ぱぴLove〜私の幼なじみはちょっと変〜

邪神 白猫

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♡第一章♡

そんな君が気になります Part②

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「お兄ちゃん……私、もう学校辞める」

「は……?」

「だって……っ。もうっ……、もう学校行けないよぉぉおおーー!!」


 大きな声を上げるや否や、突然泣き始めた私を見て焦り始めるお兄ちゃん。

 ──私達は今、誰もいない中庭へと来ている。晒し者になっていた私をお兄ちゃんが連れ出してくれたのだ。
 あの後、マイクを借りて訂正してくれたお兄ちゃん。


『今のは嘘です!』


 そう宣言するお兄ちゃんに、『嘘じゃないよー』と反論し始めるひぃくん。物の言い方ってものをもう少し考えてもらいたい。
 結局、おやすみのハグをしているって事で話は落ち着いた。さすがに毎日一緒に寝ているとは言えない。


『昔からハグしてるんです。俺も響と毎日してます』


 そう言って身体を張って実演までしてくれたお兄ちゃん。その光景を前に、周りの女の子達からは歓喜の悲鳴が上がった。
 それでもやっぱり、一部の女の子達からは私に対しての反感の声が上がっていた。訂正してくれたお兄ちゃんの言葉も、皆んながどれだけ信じてくれたかは分からない。


(もしかしたら誰も信じてないかも……)


 そう考えるともう学校は辞めるしかないと思った。
 反感を買い、白い目を向けられて好奇な視線を浴びる。そんな四面楚歌な状況を想像すると、私は恐ろしくて耐えられそうにもなかった。


「大丈夫だって。絶対に大丈夫だから」


 身体を張ってくれたお兄ちゃんには申し訳ないけど、全然大丈夫なんかではない。


「無理ぃ……っ」


 中々泣き止まない私を見て、困り果てたお兄ちゃんは小さく溜息を吐いた。


「花音……お前、学校辞めたら絶対に後悔するぞ。大体、学校辞めてどうする気なんだ? 編入するのか? 就職でもするのか?」


 急に現実的な話をしだしたお兄ちゃんに、何も答えられない私は口をつぐんだ。


「何も考えてないんだろ? 学校を辞めるって事はそうゆう事なんだぞ」


(そんな正論言われたら何も言えないじゃん)

 
「絶対に大丈夫だから。……な? どうしても駄目だったらその時に一緒に考えてやるから」


 お兄ちゃんに説得され、渋々ながらに小さく頷く。


「俺も響もいるし。絶対に守ってやるから大丈夫だよ」


 そう言って優しく頭を撫でてくれるお兄ちゃん。


(……大体、私をこんな目に合わせた張本人は今どこにいるのよ)


「お兄ちゃん……ひぃくんは今どこにいるの?」


 グズグズと涙を拭きながらも目の前のお兄ちゃんを見上げる。


「ああ……たぶん告白されてるんだろ。さっき女子に呼ばれてどっかに行ったよ」


(告白……。告白されてるんだ……、ひぃくん)


 そんなの今に始まった事ではない。昔からモテていたひぃくんは、よく女の子に告白をされていた。だけど──何だろう、この胸のモヤモヤは。
 今まで考えた事もなかったけど、いつかひぃくんにも彼女ができてしまうのだろうか? そう思うと何だか悲しくなってくる。


(幼なじみを取られる気がして寂しいの、かな……?)


 何だかよく分からない複雑な気分だ。もしかしたら、今会っている人とそのまま付き合ってしまうのかもしれない。そう考えると気になって気になって仕方がなかった。
 何だかよく分からない胸のモヤモヤに、私は少しだけ後悔をした。


(お兄ちゃんに聞くんじゃなかった……もう忘れよう)


 そう思うと涙を拭いてパッと笑顔を浮かべる。


「……私もう戻るね。お兄ちゃん、さっきはありがとう」

「ん。じゃあ、また昼にな」

「うん、あとでね」


 そう答えると私は中庭を後にした。
 
 




◆◆◆






 黙ってモグモグとお弁当を食べている私は、チラリと隣にいるひぃくんを盗み見た。お昼休憩になり、今私はお兄ちゃん達と一緒に中庭に来ているのだけど──。


(さっきの告白、どうなったんだろう?)


 それが気になって仕方がなかった。
 相変わらず隣でニコニコとしているひぃくんからは、いつもと変わった様子は全く感じられない。


(聞いて……、みようかな)


「ねぇ、ひぃくん。さっきのって……どうなったの?」

「んー? さっきのって何?」


 お弁当を食べ進めていた手を止めると、私を見て小首を傾げるひぃくん。


「さっき……、告白されたんでしょ?」


 少しだけ顔を俯かせた私は、チラリとひぃくんの様子をうかがう。すると、ピタリと固まったひぃくんが両目を大きく見開いた。


(え……な、何? 聞いちゃマズかったのかな)


「か……っ、花音……花音……っ」


 潤んだ瞳を小さく揺らしながら、プルプルと震える両手を私に向けて伸ばしたひぃくん。
 そのままガバッと私に抱きついたかと思うと、突然私の耳元で大きな声を上げた。


「っ……可愛すぎるよ花音! お嫁に来てくれるの!? ありがとう!! 大切にするからね!!」


(み、耳が痛い…………。それより、私の質問はどこにいったの?)


「──おい」


 ギロリとひぃくんを睨みつけるお兄ちゃん。その声に反応してお兄ちゃんの方へと顔を向けたひぃくんは、嬉しそうな顔をすると口を開いた。


「翔っ! 聞いた!? 花音がお嫁に来てくれるって!!」


 そう言ってニコニコと微笑むひぃくん。そんなひぃくを気にするでもなく、私の腕を掴むとひぃくんから引き離したお兄ちゃん。


「聞いてないし言ってない」


 シレッとした顔をするお兄ちゃんは、自分の隣に私を座らせると再びお弁当を食べ始める。


「言ったよー! 確かに言った!!」


(いや……言ってないです、ひぃくん。私そんなこと一言も言ってないから。それより、私の質問はスルーなんですか? 結構勇気出して聞いたのにな……)


 そう思うとガックリと肩を落とす。


「告白が気になったってことは、俺のことが好きってことでしょ?」



 ────!!?



 ひぃくんの発した言葉を聞いて、私の顔は一気に熱が集中し始める。そして見る見る内に真っ赤に染まってしまった私の顔。まるで茹でダコのように真っ赤になってしまった私は、ひぃくんに向けて勢いよく声を上げた。


「っ……ち、違う! 違うもんっ!!」


(な、なんてことだ……っ! ひぃくんを好きだなんて……そんなことあるわけない! 違う、絶対に違うもん……!)


 カーッと熱くなってゆく身体に、自分でも動揺が隠せない。

 確かにひぃくんのことは好き。だけどそれは、恋とかではなくて幼なじみとして好きなだけ。
 大体、さっきだってひぃくんのせいで酷い目に合ったのだ。そんな人を好きになる訳がない。そう自分に言い聞かせる。


「かの~んっ!」



 ────!?



 嬉しそうな声を上げながらいきなり飛び付いてきたひぃくん。そんなひぃくんを支えきれなかった私の身体は、ゆっくりと後ろへ向かって傾いてゆく。


(えっ……ここ、ベンチ──落ちる!)


 ギュッと固く瞼を閉じると、私はその衝撃に備えた。


(…………。あ、あれ……? 痛く……、ない?)


 恐る恐る瞼を開くと、目の前にはひぃくんらしき胸板が見える。


「……っ。おい、ふざけんな響!」


 背後から聞こえるお兄ちゃんの声。どうやら私はお兄ちゃんを下敷きにして倒れているらしい。
 きっと私を庇ってくれたのであろうお兄ちゃん。上にはひぃくん、下にはお兄ちゃん。


(笑えない……何このサンドイッチ)


「早く退け、重い」


(ごめんなさいお兄ちゃん……私、動けません。苦しくて声すら出せません……っ)


 全く退く気のないひぃくんは、私の上で「かの~ん。かの~ん」と嬉しそうな声を出している。


(く……苦し……っ、)


 苦しさから少しだけ顔を横へと動かしてみると、中庭にいる生徒達が視界に入ってくる。
 三人で抱き合ったまま地面に転がっている私達。そんな私達を見て、驚きに目を見開いている人達やクスクスと笑っている人達。どうやら、また私は皆んなの前で醜態を晒してしまったらしい。


(もう嫌……っ。なんでいつもひぃくんてこうなのよ。絶対にひぃくんを好きだなんて有り得ないから……っ)


 私の上で嬉しそうな声を出しながら揺れているひぃくん。そんなひぃくんに抱きしめられながら、私は苦しさに顔を歪める。


「っ、ぐぇ……」


(っ……お願いだから揺れないで、ひぃくん。苦しいし、恥ずかしい……)


 その後、お兄ちゃんが無理矢理ひぃくんを退けるまでの間、私はずっと潰れた蛙のようなうめき声を上げ続けていた。
 

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