ぱぴLove〜私の幼なじみはちょっと変〜

邪神 白猫

文字の大きさ
上 下
9 / 47
♡第一章♡

君はやっぱり凄く変 Part①

しおりを挟む




「遊びに行きたぁーーいっ!!」


 リビングで大声を出してジタバタとする私。学校も夏休みに入ったことだし、これからは毎日遊べるから嬉しい。そう思っていたのに……。
 今、私はお兄ちゃんに監禁されているのだ。その監禁生活も今日で七日目になる。夏休みを一週間も無駄にしてしまった。



 ────ポコンッ



「痛っ!」

「遊びたいならさっさと宿題やって」


 丸めたノートで頭を殴られて、口を尖らせながら頭をさする。


「……鬼」


 チラリとお兄ちゃんを見るとポツリと小さく呟く。


(本当は大声で叫びたいけど、お兄ちゃん怖いから)


「あっそ。じゃあ一人でやりな」


 そう告げると、椅子から立ち上がって歩き始めたお兄ちゃん。そんなお兄ちゃんの腕を慌てて掴むと、私は顔を見上げてヘラリと引きつった笑顔を浮かべた。


「嘘です、お兄様……手伝って下さい。私を一人にしないで……っ」


 そんな私を見てプッと笑ったお兄ちゃんは、再び私の横に座ると宿題を見てくれる。
 毎年、夏休み最終日にひぃくんに泣き付いている私。今回はそんな事にならない様にと、最初に終わらせるように言われてしまったのだ。


(ひぃくんだったら全部代わりにやってくれるのになぁ)


 今回も実はひぃくんに期待していた私。『響は甘やかすからダメ!』とお兄ちゃんに言われてしまった。


(なんて不幸な私……)


 お兄ちゃんはスパルタなのだ。

 幸い、なんだかんだでお兄ちゃんも手伝ってくれているから、何とか今日中には終わりそうだ。スパルタだけど優しいお兄ちゃん。
 そんなお兄ちゃんは、自分の宿題を二日で終わらせてしまった。なんて羨ましい頭脳……。同じ血を分けているとは思えない。


(ポンコツすぎるよ、私)


 高校受験だって、お兄ちゃんとひぃくんがいなかったら絶対に受かっていなかったと思う。


「お兄ちゃん、ありがとう」


 隣にいるお兄ちゃんをチラリと見ると、私と目を合わせたお兄ちゃんは優しく微笑んだ。


「あと少しだから頑張ろうな」


 そう言ってポンポンと頭を撫でてくれる。
 私はお兄ちゃんに向けて「うんっ」と返事をすると、その後もの凄い集中力で宿題をこなしていった。
 



 

◆◆◆






「終わったぁー!」


 全ての宿題を終えた私は、解放感からその場で大きく伸びをする。視界に入ってきた掛け時計をチラリと見てみると、もう午後三時を回っている。


(朝十時からやってたのに……)


 どうやらお昼も忘れて宿題をしていたらしい。


「お疲れ様ー」


 突然の声に驚きながら振り向くと、そこには何とひぃくんの姿が。ソファに座ったまま背もたれに両腕を乗せ、私達のいるダイニングを見ているのだ。


「……え!? ひぃくんいつ来たの?」

「んー、お昼くらい?」


 小首を傾げてフニャッと微笑むひぃくん。


(え……全く気付かなかった)


「二人共もの凄く集中してたから邪魔しちゃ悪いと思って……ずっと見てた」

「えっ!? ずっと見てたの!? 全然気付かなかったよ……」


(三時間も見ていたなんて、なんて暇な人なんだろう)


 そんな風に思っていると、ダイニングへと近付いて来たひぃくんが口を開いた。


「お土産があるんだー」


 フワリと微笑んだひぃくんは、そう告げるとキッチンへと入って行く。その数秒後、再び戻ってきたひぃくんの手元には──。


「……シュクレッ!」


 途端に瞳を輝かせた私は、思わずひぃくんに飛びついた。そんな私をクスクスと笑いながら優しく見つめるひぃくん。
 その手には、私の大好きなケーキ屋さん『シュクレ』の箱が握られていた。


「頑張った子にはご褒美あげなきゃねー」


 そう言って私の頭を優しく撫でてくれる。
 

「やったー! ありがとう、ひぃくん!」


 ピョンピョンと飛び跳ねて喜ぶ私。そんな私の腕を掴んだお兄ちゃんは、私を椅子に座らせると「お皿持ってくるから座ってな」と言ってキッチンへと消えてゆく。


「いっぱい買ったんだー。花音どれ食べたい?」


 ニコニコと微笑むひぃくんに箱の中を見せられ、私はキラキラと瞳を輝かせた。


(どれも美味しそう……。んー迷うなぁ)


 あーでもないこーでもないと悩む私を見て、ひぃくんはクスリと声を漏らす。


「半分コにして色々食べてみる?」

「うんっ!」


 ひぃくんの提案に即決する私。今日は何ていい日なんだろう。宿題は終わったしシュクレのケーキは食べれるし……。


(……幸せだなぁ)


