ぱぴLove〜私の幼なじみはちょっと変〜

邪神 白猫

文字の大きさ
上 下
16 / 47
♡第一章♡

そんな君が大好きです Part④

しおりを挟む




「花音。大丈夫?」


 私の顔を覗き込み、心配そうにそう訊ねる彩奈。
 酸欠で具合が悪くなったのと、恥ずかしくてあの場にいられなくなった私は、斗真くん達と別れると少し離れた場所へと移動した。

 花火会場からは少し離れてしまうけど、ここでも充分に花火は見えるはず。
 何より、人が少なくていい。実は穴場スポットだったのかもしれない。


「うん、もう大丈夫。ありがとう」

「動ける?」

「うん」


 ベンチに腰掛けて休んでいた私は、立ち上がるとお兄ちゃん達のいる方へと向かって足を進めた。
 目の前に見えるのは、場所取りをしてくれているお兄ちゃん達の姿。何やら、見覚えのない数人の男女と談笑している。


「誰だろ?」

「さぁ……?」


 私の隣を歩いている彩奈は、お兄ちゃん達の姿を眺めながら首を傾げる。


(学校の友達かな?)


 そんな考えを頭の中で思い浮かべた私は、そのままお兄ちゃんの背後まで着くとピタリと足を止めた。


「お兄ちゃん」


 私の声に振り返ったお兄ちゃんは、私を視界に捉えると優しく微笑む。


「具合良くなったか?」

「うん。もう大丈夫」


 そんな返事を返しながら、お兄ちゃんの背後へとチラリと視線を移す。すると、それに気付いたお兄ちゃんは口を開いた。


「学校の奴ら。今さっきそこで偶然会ったんだよ」


 チラリと背後に視線を送ったお兄ちゃんは、そう告げると私と彩奈を皆に紹介してくれる。


「妹の花音と、その友達の望月彩奈さん」

「あー、知ってる知ってる! 噂の妹ちゃん!」

「誰と付き合っても妹優先するからフラれるって噂の? あー……。まぁ、こりゃ確かに優先したくもなるわ」


 そう言って、ジロジロと私を見てくる先輩達。


(ていうか……お兄ちゃんて彼女いたんだ。全然知らなかったよ)

 
「可愛いね~。俺と付き合わない?」


 私の顔を覗き込む先輩は、そう告げるとニッコリと笑った。


(えっ? 私……今、告白されたの? 生まれて初めてだよ、告白なんてされたの……)


 人生初の告白に感動で小さく震えていると、突然横からグイッと肩を抱き寄せられる。


「手、出したら殺すよ?」


 その声に頭上を見上げてみると、ニッコリと微笑むお兄ちゃんがいる。
 笑ってはいるけど……その顔は完全に鬼だ。背後には、なにやらどす黒いオーラまで放っている。


「お友達も可愛いね~。俺と付き合わない?」


 今度は彩奈に告白する先輩。


(なんて変わり身の早い人なんだろう……。私の感動を返してもらいたい)


「この子もダメだから」


 お兄ちゃんは空いていた左手で彩奈の肩を抱き寄せると、そう言って先輩から遠ざける。
 お兄ちゃんの腕に抱かれて少し俯き加減の彩奈は、何だか微妙に顔が赤い気がする。


(どうしたんだろ? ……あっ。鬼が怖いのね)


 チラリとお兄ちゃんを見上げると、そこにはやっぱり鬼がいた。


(怖いよね……私も怖いもん。ごめんね、彩奈)


「──花音」


 突然呼ばれたその声に視線を向けてみると、そこにはニコニコと微笑むひぃくんがいる。その腕には、何故か見知らぬ女の人が絡みついている。


(……何、してるの……?)


 ニコニコと微笑みながら、私達の方へと向かって来ようとするひぃくん。それを必死に引っ張って止めている女の人。
 よく見てみると、とても可愛い人だ。


(……何だか……っ胸が、痛い)


 チクチクとしだした胸に、思わず顔を歪める。


(何っ、これ……。私、死ぬの……?)


「お……っお兄ちゃん……。苦しっ……私、死ぬ……っ」

「えっ!?」


 お兄ちゃんの胸に顔をうずめて必死にそう訴えると、頭上からお兄ちゃんの焦ったような声が聞こえた。
 

 そして再び、ベンチへ逆戻りした私。
 そんな私の隣では、彩奈が心配そうな顔をして私を見ている。


「花音……大丈夫?」

「うん。何かもう治ったみたい」


 俯いていた顔を上げてお兄ちゃん達の方を見てみると、心配そうにチラチラとこっちを見ているお兄ちゃんがいる。一緒に付いてこようとしたお兄ちゃんを制すと、私は彩奈と二人でベンチへと戻って来た。
 せっかく友達と楽しそうにしているのに、何だか連れ出すのは申し訳なかったから。

 チラリとひぃくんに視線を移すと、相変わらずその腕には女の人がくっついている。
 その光景を目にした途端、何だかまた胸が苦しくなってくる。


「あ……っまた、胸が苦しくなってきた……。どうしよう……っ私、死ぬの……?」


 ひぃくんを見つめたままそう呟くと、私の視線を辿った彩奈が溜息を吐いた。


「ねぇ。それって、響さんを見ると苦しくなるんじゃない?」


(す、凄いっ。何でわかるの? その通りだよ)


「うん……。っ苦しい、助けて……っ」


 苦痛に顔を歪めたまま必死に懇願すると、彩奈はそんな私を見て溜息交じりに口を開いた。


「それは響さんのことが好きって事だよ。……花音のバカ」


 彩奈の言葉に、思わず顔が引きつる。


(そんな訳ないじゃん……。何言ってるの? 酷いなぁ……バカだなんて)


 引きつった顔でぎこちない笑顔を作ると、小さく笑い声を漏らす。


「あの女の先輩のことが気になるんでしょ? 」

「……っ、うん」

「可愛いもんね、あの先輩」

「うん」

「響さんの事好きだよ、あの人」

「……えっ」


 彩奈のその言葉に衝撃を受けた私は、ひぃくん達から視線を逸らせないままその場で固まってしまった。


(あんなに可愛い人が……ひぃくんを……好き、なの……?)


「あのまま二人が付き合ってもいいの?」


 ズキズキと胸が痛む。


(お願い……っやめて、彩奈)


「付き合っちゃうかもね? あの二人」

「やっ……、やだっ!」


 今にも泣き出しそうな顔をして大声を上げると、そんな私を見た彩奈はクスリと笑った。

 
「……好きなんだね、響さんの事」


 私を見つめる彩奈は、そう告げるととても優しく微笑んだ。


(そっか……私……ひぃくんの事が好きなんだ──)


 素直にそう認めてみると、何だか胸の中が少しだけ軽くなったような気がする。


「うん。……好き」


 そう小さく呟くと、私を見つめる彩奈はニッコリと微笑んだ。


「やっと自覚したね」


(でも……っ、自覚したからってどうすればいいの?)


 私は彩奈から視線を外すと、相変わらず女の人と一緒にいるひぃくんを見つめた。やっぱりズキズキと痛む胸に、ギュッとひよこを抱きしめる。
 とその時──女の人と連れ立って、何処かへ向かって歩き始めたひぃくん。そのまま皆のいる場所から、どんどん遠ざかってゆく二人。


(え……っ? 何処に行くの?)


「告白かもね」

「え……っ」


(あの人と付き合っちゃうの……? もう、ひぃくんと一緒にいられなくなっちゃうの? っ、……そんなの嫌。絶対に嫌……っ!)


 そう思った私は、気付けばその場から勢いよく走り出していた。
 後ろで彩奈が私を呼んでいる声が聞こえるけど、それでも私は止まる事なく走り続けた。


(どこ……っ? どこにいったの……っ、ひぃくんっ!)


 人気のない場所で、必死にキョロキョロと辺りを見回す。


「ひぃくん……、どこにいるの……っ」


 中々見つけられないその姿に、心細さと悲しさで涙が出そうになる。
 今にも溢れ落ちてしまいそうな涙をグッと堪えると、私は胸元に抱きしめたひよこに顔をうずめた。


「──花音っ!」


 聞こえてきた声に反応して勢いよく顔を上げると、私の視界に飛び込んできたのは、必死に探し求めていたひぃくんの姿だった。
 とても焦った顔をみせるひぃくんは、すぐに私の元まで駆け寄ると心配そうに私の顔を覗き込んだ。


「こんなところで何してるの? 一人でいたら危ないよ?」

「ひぃくん、探してたのっ……。嫌……っ」


 小さく呟くようにして声を漏らすと、そのまま目の前のひぃくんにしがみつく。
 そんな私を優しく抱きとめてくれたひぃくんは、まるで私をあやすかのようにして優しく頭を撫でてくれる。


「花音、どうしたの? 嫌って何が嫌なの?」


 ついにグズグズと泣き始めてしまった私に、「泣かないで」と優しく声を掛けながら涙を拭ってくれるひぃくん。


「ひぃくん、いなくなっちゃ嫌ぁ……」

「大丈夫だよ、いなくならないよ?」

「私っ……、ひぃくんが好きなの……。ずっと一緒にいたい……っ」


 思いのままにそう伝えると、私の頭を撫でていたひぃくんの手がピタリと止まった。
 抱きしめられていた身体をゆっくりと離されると、私と目線を合わせたひぃくんがニッコリと微笑む。


「花音。もう一回言って?」


(……どこを?)


