ぱぴLove〜私の幼なじみはちょっと変〜

邪神 白猫

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♡番外編♡

お兄ちゃんの受難〜side翔〜 Part①

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 本編最終話その後のお話。



🐣🍓🧸🐣🍓🧸🐣🍓🧸🐣🍓🧸🐣🍓🧸🐣




 この春無事に大学生となった俺には、最近ちょっとした悩み事がある。
 悩み……というよりは、心配事に近いかもしれない。最近、花音の様子がどうもおかしいのだ。

 目の前で食事をする花音をチラリと見てみると、小さな溜息を吐いてばかりで一向に箸が進んでいない。


「花音。どうした? 何か悩み事でもあるのか?」

「……えっ!? い、いやぁ……べっ、別に? 何もないよ!?」


 明らかな動揺を見せる花音に、少しだけ細めた瞳で疑いの眼差しを向ける。
 すると、そんな俺の視線に気付いた花音は、引きつった顔をするとヘラリと笑って見せた。


(怪しい……)


 絶対に何か隠している。


(一体、何だっていうんだ? 俺には言いにくい事なのか……? もしかして──)


「響との事か?」


 その言葉にピタリと動きを止めた花音は、焦ったようにして急に席を立ち上がった。


「……っな、何だか眠くなってきちゃったなー!? 私、もう寝るねっ! ご馳走さま、お兄ちゃん! おやすみっ!」


 口早にそう告げると、バタバタとリビングを去って行った花音。


(何なんだよ……。怪しさ全開じゃないか)


 眺めていた扉からテーブルへと視線を移すと、花音が残していった食器を見て小さく溜息を吐く。


「全然食べてないじゃないかよ……」


 ほとんど口のつけられていない、花音の大好物のハンバーグ。
 それを眺めながら、俺はもう一度小さく溜息を吐いた。


「俺が立ち入る事でもない、か……」


 とはいえ、やはり気になるのが俺の性分。無理矢理聞き出す事も……まぁ、できなくはない。
 だけど、あまりしつこくして花音に嫌われたくはない。花音だってもう高二なんだ。


(色々と俺には干渉されたくない事もあるだろうし、ここは一先ひとまず黙って様子を見とくか)


 そんな考えに落ち着いた俺は、止めていた箸を再び動かす。


「昔は何でもすぐ俺に頼ってきてたのにな……」


 一人きりになったリビングでポツリと小さく呟くと、俺は食べかけだったハンバーグを口の中へと入れた。






◆◆◆






 ──それから数週間後。
 花音の様子を黙って見守っていた俺は、相変わらず態度のおかしい花音に頭を悩まされていた。

 回復するどころか日に日にその表情は暗くなり、色気より食い気のはずのあの花音が食欲までないのだ。


(おかしい……。絶対におかしい。一体、響と何があったんだ……?)


 花音の横にチラリと視線を移してみると、そこには相変わらず呑気にヘラヘラと笑っている響がいる。


(…………。分からない。響との事じゃないのか?)


 元々ズレている響を見てみたところで、一体何があったかなんて分かるはずもなく……。
 俺は小さく溜息を吐くと花音へと視線を戻した。


「花音。ちゃんと食べないと体がもたないぞ?」


 用意された朝食を前に、一向に手を付けようとしない花音を見て酷く心配になる。
 俺の言葉に何の反応も示さない花音は、ただジッと黙ったまま俯くばかりで、俺はどうしたものかと小さく溜息を吐いた。


「花音、どうしたの? ちゃんと食べないとダメだよ?」


 そう言って覗き込む響に対しても、俯いたままで無反応な花音。
 ……やっぱりおかしい。


(どこか具合でも悪いのか?)


「どうしたんだよ、花音 。何かあるなら言いな、ちゃんと聞くから。……何があった? 具合でも悪いのか?」


 優しくそう問えば、俯いたまま小さく首を横に振った花音。


(いや……絶対に何かあるだろ。何でそんな頑なに言わないんだ?)


 優しく問うても何も言おうとしない姿を見て、妙な不安を感じた俺は目の前の花音をジッと見つめた。
 すると、そんな俺の気持ちを察したのか、花音は今にも泣き出しそうな顔で小さく笑うと口を開いた。


「ほ、本当に何もないよ? 大丈夫だから、心配かけてごめんね。……いただきます」


(何だよ、その顔……。全然大丈夫じゃないだろ)


 何も打ち明けようとしない花音を見て、俺の不安は益々膨らむばかり。


(俺じゃ、そんなに頼りないのか? なんで何も言わないんだよ。両親が留守の間、花音を守ってやるのは俺の役目なのに……。肝心のお前から頼りにされてなかったら、これじゃ全然ダメじゃないかよ)


 目の前にいる小さな妹を見つめながら、自分の不甲斐なさに落胆する。


「……っう。気持ち悪っ」



 ────!?



