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♡第二章♡

恋人はサンタクロース Part③

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 サンタクロースの衣装へと着替え終えた私は、左手を目線の高さまで掲げると貰ったばかりの指輪を眺めた。
 その指輪はとてもシンプルな作りで、控えめなハートの形をした飾りの中央には一粒の小さな石がはめ込んである。
 シンプルだけど、決して安物には見えない。きっと、それなりの値段はしたはずだ。


(そういえば、まだちゃんとお礼を言ってなかったかも……。ちゃんとお礼言わなくちゃ)


 眺めていた指輪から視線を外すと、私は目の前のノブに手を掛けて廊下へと続く扉を開いた。


「ひぃくん」


 扉のすぐ近くで待っていたひぃくんは、私の姿を捉えると途端に瞳をキラキラと輝かせた。


「花音っ、可愛いー!」


 そう言ってフニャッと微笑むひぃくん。
 私はフフッと照れた様な笑みを見せると、そのままひぃくんへ向けて口を開いた。


「ひぃくん、指輪ありがとう。絶対に大切にするからね」


 私が言葉を言い終えた次の瞬間、ガバッと抱きついてきたひぃくん。



 ────!!



 その突然の行動に一瞬驚きつつも、ひぃくんの背中にそっと腕を回してみる。


「あーっ! もぅ、可愛すぎるよ~! 今すぐ結婚したいよー!」


(うーん……。それはちょっと困るかなぁ)


 そんな事を思いながらも、フフッと小さく笑い声を漏らす。
 すると、抱きしめる力をふっと緩めたひぃくんは、身体をほんの少しだけ離すと優しい眼差しを向けて小さく微笑んだ。

 チュッと小さなリップ音を響かせて、軽く触れるだけのキスをしたひぃくん。


「……っ」

「可愛いー。トマトみたいだねっ」


 クスッと笑ったひぃくんは、そう告げると私の頬をツンっとつつく。
 未だに何度しても慣れない私は、真っ赤になっているのであろう顔を隠すようにして少しだけ俯いた。


(……もぅっ。言わないでよ、ひぃくんのバカッ。余計に恥ずかしいじゃない……っ)


 そんな私の様子を見てクスクスと笑い声を漏らしたひぃくんは、俯いたままの私の手を取るとベッドの上へと座らせた。


「ねぇサンタさん?」


 その声に反応してひぃくんの方を見てみると、フニャッと笑いながら小首を傾げて私を見ている。


「なぁに?」


 どうやら、今の私はサンタさんという設定らしい。それがなんだか可笑しくて、思わずクスリと笑い声を漏らす。


「プレゼントちょーだい?」

「……へ?」


 ニコニコと微笑むひぃくんを前に、焦った私は間抜けな声を溢すと瞳を泳がせた。


(えっ……。コスプレするのがプレゼントじゃなかったの? どうしよう……っ私、本当にプレゼント用意してないのに……)


 申し訳ない気持ちで押し潰されそうになりながら、眉尻を下げた情けない顔でひぃくんを見つめる。


「あのね、ひぃくん。私……、本当にプレゼント用意してないの。ごめんなさい」


 自分の不甲斐なさに反省しながら謝罪の言葉を述べると、クスッと笑い声を漏らしたひぃくんが私の耳元で甘く囁いた。


「プレゼントならちゃんとあるよ?」

「え……?」



 ────!?



 気付けば、ベッドの上で仰向け状態になっている私。
 目の前には、ニコニコと微笑むひぃくんの姿。その背後に広がるのは、ひぃくんの部屋の天井らしきもの。


(……え? この状況は……一体、何……?)


 突然の出来事に上手く処理しきれない私は、目の前にいるひぃくんをただ呆然と見上げる。


「プレゼントは花音だよ?」


 私の上にまたがっているひぃくんは、フニャッと嬉しそうに微笑むと未だ処理しきれずに呆然とする私に向かって平然とそう言い放った。


(……っ!!? えっ!? えーーっっ!!? まっ、まままっ、ちょっ……待ってっ! むっ、む、ムリムリムリムリーー!!! ひぃくんの事は好きだけど……大好きだけど……っ! ま、まだ心の準備がっ……!!!)


 この状況が何を意味するのか察した私は、一人脳内でパニックを起こす。恥ずかしさで一瞬真っ赤に染まった顔は瞬時に青へと変わり、緊張からビシリと硬直してしまった身体はピクリとも動かなくなった。
 そんな私を愛おしそうに見つめるひぃくんは、緊張で強張こわばる私の頬を優しく撫でると口を開いた。


「大丈夫だよ、花音。心配しないで。凄く可愛いから」


 そう告げると、とても幸せそうな顔でフニャッと微笑んだひぃくん。


(…………)


 この状況下で、私が今心配しているのはどう考えたって己の可愛さである訳がない。それなのに、そんな訳のわからない事を言っているひぃくん。


(それ、本気で言ってるの……?)


 あまりにも的外れなひぃくんの言葉に、軽く絶望感を覚える。
 それでも、青ざめたままジッと固まるだけの私は、ゆっくりと近付いてくるひぃくんの姿を、ただ眺めていることしかできなかった。

 やけにスローモーションに見えるその動きを、ただジッと見開いた瞳で追いかける事しかできない私。


(っど、どどど、どうしよう……っ。無理だよ……っ。私……、まだ無理っ……!!!)


 間近に迫ったひぃくんの顔を前に、ギュッと固く瞼を閉じた──その時。



 ────ドンッ!!!! ────!!?



 すぐ間近で鳴り響いた物凄い音に驚き、私は閉じていた瞼を勢いよく全開にさせた。


(……いっ、今のは一体、何っ!!?)


「……あっ」


 私の上に跨っているひぃくんが、小さく声を漏らした。その視線は、つい先程までは私を見つめていたというのに、今はベッドわきへと向けられている。
 そこにあるのは、私の部屋へと侵入する時にひぃくんが使用している窓。何やら嫌な予感がした私は、ひぃくんの視線を辿ってゆっくりと窓の方へと首を動かしてみた。



 ────!!?!!?



「ヒィッ……!!?」


 あまりの恐ろしさに、小さく声を漏らしてブルリと震えた私。そんな私の視界に飛び込んできたのは、それは世にも恐ろしい光景だった。
 窓にへばりついて私達を凝視する鬼──もとい、鬼の形相で怒り狂っているお兄ちゃんが、血走った瞳で私達を凝視している姿だったのだから。





 
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