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♡最終章♡
何度でも、君に恋をする Part①
しおりを挟む「もうすぐ卒業だなんて、あっという間だね」
「うん、そうだね」
「寂しいなぁ……」
三月十日に行なわれる卒業式まで、気付けばもう一週間をきってしまった。
たったの一年しか同じ学校に通えないなんて、こんな時二歳差の壁が大きく感じる。
「どうせ毎日会えるでしょ?」
「そうだけど……」
冷めた顔でチラリと私を見てくる彩奈。
(確かに毎日会えるよ? だってお隣さんだし)
相変わらず、夜中に私のベッドへ忍び込んでくるひぃくんのお陰で……。というべきなのかは疑問だけれど、目覚めて一番最初に目にする人物は毎朝ひぃくんだ。きっと、それはこれからも変わらないのだろう。
だけど、同じ学校に通ってお昼には一緒に昼食をとる。そんなささやかな時間が、私にはとても大切に思えた。
「彩奈はさぁ、寂しくないの? もう学校でお兄ちゃんと会えなくなるんだよ?」
最初からいなかったのと、途中からいなくなるのとではだいぶ違う。今まで一緒に過ごしてきた場所に、もう大好きな人の姿がなくなってしまうのだ。
「そりゃ寂しいけど……。でも仕方ないじゃない」
「そうなんだけど……」
彩奈の目線を追いかけるようにして窓の外を眺めると、大きく溜息を吐いて窓枠に置いた両手に顎を乗せる。
「おばさん達、明日だっけ? 帰ってくるの」
「うん。そうだよー」
両手に顎を乗せたまま、気の無い返事をする。
そんな私をチラリと横目に見た彩奈は、小さく溜息を吐くと口を開いた。
「何よそれ、嬉しくないの? 一年振りでしょ?」
「嬉しいけど……」
勿論、凄く嬉しい。
お兄ちゃんの卒業式に出席する為、一時帰国するお母さん達。一年振りに会えるのだから、嬉しくない訳がない。
だけど、今の私はそれどころではないのだ。
今までにも、小・中学校と経験してきたはずなのに、ひぃくんが卒業してしまう事がこんなにも寂しいなんて……。恋とは恐ろしい魔法だ。
「……寂しいなぁ」
両手に顎を乗せたまま小さくそう呟いた私は、溢れそうになる涙をグッと堪えて大きく鼻を啜った。
◆◆◆
「おばさん達に会うの久しぶりだなー。楽しみだねー、花音」
私の手を握って歩くひぃくんは、そう言いながらニコニコと微笑む。
「うんっ、楽しみ!」
「もう帰ってるかなー?」
「お昼前にはこっちに着くって言ってたから、もう家にいるんじゃないかな?」
「そっかー。早く会いたいなー」
「そうだねー、早く会いたいねー」
お互いの顔を見つめ合いながら、ニコニコと嬉しそうに微笑む。
そんな私達の横を歩いているお兄ちゃんは、チラリとひぃくんを見ると口を開いた。
「何でお前が俺以上に嬉しそうにしてるんだよ」
「だってー。花音のお母さんとお父さんだよ? そりゃ嬉しいよ」
フニャッと微笑んで小首を傾げたひぃくん。
「俺もその息子だよ。綺麗サッパリ忘れやがって……」
そう小さく呟いたお兄ちゃんは、瞳を細めるとジロリとひぃくんを流し見る。
何だかそんなお兄ちゃんが憐で、私は引きつった笑顔でアハハと渇いた笑い声を漏らした。
「ごめんねー? お兄ちゃん」
ニッコリと微笑んでそう言ったひぃくんに、ピクリと口元をヒクつかせたお兄ちゃん。
「……お兄ちゃんて呼ぶな。俺はお前の兄貴になった覚えはない」
「拗ねないでよー、お兄ちゃん」
「…………」
「もう忘れないから。ごめんね? お兄ちゃん」
「もういいから、お兄ちゃんて呼ぶな。そして俺の事は永遠に忘れてくれ」
ウンザリとした顔でそう告げたお兄ちゃんは、ひぃくんから視線を逸らすと彩奈と会話を始める。
「拗ねちゃったねー、翔」
私に向けて、フニャッと笑って小首を傾げたひぃくん。
「う、うん。……そうだね」
(拗ねた? というより、面倒になっただけじゃ……)
そうは思ったものの、幸せそうに微笑んでいるひぃくんを見るとそうとは言えずに、私は引きつった顔で笑顔を作ると小さく笑い声を漏らした。
そのまま四人揃って私達の家まで帰ってくると、扉に鍵を差し込んで玄関扉を開いたお兄ちゃん。
────ガチャッ
扉を掴んだままのお兄ちゃんの横から顔を覗かせると、私は玄関に置かれているいくつかの靴を流し見た。
(……あっ! 帰ってきてるっ!)
綺麗に並べられたお母さん達の靴を発見すると、そのままお兄ちゃんの横をすり抜けて急いで中へと入ってゆく。
「お母さーんっ! お父さーんっ!」
そんな声を上げながら、廊下をバタバタと走ってゆく私。
────バンッ!
勢いよくリビングの扉を開けると、中にいる人物に向かって大きな声を上げる。
「お帰りぃーーっっ!!」
開け放った扉の先に見えてきたのは、ソファで寛ぐお母さんとお父さんの姿。そんな二人を目にした私は、その勢いのまま二人の元へと駆け寄った。
「……っ、会いたかったよぉー!!」
「まぁ……相変わらず元気ねぇ。ただいま、花音」
勢いよく突進した私に驚きながらも、優しく受け止めてくれたお母さん。そんなお母さんは、私の頭を優しく撫でながらクスリと笑い声を漏らした。
(お母さん。会いたかったよ……)
鼻腔を掠める懐かしい匂いと、以前と変わらぬお母さんの優しい温もり。その安堵感からか、何だか目頭が熱くなってくる。
お母さんにしがみつく手にギュッと力を込めると、溢れそうになる涙をグッと堪える。
「──花音っっ!!!」
────!?
突然グイッと腕を引っ張られたかと思うと、お母さんと引き離されてしまった私。代わりに私を包み込んだのは、適度に筋肉のついた引き締まった腕。
私はそっと顔を上げると、その腕の主に向かって口を開いた。
「お父さん……っ、苦しっ……」
「花音……、花音……っ。またこんなに可愛いくなって……っ。お父さん……、寂しかったよぉ……っ」
鼻水を垂らしながら泣きじゃくるお父さんは、そう言って私をギュウギュウと抱きしめる。
────!!?
「いっ……、嫌ぁーっ!!」
(はっ、鼻っ……、鼻水が垂れるーっ!!)
間近に迫ったユラユラと揺れる鼻水を見て、私の瞳は驚きに見開かれた。
必死にお父さんを押し退けようとするも、ガッチリと抱きしめたまま離してくれない。お陰で、私の涙はすっかりと渇いてしまった。
中々離れようとしないお父さんと格闘していると、リビングの入り口からお兄ちゃん達が入ってくる姿がチラリと見えた。
「……あっ! 彩奈っ!」
私のその声に、ピタリと動きを止めたお父さん。
チラリと頭上を見てみると、さっきまでの鼻水は何処へやら、すっかりと涙を引っ込めたお父さん。何事もなかったかの様な顔でお兄ちゃんを見ている。
「翔、久しぶりだな……。花音の事ありがとな。元気にしてたか?」
「あ……、うん。お帰り……」
爽やかな笑顔を見せるお父さんに対して、若干顔を引きつらせているお兄ちゃん。たぶん、あの一瞬の出来事を見ていたのだろう。
私達家族の前ではすぐ泣くくせに、彩奈やひぃくんの前では絶対に涙を見せないお父さん。
(まぁ、それがわかってたから彩奈の名前を呼んだんだけどね。一体どんな忍法よ……)
一瞬で涙を引っ込めるなんて、そんな技ができるのはひぃくんとお父さんぐらいなものだ。
爽やかな笑顔を見せるお父さんの横で、私は安堵の息を小さく漏らした。
(もうダメかと思った。もう少しで鼻水が私に垂れるとこだったよ……)
顔面間近に迫った鼻水を思い出した私は、その恐怖からブルリと身体を震わせた。
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