 思わず顔がニヤけてしまう。

 お兄ちゃんが持ってきてくれたお皿にケーキを取り分けると、私達はそれぞれにケーキを食べ始める。半分コな私はひぃくんから「あーん」なんてされているけど、今の私は幸せだからそんなこと気にはならない。
 素直に食べさせてもらっている私を見て、ひぃくんは随分とご機嫌な様子だ。


「可愛いねー、花音」


 そんな事を言われながらケーキを口に運ばれる私は、さながら餌付け中の犬のようだ。お兄ちゃんの視線がちょっと痛い。


「宿題も終わった事だし、今度花音の行きたいとこ連れて行ってあげるね」

「本当!?」

「うん。どこに行きたいか考えといてね」

 ニッコリと笑ったひぃくんは、そう告げると私に向けて顔を近付けてくる。


(……え?)


 と思った時には遅かった。ひぃくんは私の唇に付いたクリームをペロリと舐め取ると、フニャッと笑って「美味しー」と言った。


「……響っ!?」


 慌てて椅子から立ち上がったお兄ちゃん。


(えっ……? ……え!? えぇぇええーー!!?)


 握っていたフォークをポロリと落とした私は、口元を抑えると呆然とした。


(私の……ファーストキス、が……)


 呆然としたまま隣を見ると、そこには幸せそうにニコニコと微笑んでいるひぃくんがいる。


(な、なかった事にしよう……。なかった事にすれば……きっと大丈夫。うん、これはキスじゃない。犬に舐められただけ。大丈夫……ひぃくんは犬)


 訳のわからない暗示を自分にかけた私は、思いっきり引きつった笑顔でひぃくんを見つめ返すことしかできなかった。







◆◆◆







「海に行きたい!」

「海はダメ! 絶対ダメ!」

「ひぃくんの嘘つきっ! この前行きたいとこ連れてってくれるって言ったのにっ!」


 私は今、自宅のリビングでひぃくんと口論をしている。海に行きたいと言う私に、ひぃくんは首を縦に振ってくれないのだ。


(ひぃくんの嘘つき……! 行きたいとこ連れてってあげるって言ったのに!)


「ひぃくんなんて嫌いっ!」


 プイッと顔を背けると、ひぃくんは焦った様に私の顔を覗き込んだ。


「ごめんね、花音。でも……裸で海に行くなんてダメだよ」


 悲しそうな顔でそんなことを言うひぃくん。


(もうっ! 何なの!? この前の時といい、裸裸って人を変質者みたいに!)


「裸でなんて行かないよっ! ちゃんと水着着るもん!」

「っ……、あんなの裸と一緒だよーー!!」


 私の肩をガッチリと掴んだひぃくんは、ガクガクと揺らしながら大きな声でそう叫んだ。


(み……耳が痛い……っ)


 至近距離で叫ばれた私の耳は、鼓膜が破れるんじゃないかってくらいにキーンとしている。


「……もういい。ひぃくんとは行かない」


 私の言葉にショックを受けたのか、ひぃくんは両目を全開にさせるとその場で固まった。


(……もういいもん。ひぃくんとなんて行かないんだから。彩奈と一緒に行くもん。ひぃくんなんて知らない!)


 そう思って立ち上がると、突然ガシッと私の腕を掴んだひぃくん。驚きながら振り返ると、そんな私を見てニッコリと微笑む。


「プールならいいよ?」


(え? ……プール? プールならいいの?)


 本当は海に行きたかったけど、この際プールでもいい。


「本当!?」

「うん。じゃあ、今からプールに行こうね。着替えておいで、俺も準備してくるから」


 そう言ってニコニコと微笑むひぃくん。
 何で突然いいと言い出したのかは分からない。だけど、プールに行けるならそんなことどうだっていい。


「うんっ! わかった!」


 笑顔でそう答えた私は、ルンルン気分で二階へと上がってゆく。
 ──この時の私は、まさかあんな地獄のプールが待ち受けているとはこれっぽっちも思っていなかったのだ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

美少女は保護られる〜私の幼なじみはちょっと変〜

邪神 白猫
恋愛
◆お知らせ◆ 現在、新たに加筆修正したものを新規公開中です 新タイトル 【ぱぴLove〜私の幼なじみはちょっと変〜】 https://www.alphapolis.co.jp/novel/21507582/669902083 ↑ お手間をお掛けして申し訳ありませんが、こちらの作品の方で“しおり”や“お気に入り”等をお願いしますm(._.)m 見た目は完璧な王子様。 だけど、中身はちょっと変な残念イケメン。 そんな幼なじみに溺愛される美少女の物語ーー。 お隣りさん同士で、小さな頃からの幼なじみの花音と響。 昔からちょっと変わっている響の思考は、長年の付き合いでも理解が不能?! そんな響に溺愛される花音は、今日もやっぱり振り回される……! 嫌よ嫌よも好きのうち?! 基本甘くて、たまに笑える!そんな二人の恋模様。 ※ 表紙&作中に出てくるイラストは全てフリーアイコンを使用しています タイトルは造語を使用しています。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

処理中です...