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♡番外編♡
君とハロウィンパーティ
しおりを挟むこれは、花音と響が付き合いだしてすぐの頃のお話。
🍭🎃🦇🕸🍬🍭🎃🦇🕸🍬🍭🎃🦇🕸🍬🍭
「ねぇ、お兄ちゃん。今週末……うちでハロウィンパーティしてもいい?」
台所でお皿洗いのお手伝いをしながら、お兄ちゃんの様子をチラリと伺う。
「誰が来るの?」
「え、えっとねぇ……彩奈と斗真くん達。ひぃくんも来るから、お兄ちゃんも参加してね?」
ひぃくんと付き合っている事は、まだお兄ちゃんに内緒にしている私。
無言のままお皿洗いを続けるお兄ちゃんに、何か不自然だっただろうかと内心焦る。
「……お、お兄ちゃん?」
様子を伺うようにして顔を覗き込むと、小さく溜息を吐いたお兄ちゃんはジロリと私を見た。
「俺は絶対に仮装しないからな」
「えー!? だってハロウィンだよ!? ヤダヤダー! 仮装してよー、お兄ちゃん!」
「だったらパーティは無し」
「……すみません、お兄様。普段着で充分です」
仕方なく納得をすると、私は口を尖らせながらお皿洗いを続ける。
(すぐ鬼には変身するくせに……。いいじゃん、仮装くらい。鬼の仮装すればピッタリなのに)
心の中でそんな悪態を吐く。
「花音。もういいよ、テレビでも見てきな」
不貞腐れている私に向けて、そう声を掛けてくれるお兄ちゃん。チラリと見てみると、とても優しく微笑んでいる。
「手伝いありがとな」
「……うん」
普段から、ほとんどの家事を全部一人でこなしているお兄ちゃん。
(私なんて、全然お手伝いしてないのに……)
いつもこうやって私を気遣ってくれる。なんだかんだで、とても優しいお兄ちゃん。
(鬼なんて言ってごめんなさい)
「お兄ちゃん、いつもありがとう。大好きだからね」
それだけ伝えると、照れ臭くなった私はさっさとリビングへと逃げ去った。
そのまま一人大人しくソファに座ってテレビを見ていると、暫くして私の隣にやって来たお兄ちゃん。
「……ん。少し寒いだろ?」
差し出されたマグカップを受け取ると、ホットココアの甘い香りがフワリと湯気を上げる。
「お兄ちゃん……大好きっ」
赤く染まった頬を隠すようにしてお兄ちゃんの肩に頭をもたげると、そんな私を見てクスッと笑い声を漏らしたお兄ちゃん。
「はいはい、甘えんぼ」
そんなことを言いながらも、優しくポンポンと頭を撫でてくれる。
やっぱり、お父さんとお母さんが居ないのは凄く寂しい。時々会いたすぎて涙が出そうになったりすることもある。
(でもね、私にはお兄ちゃんがいるから大丈夫なんだよ?)
マグカップに注がれた甘いホットココアを一口飲み込むと、私は隣にいるお兄ちゃんをチラリと盗み見てニッコリと微笑んだ。
◆◆◆
「仮装、何にしようかなぁ」
「お姫様にしたら? 去年着てたやつ」
「え~っ。去年と同じは嫌だよぉ」
──お昼休み。
早々に食事を済ませた彩奈と私は、今年のハロウィンで着る衣装についての会議をしている。
「でも、今年は王子様がいるじゃない。好きでしょ? 王子様」
「うん。いいよねぇ、白馬に乗った王子様っ」
絵本の中の王子様を想像して、私はキラキラと瞳を輝かせた。
何を隠そう、子供の頃からずっと白馬に乗った王子様に憧れ続けている私。現実にはいるわけないと分かってはいても、やっぱり憧れてしまうのは仕方がない。
「──花音」
(……!?)
いきなり後ろから抱きつかれて、驚きにビクリと小さく肩を揺らした数秒後、私の右頬に触れた柔らかい感触。
「……っ。ひぃくん……」
たった今キスをされたばかりの頬を片手でおさえると、一気に真っ赤になってしまった私の顔。
「そんなんでよく翔さんにバレないよね……」
呆れた顔をして私達を見ている彩奈。
「ねぇ響さん。花音がね、白馬に乗った王子様が見たいんだって。ハロウィンで仮装してくれる?」
「うんっ。いいよー」
彩奈の言葉に、なんの躊躇いもなくすんなりと頷いたひぃくん。
「えっ!? ホント!? 本当にしてくれるの!?」
「うんっ。花音が望むなら、俺は何にでもなってあげるよ?」
そう言って優しく微笑んでくれるひぃくん。
(ああ……っ! なんて優しいんだろう。私、絶対に今年もお姫様やるからねっ!)
「じゃあ、私お姫様やるねっ! ひぃくんとペア仮装だよっ?」
笑顔でそう伝えると、ひぃくんは私を抱きしめて「花音可愛いー」と言ってスリスリと頬を寄せる。
(今年は初めてひぃくんとペア仮装ができるんだ……)
そう思うと、なんだかニヤケ顔が止まらない。シラけた顔をする彩奈の目の前で、ひぃくんに抱きしめられながら緩んだ表情を見せる私。
その後お昼休み終了のチャイムが鳴るまでの間、私はずっとニコニコと幸せそうに微笑み続けていた。
◆◆◆
────ピンポーン
「あっ! 皆んな来たみたい! 私出るねっ!」
ハロウィンパーティ当日。
料理の準備をしているお兄ちゃんにそう告げると、私はリビングを出て勢いよく玄関扉を開いた。
「「「ハッピーハロウィーン!」」」
仮装をした彩奈や斗真くん達が、元気いっぱいにニコニコと楽しそうな笑顔を向けてくれる。
「ハッピ~ハロウィ~ン! お菓子ちょうだいっ!?」
「あのねぇ……来て早々、カツアゲみたいな事言わないでよ」
私の言葉に、呆れたような顔を見せる彩奈。
「だって……、普通はそうでしょ? ハロウィンて」
「あれは子供だけよ」
「えーっ!? じゃあお菓子ないの……?」
「だいたいね、逆なのよ。普通は花音が私達にお菓子を渡すのよ?」
その言葉を聞いて、私はガックリと肩を落とした。
だって、毎年ひぃくんとお兄ちゃんはお菓子をくれるのに……。彩奈とだって、毎年お菓子交換をしていたはず。
(おかしいなぁ……なんで?)
「か、花音ちゃんっ。お菓子はないけどケーキは買ってきたから。皆んなで食べよ?」
「本当っ!?」
「うん」
ケーキの箱を私に見せると、ニッコリと微笑んだ斗真くん。
やっぱり、斗真くんは優しい。
「斗真くん、ありがとう! 皆んなどうぞ中に入って? お兄ちゃんがね、いっぱい料理作ってくれたんだよ」
笑顔でそう告げると、皆んなを家の中へと迎え入れる。
「……響さん、まだ来てないんだ?」
リビングを見渡した彩奈は、コソッと私の耳元でそう訊ねてくる。
「うん。もうすぐ来るんじゃないかなぁ?」
「あっ、そうだ。……はい、これ」
彩奈の手元を見てみると、可愛くラッピングされたお菓子の袋を持っている。
「……えっ? くれるの?」
「毎年交換してるでしょ?」
「だってさっきは……」
「あれは、花音が皆んなの前であんなこと言うから……。普通はないのよ、お菓子の交換なんて」
(良かった……。あんなことを言いながらも、今年もちゃんと用意してくれてたんだね、彩奈)
嬉しさからフフッと微笑むと、私は予め用意しておいたお菓子を彩奈へ向けて差し出した。
「私もちゃんと用意してあるよ? はい、彩奈」
お互いのお菓子を交換し合うと、二人顔を見合わせてクスクスと微笑む。
「楽しみだね、王子様」
「うんっ」
彩奈と二人、紙コップに人数分のジュースを注ぎながらも笑顔で頷く。
────ピンポーン
「……あっ! お兄ちゃん、ひぃくんだよ。出て?」
ジュースの準備で忙しかった私は、それだけ伝えるとお兄ちゃんに任せて再び作業を始める。ジュースやら取り皿やらの準備をしていると、暫くして戻ってきたお兄ちゃん。
なんだか顔を引きつらせて、リビングの扉の前で突っ立っている。
(…………? どうしたのかな)
「お兄ちゃん……?」
私の言葉にゆっくりと視線を移したお兄ちゃんは、その瞳に私を捉えると口を開いた。
「お前がリクエストしたって本当か?」
「……え?」
(何が……? もしかして王子様の事? そんなに引かなくたっていいじゃん)
「お前、どんな趣味してるんだよ」
「……えっ?」
(私の趣味ってそんなに変なの……? 王子様は女の子の憧れでしょ? 普通)
「かの~んっ!! ハッピ~ハロウィ~ンッ!!」
────!!!?
そんな軽快な声と共に、お兄ちゃんを突き飛ばしてリビングへと入って来たひぃくん。その姿に、リビングにいた全員が一瞬で凍りついた。
全身真っ白なタイツに身を包んだひぃくん。その顔は──馬。
いや、正しくは馬の首からひぃくんの顔が出ている。
(…………。え……っ?)
その姿に、私を含む全員がドン引いた。
ピッチピチの白タイツで、馬の頭を被っているひぃくん。
(何をどうしたらそうなった……)
私は確かに王子様をリクエストした。馬ではない。
(一体……、何故?)
「花音とペア仮装~っ!」
そう言って、嬉しそうに私に抱きついてくるひぃくん。
思わず顔面が引きつる。
(これのどこがペアなの……っ?)
お姫様と馬の、一体どこがペア仮装だというのだろうか? レベルが高すぎて、私には到底理解ができない。
(それより、そのピッチピチのタイツ……キモすぎて笑えない)
私の目の前で、顔を引きつらせた彩奈が口を開いた。
「あ、あの……響さん? その仮装は……?」
「え? ……馬」
一瞬考える素振りを見せたひぃくんは、そう答えると小首を傾げてニッコリと微笑む。
(…………。いや、馬はわかりますとも。だから、なんで馬……?)
ひぃくんの回答に彩奈も同じ事を思ったのか、顔を引きつらせながらも再びひぃくんに訊ねる。
「あの……何故、馬に?」
「んー? だって、花音のリクエストだから。白馬になった王子様」
「…………」
(ひぃくん……、違うよ。白馬に“乗った”王子様だから……)
周りがその姿にドン引く中、馬の頭を揺らしながらニコニコと微笑んでいるひぃくん。
(…………っ。そのメンタルは尊敬に値するよ)
勘違いとはいえ、私の為にこんな仮装までしてくれたひぃくん。私はやっぱり、そんなひぃくんのことを嫌いになんてなれない。
ピッチピチの白タイツを着た、変態みたいな馬顔のひぃくん。その姿を前に、私は盛大に顔を引きつらせた。
(ごめんね……、ひぃくん。私、上手く笑えそうもない。でもね、嫌いになったわけじゃないから……)
ひぃくんがどんな姿をしていようとも──それでも私は、あなたのことが大好きです。
─完─
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