「一緒にいたい……」

「んー。違うよ、花音。そこじゃないよ?」


 小首を傾げてニコニコと微笑むひぃくん。


(もしかして……好きって……、ところ? むっ……ムリムリムリッ! 恥ずかしすぎるもんっ!)


 チラリとひぃくんを見てみると、ニコニコと微笑みながら私の言葉を待っている。


(どうしてまた言わなきゃいけないの……。何でちゃんと聞いててくれないのよ……、ひぃくんのバカっ)


「…………っ、好き……」


 真っ赤になりながらもポツリと小さな声を溢すと、とても嬉しそうな顔をしてフニャッと笑ったひぃくん。


「俺も花音のことが大好き~」


 幸せそうに微笑むひぃくんにつられて、思わずクスリと笑みが漏れる。



 ────ドンッ!



 突然聞こえてきた大きな音につられるようにして、すぐ横へと視線を移してみる。
 すると、ヒュルヒュルと空高く打ち上がった光が、パッと綺麗な花火を咲かせた。


「花火……」

「始まっちゃったねー」


 木々の隙間から覗く花火を眺めながら、隣に並ぶひぃくんの浴衣の袖をキュッと掴む。


(花火……ひぃくんと一緒に見れて良かった)


 毎年一緒に見ているはずなのに、何故か今年の花火だけは特別に思える。


「花音は俺の大切なお嫁さんだからね?」


 花火から視線を移すと、とても優しい笑顔を向けるひぃくんと視線が絡まる。


「……うん」


 私の返事にフワリと優しく笑ったひぃくんは、私の頬に静かに両手を添えると、そのままゆっくりと唇を重ねた。
 私の腕の中にいるひよこが、地面へと向かってポトリと落ちてゆく。


(え────)


 そっと触れるだけのキスをしたひぃくんは、私から離れるとニッコリと優しく微笑んだ。


(私……今、ひぃくんとキス……。キス……、しちゃった……)


 そう認識した途端に、一気に熱の上がった私の顔。きっと、今の私の顔は真っ赤に違いない。
 恥ずかしさから顔を俯かせると、下に落ちたひよこを拾い上げたひぃくん。パンパンと軽くその場で汚れを落とすと、ひよこを差し出してニッコリと微笑む。


「はい。おっぱい落ちたよ?」


(…………。……クッションだよ)


 こんな時でさえ、いつもと変わらないひぃくん。
 すっかりと“おっぱい”が名前みたいになってしまったひよこを受け取ると、私はニコニコと微笑むひぃくんを見つめた。

 ちょっぴり変なひぃくん。
 きっと、これからもそれは変わらない。


 ──だけど、そんな君が大好きです。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

美少女は保護られる〜私の幼なじみはちょっと変〜

邪神 白猫
恋愛
◆お知らせ◆ 現在、新たに加筆修正したものを新規公開中です 新タイトル 【ぱぴLove〜私の幼なじみはちょっと変〜】 https://www.alphapolis.co.jp/novel/21507582/669902083 ↑ お手間をお掛けして申し訳ありませんが、こちらの作品の方で“しおり”や“お気に入り”等をお願いしますm(._.)m 見た目は完璧な王子様。 だけど、中身はちょっと変な残念イケメン。 そんな幼なじみに溺愛される美少女の物語ーー。 お隣りさん同士で、小さな頃からの幼なじみの花音と響。 昔からちょっと変わっている響の思考は、長年の付き合いでも理解が不能?! そんな響に溺愛される花音は、今日もやっぱり振り回される……! 嫌よ嫌よも好きのうち?! 基本甘くて、たまに笑える!そんな二人の恋模様。 ※ 表紙&作中に出てくるイラストは全てフリーアイコンを使用しています タイトルは造語を使用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

【R18】仲のいいバイト仲間だと思ってたら、いきなり襲われちゃいました!

奏音 美都
恋愛
ファミレスのバイト仲間の豪。 ノリがよくて、いい友達だと思ってたんだけど……いきなり、襲われちゃった。 ダメだって思うのに、なんで拒否れないのー!!

処理中です...