35 / 47
♡最終章♡
何度でも、君に恋をする Part③
しおりを挟む「おい、響。父さんの言ったこと真に受けるなよ? 俺は絶対に許さないからな」
その声に反応してチラリと視線を向けてみると、そこには恐ろしい顔をしてひぃくんを睨みつけているお兄ちゃん──ではなく、いつの間にやら変化した鬼がいる。
(ヒ……ッ! おっ、お兄ちゃん怒ってらっしゃる……っ)
その迫力に、思わずブルリと身体を震わせる私。そんな私の視線に気付いたお兄ちゃんは、ひぃくんから私へと視線を移すと口を開いた。
「わかったな? 花音」
「……っ!? はヒッ……」
あまりの恐ろしさに震えあがると、私は小さな声で間抜けな返事を返す。
(な、なんで私まで……。そんなに怖い顔でこっちを見ないで……っ)
恐怖に慄く私の姿を見て、お兄ちゃんの背後でプッと小さく笑い声を漏らした彩奈。
「ラブラブだからってヤキモチ妬かないでよー、翔」
ニコニコと微笑むひぃくんは、震えている私を抱きしめると「翔怖いねー」と言って私の頭を優しく撫でてくれる。
「そうだぞ? 翔。ヤキモチなんて妬いてないで、お前も子作りに励めよ」
お兄ちゃんの肩にポンッと手を置くと、ニコッと爽やかに笑ったお父さん。
その横で一部始終を見ていたはずのお母さんは、「そろそろご飯作らなきゃ。今日は皆んな、お夕飯食べていってね?」と優しく微笑むとキッチンへと消えてゆく。
(なんて自由なの……この状況で私を置き去りにするなんて……。薄情すぎるよ、お母さん……っ)
自分の置かれた状況に愕然とする。
今私の目の前にいるのは、爽やかに笑っているお父さんと、呑気にニコニコと微笑んでいるひぃくん。そして、そんな二人を恐ろしい顔で睨みつけている鬼なのだ。
そんな三人の姿を前に、薄情なお母さんを怨めしく思う。
ワナワナと震えて恐ろしい顔をしているお兄ちゃんからは、今にも爆発してしまいそうなほどの怒りを感じる。
そのあまりに恐ろしい光景を目の当たりにした私は、思わず目眩で気が遠のいてゆく。今にも気絶してしまいそうだ。
怒り狂う鬼の背後にいる彩奈をチラリと見てみると、随分と冷静にこの光景を眺めている。
──否。むしろ呆れているといった感じだ。「やれやれ」といった風に、小さく溜息を吐いている。
(目の前にあんなに恐ろしい鬼がいるっていうのに……よくもまぁ、そんな呑気に。背後にいるから見えてないのね、きっと……)
そんな事を考えながら見つめていると、私の視線に気付いた彩奈と視線が絡まり、反射的に引きつった笑顔を見せる私。
(彩奈……。あなたのダーリン、今とんでもなく恐ろしい顔してますよ……?)
引きつった笑顔のまま、私は堪らずフヒッと変な声を漏らす。
「……っ、誰がヤキモチだよ!? ふざけた事ばっか言ってるなよっ!!」
────!!!?
突然の鬼の大噴火に、驚いた私の身体はビクリと小さくその場で飛び跳ねた。
「どうしたんだよー、翔。糖分足りてないんじゃないか? ホラ、飴でも食べとけ」
ポケットから飴を取り出したお父さんは、爽やかに笑うとお兄ちゃんに向かって飴を差し出す。
それを見ていたひぃくんは、ニッコリと微笑むと口を開いた。
「お父さんの言う通りだよー? 翔。あっ……間違えちゃった、お兄ちゃん」
そう言って、フニャッと笑って小首を傾げる。
「……っ!? 何が間違えただっ! お兄ちゃんて呼ぶなっ! それに、何ちゃっかりお父さん呼びしてるんだよ! お前の親父じゃないだろ!?」
お兄ちゃんの言葉に、キョトンとした顔を見せるひぃくん。
「え? だって……花音と結婚するんだから、翔はお兄ちゃんだしおじさんはお父さんだよ? ……そうだよね?」
「うんうん。そうだぞー、響。怒りん坊なお兄ちゃんだけど、よろしく頼むな?」
首を捻るひぃくんに対してそう答えると、ニコニコと嬉しそうな顔で微笑むお父さん。
「うん。でも、お兄ちゃんて本当に怒りん坊さんだね。まだヤキモチ妬いてるのかなー?」
「そうだなぁ、花音と響がラブラブすぎるからな~。……ほら翔、飴」
ひぃくんと楽しそうに会話を弾ませるお父さんは、その視線はひぃくんへと向けたまま、お兄ちゃんの目の前で飴をヒラヒラとさせる。そんな二人を見て、ハラハラとする私とプルプルと震えて俯くお兄ちゃん。
その姿を目にして流石に心配になったのか、お兄ちゃんの袖をキュッと掴んだ彩奈。そんな彩奈の行動にピクリと肩を揺らしたお兄ちゃんは、フッと肩の力を抜いて彩奈の手に触れると、一度小さく息を吐いてからゆっくりと顔を上げた。
(あ……、あれ? 鬼じゃ、ない? ……よ、よかったぁ)
ビクビクとしていた私は、お兄ちゃんの顔を見るとホッと安堵の息を吐く。けれど、何だかその表情はやけに真剣な面持ちで、一体どうしたのかと様子を伺う。
すると、ツカツカと無言のままひぃくんの元へとやってきたお兄ちゃんは、ポンッとひぃくんの肩に手を置くと、横にいる私をチラリと見下ろした。
(え……な、何ですか……?)