 突然、目の前で朝食を食べ始めようとしていた花音が、そう言って真っ青な顔をして口元を抑えた。


(やっぱり具合が悪かったんじゃないか……っ! 何で言わないんだよ!)


「おい、花音っ! 大丈夫か!?」

「無理……っ」


 余程具合が悪かったのか、慌てて席を立ち上がるとそのままリビングを出ていった花音。
 それを追いかけるようにしてリビングを出ると、開かれたままの扉から浴室所へと入った俺と響。


「大丈夫か!?」

「花音っ! 大丈夫!?」


 洗面所で嘔吐している姿を見ると、酷く辛そうでとても大丈夫そうとは思えない。


「風邪でもひいたのか? ……熱は?」


 心配そうに花音の背中をさすっている響の横で、俺は花音の額に手を当てるとその熱を測ってみる。


(熱はないみたいだけど……。これは病院に連れて行った方がいいな)


 滅多に風邪などひかない花音が辛そうに嘔吐し続ける姿を見て、軽くパニックになった俺は保険証はどこにあったかと、一瞬そんな事を考える。


「病院行くぞ、花音。……歩けるか? 歩けないなら俺が連れてってやるから」


 そう言って抱え上げようとすると、花音は辛そうにしながらも俺の手を制した。


(……?)


 とても辛そうな顔をしながら、涙目になった瞳で俺を見つめる花音。


「……違うの」


(え……?)


「病気じゃない……っ」


 それだけ告げると、ボロボロと泣き出してしまった花音。


(……え? じゃあ、何でこんなに嘔吐してるんだよ。それに……、何でそんなに泣くんだ……?)


 次から次へと涙を流し続ける花音を見て、俺の心拍数はドクドクと早鐘を打ち始める。


(嘘、だろ……っ)


 最近、めっきりと食欲の落ちてしまった花音。朝食を食べようとした途端に、具合が悪くなって嘔吐している花音。俺に何も話そうとしない花音。
 全て合点がいく。


(でも……、まさか……っ)


「花音……お前、妊娠してるのか……?」


(……そんなわけあるか)


 自分で言った言葉に頭の中で否定をしながらも、震える瞳で目の前の花音を見つめる。
 どうか違うと言ってくれ。そんな願いを込めて──。


「っ、……お兄ちゃ……っ、どうしよう……。私……っ、赤ちゃんできちゃったよぉ……っ!」


 そう答えた花音は、クシャリと顔を歪めると号泣し始めた。



 ────!!?



(嘘……、だろ……っ?)


 愕然がくぜんとする俺の顔から、一気に血の気が引いてゆく。


(っ……誰か、嘘だと言ってくれ)


 俺の目の前で、小さく震えて泣き続けている花音。
 そんな姿を前に激しく動揺すると、顔を歪めた俺は花音をギュッと抱きしめた。


「大丈夫……、大丈夫だから。心配するな、花音……っ」


 そんな事を言ったって、どうすればいいのか分からないのは自分も同じだ。
 俺はまるで自分に言い聞かせるかのようにして、何度も「大丈夫だ」と花音に言って聞かせる。


(っ、……どうすればいいんだよ。花音はまだ、高校生なんだぞ……っ)


 そんな事を考えながら、腕の中にいる小さな花音をギュッと抱きしめる。


「……っ花音! 本当にっ!? 本当に妊娠したのっ!?」


 それまで固まったまま動かなかった響は、突然嬉しそうな声を上げると花音の肩を掴んだ。


「……ひぃ……っ、ぐ……っ」

「おめでとう! 花音っ!」


 泣きながら響を見上げる花音に対して、「おめでとう」と言って嬉しそうにヘラヘラと笑っている響。


(何がおめでとうだ! こんなに泣いてるじゃないか……っ! 何でちゃんとしてやらなかったんだよっ! 俺は……、お前の事を信じてたんだぞっ!!?)


「響っ!!!」


 そのあまりに酷い態度を見て一気に怒りを湧かせた俺は、響の胸倉を掴むと鋭く睨みつけた。


「何やってるんだよっ!! ……妊娠なんてさせるなよっ!! 花音はまだ高校生なんだぞっ!!?」

「どうしたのー? 翔。心配しなくても大丈夫だよ、結婚するんだから」


 ニッコリと笑ってそんな事を言い放った響。


(大丈夫ってなんだよ……っ。これのどこが大丈夫なんだよ……っ!? どう見たって同意じゃないだろっ!!)


 涙を流し続ける花音をチラリと横目に見て、俺はその悔しさから顔を歪めた。


(何で……っ、何でもっと大切にしてくれないんだよ……っ! ……っお前は絶対に花音を傷つけないって信じてたのに……っ!!!)


「っ、……ふざけんなっ!!!」



 ────!!!



 胸倉を掴んでいる手をミシリときしませた俺は、悔しさに顔を歪めたまま怒り任せに拳を振り上げた。



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