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♡第二章♡
煩悩はつまり子煩悩? Part①
しおりを挟むソワソワと落ち着かない様子で、チラリと掛け時計に目を向ける。
(……ひぃくんまだかなぁ。彩奈はもうとっくに来てるのに。斗真くん達との約束の時間まで、あと三十分しかないよ)
大晦日の今日。皆んなでカウントダウンに行く約束をしている私は、未だに姿を現さないひぃくんに焦りを感じ始めていた。
斗真くん達と待ち合わせをしている駅までは、自宅から出発すると二十分はかかってしまう。
(もうギリギリだよ……)
痺れを切らした私は、椅子から立ち上がろうとテーブルに手を付いた。
「私、ちょっと迎えに行っ──」
「ダメ」
間髪入れずにそう告げると、ギロリと鋭い視線を向けるお兄ちゃん。
私は顔を引きつらせると、立ち上がりかけていた腰を下ろして椅子へと座り直す。
(そっ、そんなに怖い顔しなくたっていいじゃん。ちょっと迎えに行くだけなのに……)
ちょうど一週間前のクリスマスの日以来、ひぃくんの家への立ち入りを禁止されてしまった私。正直あの日は私も助かった。だけど、あの日のお兄ちゃんを思い出すと……今でも恐ろしい。
それを思い出した私は、あまりの恐怖からブルリと身体を震わせた。
「寒いの?」
震える私に気付いた彩奈が、心配そうに私の顔を覗き込む。
「だ、大丈夫だよ? ヒートテック二枚も着てるし」
心配させまいとニッコリと微笑んで返事を返すと、彩奈の隣に座っているお兄ちゃんが口を開いた。
「アイスココアなんて飲んでるからだろ? ほら。風邪ひくなよ」
呆れたような顔をしながらも、自分の飲みかけの紅茶を私に向けて差し出すお兄ちゃん。
湯気が出ていてとても熱そうだ。
「あ、ありがとう……」
(震えたのは貴方のせいです)
なんてことは、口が避けても言えない。暫くはこのトラウマが続きそうだ。
ヘラリと引きつった笑顔を見せた私は、熱々の紅茶にフーフーと息を吹きかけるとコクリと一口飲み込んだ。
◆◆◆
その後、なんとか時間ギリギリで間に合った私達は、無事に斗真君達と合流すると目的地だった神社へとやって来た。
「……うわぁーっ! やっぱり凄い混んでるね!」
カウントダウンの為に集まった多くの人集りを見て、私は大きく感嘆の声を上げた。
先の見えない行列を眺めた後、とりあえず最後尾らしき列に並び始めた私達。
(ここって、まだ神社の入り口付近だよね?)
キョロキョロと辺りを見回してみても、先頭の様子なんてちっとも分からない。諦めた私は、今度は参道脇に並んだ何件もの出店を物色し始めた。
(どれもとっても美味しそう)
その美味しそうな食べ物の匂いにつられて、グゥ~ッと音を鳴らした私のお腹。
(お腹空いたなぁ……)
ペコペコになったお腹を摩りながら出店をジッと眺めていると、そんな私に気付いたひぃくんが話しかけてきた。
「お腹空いちゃったねー。何か買いに行こっか?」
「うんっ!」
勢いよく頷くと、そんな私を見てクスリと微笑んだひぃくん。
「並んでおくから、買いたい人は行って来な」
私達のやり取りを横で見ていたお兄ちゃんは、斗真くん達に向けてそう告げると優しく微笑んだ。
「「ありがとうございます」」
お兄ちゃんの言葉を受けて、ペコリと軽く会釈をする斗真くん達。
結局、お兄ちゃんと彩奈だけを残して出店に向かう事にした私達は、それぞれが目当ての出店へと向かって散り散りに歩き始めた。勿論、私はひぃくんと一緒に。
「適当に二人分買ってきて」と言われて、お兄ちゃんから渡された五千円札をポケットへとしまうと、目の前に立ち並ぶ出店を眺めてキョロキョロとする。
(何食べようかなー? こんなにあると迷っちゃうなぁ)
そんな事を考えながらも、緩んだ顔をニヤケさせる。
「ねぇねぇ、花音ちゃん。花音ちゃんのお兄さんて……凄いイケメンだよねっ」
私のすぐ傍へと近寄って来た志帆ちゃんは、そう小さく耳元で囁く。
「お兄さんてさ、彼女いるのかな?」
「んー……どうなんだろう?」
そんな曖昧な返事を返しながらチラリと隣を見てみると、ほんのりと赤く頬を染めた志帆ちゃんが「カッコイイなぁ~」なんて言いながらニヤニヤとしている。
クリスマスイブの日に、何処へ出掛けていたお兄ちゃん。
(……彼女でもいるのかなぁ?)
チラリと後ろを振り返ると、少し離れた先で彩奈と二人で列に並んでいるお兄ちゃんを眺める。
(私にはダメって言ってたくせに……。自分だけ堂々とクリスマスデートなんて、許さないんだからっ!)
自分だってコッソリとひぃくんとのデートを楽しんでいたというのに、そんな事も忘れてプンプンと怒る私。彩奈と楽しそうに話しているお兄ちゃんを眺めて、プクッと頬を膨らませる。
「花音、どうしたの?」
私の顔を覗き込みながら、小首を傾げてクスクスと笑い声を漏らすひぃくん。
「ううん、何でもないよ」
「ちゃんと前見てないと危ないよ?」
「うん」
ひぃくんに向けてニッコリと微笑むと、目の前に差し出されたひぃくんの手を握った私は、再び出店に向かって歩みを進めた。
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