反射的に怯えて引きつる私の顔。
そんな私を見て小さく溜息を吐いたお兄ちゃんは、ひぃくんの耳元に顔を寄せると口を開いた。
「響。頼むから避妊だけはちゃんとしろよ」
────!!!?
お兄ちゃんの口から出てきた言葉に、驚きで我が耳を疑う私。
(お兄ちゃん……今、なんて……っ?)
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。花音の事はずっと大切にするから。だから安心してね?」
答えになっているのか、いないのか……。そんな返事を返したひぃくんは、フニャッと笑うと小首を傾げた。
そんなひぃくんを見て、一瞬眉をひそめたお兄ちゃん。チラリと私を見て一瞬寂しそうな顔を見せると、その視線を再びひぃくんへと戻す。
「……お前のこと信じてるからな」
「うんっ」
ひぃくんの返事に静かに目を伏せたお兄ちゃんは、そのままクルリと背を向けると彩奈のいる方へと戻ってゆく。
(え……、お兄ちゃん? 私、まだ無理だよ……子作りなんて……っ)
お父さんに捕まり、「翔、飴いらないのかー?」と絡まれているお兄ちゃんの姿を見つめながら、私は一人取り残された気分になる。
(ねぇ……、私の気持ちは……? それって一番大事なとこじゃ……)
「良かったねー、花音。これで安心だね?」
私の隣で嬉しそうな声を上げるひぃくん。
そんなひぃくんを見上げて、私は盛大に顔を引きつらせた。
(……とっても不安。むしろ、不安しかないよ……っ)
今や、ひぃくんの暴走を止めてくれる味方が、誰一人としていなくなってしまったのだ。
(お兄ちゃん……っ。どうして私を見捨てるの? ……なんで? お願いだから私を見捨てないで……っ)
ひぃくんを見上げたまま情けない顔で懸命に笑顔を作った私は、心の中でお兄ちゃんに向けて必死にそう願い続けた。
0
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【完結】結婚初夜。離縁されたらおしまいなのに、夫が来る前に寝落ちしてしまいました
Kei.S
恋愛
結婚で王宮から逃げ出すことに成功した第五王女のシーラ。もし離縁されたら腹違いのお姉様たちに虐げられる生活に逆戻り……な状況で、夫が来る前にうっかり寝落ちしてしまった結婚初夜のお話
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
美少女は保護られる〜私の幼なじみはちょっと変〜
邪神 白猫
恋愛
◆お知らせ◆
現在、新たに加筆修正したものを新規公開中です
新タイトル
【ぱぴLove〜私の幼なじみはちょっと変〜】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/21507582/669902083
↑
お手間をお掛けして申し訳ありませんが、こちらの作品の方で“しおり”や“お気に入り”等をお願いしますm(._.)m
見た目は完璧な王子様。
だけど、中身はちょっと変な残念イケメン。
そんな幼なじみに溺愛される美少女の物語ーー。
お隣りさん同士で、小さな頃からの幼なじみの花音と響。
昔からちょっと変わっている響の思考は、長年の付き合いでも理解が不能?!
そんな響に溺愛される花音は、今日もやっぱり振り回される……!
嫌よ嫌よも好きのうち?!
基本甘くて、たまに笑える!そんな二人の恋模様。
※
表紙&作中に出てくるイラストは全てフリーアイコンを使用しています
タイトルは造語を使用しています。

竜王の息子のお世話係なのですが、気付いたら正妻候補になっていました
七鳳
恋愛
竜王が治める王国で、落ちこぼれのエルフである主人公は、次代の竜王となる王子の乳母として仕えることになる。わがままで甘えん坊な彼に振り回されながらも、成長を見守る日々。しかし、王族の結婚制度が明かされるにつれ、彼女の立場は次第に変化していく。
「お前は俺のものだろ?」
次第に強まる独占欲、そして彼の真意に気づいたとき、主人公の運命は大きく動き出す。異種族の壁を超えたロマンスが紡ぐ、ほのぼのファンタジー!
※恋愛系、女主人公で書くのが初めてです。変な表現などがあったらコメント、感想で教えてください。
※全60話程度で完結の予定です。
※いいね&お気に入り登録励みになります!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる