ、そのナレーションみたいなの。……しかも下手すぎ」
「煩い! 黙って聞けっ!」
──あの日。
バイトでやっているモデルの仕事がドタキャンになり、大学に行く気にもなれなかった俺は、そのまま真っ直ぐ自宅に帰ることにした。
その日は何の気まぐれか、いつもなら絶対に通らないはずの道を歩いて帰っていた俺。いや、無意識に導かれていたんだと思う。
普段なら絶対に歩かない時間帯に、絶対に通らない道のり。あの時は気付けなかったけど──。
あれはきっと、運命だったんだ。
ふと、何気なく通りがけに公園を覗くと、天使のような無邪気な笑顔を見せる、それはそれは可愛い女の子がいた。立ち漕ぎでブランコに乗る姿は、羽を広げて天を舞う天使のよう。
俺は吸い寄せられるようにして天使へと近付くと、そこで、雷に打たれたかのような衝撃を受けた。
『キャーーッ!!! 大丈夫ですかっ!!?』
『……えっ!!? 何この人!!? 今、自分からぶつかって来たよね!!?』
「……いや、それただブランコにぶつかっ──」
「煩い! 黙って聞けっ!」
地面に寝転がる俺を心配そうに見下ろすその姿は、まさに地上に舞い降りた天使。
『あ、あの……。大丈夫ですか……?』
『やめなよ美兎っ! この人絶対危ない人だよ! 格好だってホストみたいだしっ! 変な因縁つけられるよ!?』
『で、でも……倒れてるのに放っておけないよ』
『放っときなよ! 勝手に自爆してきたのこの人だしっ! 怖すぎっ! ……しかもなんか笑ってるし! キモッ!』
なんだか酷い言われようだったが、そんなこと俺にはどうでも良かった。ただ、目の前に広がる光景に酔いしれていたんだ──。
(なんて最高なアングル……)
『……パン……ッ』
『ぱん……?』
『……!? 美兎の持ってるパンじゃない!? 早く、それ渡して行こっ!』
天使の持っていたパンを奪い取ると、俺に向かって雑に投げつけた堕天使──改め悪魔。そのまま天使の腕を取ると、足早に俺の元から去っていく。
一人残された俺は、その場から動くこともできずに、ただジッと先程見た残像を眺めていた。
パンツ越しに見えた、麗しの天使を──。
「パンツが良かっただけじゃねーかよ!」
「……ちげーわっ!」
「いや。今のお前の話しからは、パンツへの熱意しか感じられなかった」
「っざけんな! 俺の純粋な気持ちをみくびるなっ!」
「……まっ。パンツなんて腐る程見てきただろうし? 瑛斗にしたらどーでもいいよな、そんなの」
「……おいっ!! うさぎちゃんのパンツは別格だ!!!」
「やっぱパンツかよ……」
「ダァーッ!! ちげぇーつってんだろ!?」
俺の純粋な気持ちを全く信じようともしない二人に、呆れて溜息が出る。
(俺は純粋にうさぎちゃんに恋してるんだっつーの!)
「……で、たまたま運良く親同士が知り合いで、家庭教師をすることになったんだ?」
「バーカ。運良くじゃねぇよ。運命な、う・ん・め・い!」
「あー、はいはい。……で? いつ会わせてくれるの? 『うさぎちゃん』に」
「は? お前らに会わせるわけねぇーだろ!」
「はぁ!? なんでだよー! 『うさぎちゃん』のお友達、紹介してくれよ~!」
「ふざけんなっ! いちごのパンツは俺だけのもんだっ!」
「は……? いちご? え、高校生ってそんなパンツ履くの? なんか萎えるわぁ……」
「バカ言え! フル勃○だろっ!」
神聖なるいちごのパンツの良さがわからないとは、なんと哀れな健。
(俺なんて想像するだけで今にも昇天しそうだわっ! ……ま、それも美兎ちゃん限定でなんだけど)
「じゃ、俺もう行くわ」
美兎ちゃんの顔を想像するだけで、思わず顔がニヤケてしまう。
「あー。今日もカテキョ?」
「そっ。レッツ、いちご狩り!」
「いちご狩りって……。カテキョだろ」
ルンタッタ・ルンタッタとスキップで走り去る俺の背に向け、呆れ顔の大和は小さく溜息を吐く。その横で、「やっぱパンツじゃねぇかよ」と小さく呟いた健の声は、俺の耳に届くことはなかった。
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたのだが、この後どうしたらいい?
みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。
普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。
「そうだ、弱味を聞き出そう」
弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。
「あたしの好きな人は、マーくん……」
幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。
よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。俺は一体どうすればいいんだ?

〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI

彼氏持ち隠れサド女子高生の姪っ子と彼女いない歴=年齢の隠れマゾおじさんが、性癖マッチして幸せになるやつ
卍マン
恋愛
兄夫婦が旅行に行ってしまい、今家にいるのは兄夫婦の娘である高校生の姪と、あなただけ。
そんなある日、姪は彼氏とのデートがあるからと、あなたにお小遣いをねだってきました。もう何度も姪にお小遣いをあげているあなたは、それを拒否します。
しかし、姪はお小遣いをくれたら、チンポを気持ちよくしてくる……というのです。
女性に縁のなかったあなたはあっけなくその誘惑に負けてしまいました。
そして、実はあなたは隠れマゾで、姪にいじめてください……とお願いしてしまいます。
さすがに気持ち悪いと断られるだろうと思っていたあなたの提案を、姪は快く承諾してくれました。
不思議に思いながらも興奮が抑えられないあなた。
あなたは知りませんでしたが、隠れマゾだったあなたと正反対に、姪は、男をおもちゃにしたい……と思っている、隠れサドだったのです。
※こちらの作品は、音声作品風にSっ気のある姪っ子女子高生が、叔父であるあなたを責め立てるという内容になっています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる