ぱぴLove〜私の幼なじみはちょっと変〜

邪神 白猫

文字の大きさ
上 下
4 / 47
♡第一章♡

君はやっぱり変でした Part①

しおりを挟む






「花音ちゃん!」


 突然呼ばれた声に後ろを振り返ると、いつぞやの何とか君。


(えっと……確か名前は山崎くん、だったかな? 確かお兄ちゃんが危ないって言ってた気がする)


 それを思い出した私は、何が起こるのかと身構える。
 ポケットに手を入れた山崎くん。その行動をビクビクとしながら見守る。


「これ、良かったら一緒に行かない?」


 突然差し出された何かに思わず目をつぶってしまった私は、ゆっくりと瞼を開くと恐る恐る目の前を見た。
 ニッコリと微笑む山崎くんの手元には、ヒラヒラと揺れる細長い紙切れが──。


「……あっ! これ、行きたかったスパ!」


 差し出された手をガシッと掴んだ私は、その手に握られたチケットを覗き込んだ。
 ここは今話題の最近出来たばかりの巨大スパ。中には色々な施設が揃っていて、岩盤浴や温泉やプールもあって施設内は全て水着で移動ができる。勿論中には飲食店も色々とあって、一日中いても楽しめる夢のような施設だ。


「あ、あの……花音ちゃん」


 頭上からの声に視線を上げてみると、何だか山崎くんの顔が少し赤い。


(熱でもあるのかな?)


「二人きりじゃあれだから、お互い友達でも誘って行かない?」

「うんっ! 行きたい!」


 笑顔でそう答えると、一度ホッとした様な顔を見せてから笑顔になった山崎くん。
 その後お互いの連絡先を交換し合った私達は、そのまま廊下で立ち話を始めた。お兄ちゃんは危ないと言っていたけれど、今目の前にいる山崎くんは全然危なそうな人には見えない。


「花音ちゃん。俺の事は斗真って呼んでくれると嬉しいな」

「うん、わかった。斗真くん」


 私がそう答えれば嬉しそうに微笑む斗真くん。


(お兄ちゃん、斗真くん凄くいい人だよ……)


 そんな事を考えていると、突然後ろから肩を掴まれてクルリと反転させられた私の身体。



 ────!?



 何事かと驚いていると、目の前にはいつの間に来たのかひぃくんの姿が。


(ああ……なんだかまたデジャヴが……)


 不安が頭をよぎったその時。目の前のひぃくんが口を開いた。


「……花音! 初めては……っ、花音の初めては俺に捧げてくれたのに!」


 大きな声でそう言い放ったひぃくんは、瞳を潤ませるとメソメソと泣き始めた。


(泣きたいのは私だよ……、っ)


 ひぃくんの放った言葉で途端に騒然とし始めた廊下。


(ああ……っ、今すぐこの場から消え去りたい)


 私の腰あたりに抱きついてメソメソと涙を流し続けるひぃくん。そのつむじを見つめながら、私は呆然と立ち尽くしたのだった。






◆◆◆






 私の隣でニコニコと嬉しそうにお弁当を食べているひぃくん。私はそんなひぃくんに向けて溜め息混じりに口を開いた。


「ひぃくん……さっきのアレ、何?」


 メソメソと涙を流すひぃくんに連れられて屋上へとやってきた私。すっかりとご機嫌になったひぃくんに反して、私は未だにさっきの出来事を引きずっていた。
 怨めしい気持ちでひぃくんを見つめる。


(あの時私がどんなに恥ずかしかったか……)


「え? だって花音がスパに行こうとしてたから」


 スパに行くのとさっきの発言に何の関係があるのか、正直私にはサッパリ分からない。
 ひぃくんの思考を読み取るのは一生無理なのかもしれない。


「それとあの発言に何の関係があるの?」


 小さく溜息を吐くと、呆れながらひぃくんを見る。


「忘れちゃったの!? 俺に初めてを捧げてくれたのに!!」


 ひぃくんの発言にピクリと眉を動かしたお兄ちゃんは、そのままゆっくりと視線を動かすと私を捉えた。


(え……。お、お兄ちゃん……私を見ないで。私だって意味が分からないんだから……)


 思わず顔が引きつる。


「……っ、花音! 花音の公園デビューは俺に捧げてくれたでしょ!? 忘れちゃったの!?」


 私の肩をガッチリと掴んでユサユサと揺らし始めたひぃくん。


(ああ……、もう嫌だ。何て紛らわしい言い方をするんだろう、この人は。初めからそう言ってくれればいいのに)


 私の身体を揺らしているひぃくんを見てみると、今にも泣き出しそうな顔をして私を見ている。


(だから泣きたいのは私だよ……)


 ひぃくんの言葉であらぬ誤解を受けたであろう私。何で普通に話せないんだろう。やっぱりひぃくんはちょっと変。
 ガクガクと揺れる頭でそんな事を考える。

 
「──スパって何?」


 私達の会話を黙って聞いていたお兄ちゃんは、ひぃくんの腕を引っ張るとそう尋ねた。


「さっき廊下で話してたんだよ、男の子と。……ねぇ、花音の初めては俺に捧げてくれるでしょ?」


 お兄ちゃんの方にチラリと視線を向けたひぃくんは、再びその視線を私に戻すとそう告げた。
 さっきの発言からすると初めてスパに行くのはひぃくんと一緒に、って意味なんだろうけど……。


(何でそんな変な言い回しをするの? わざとなの?)


 ウルウルと瞳を潤ませているひぃくんを前に、思わず大きな溜め息が出る。


「それは無理だよ、ひぃくん。もう約束しちゃったもん」


 そう答えれば瞳を大きく見開いて固まってしまったひぃくん。


「花音。男と一緒に行くのか?」

「えっ? あ……、うん。何人かで行くんだよ」


 お兄ちゃんからの質問にそう答えながらも、チラリと横目でひぃくんの様子をうかがう。


(ひぃくん大丈夫かな……?)


 ピクリとも動かなくなってしまったひぃくん。そんなひぃくんのことを少しばかり心配しながらも、私はお兄ちゃんの方へと顔を向けた。


「ダメ」

「……へっ?」

「危ないから行ったらダメ」


 素っ頓狂な声を出した私に、再度ダメだと告げたお兄ちゃん。驚いた私は一瞬固まってお兄ちゃんを見つめ返す。
 すると突然、固まったまま動かなかったひぃくんが大声を上げた。


「花音っ!!」



 ────!?



 ひぃくんに抱きつかれて、ゆっくりと後ろへ向かって倒れてゆく私の身体──。


「花音……っ。花音……っ」


 気付けば床に押し倒されていた私は、胸元でスリスリとしながら涙を流すひぃくんの姿を眺めた。突然の出来事に暫しそのまま呆然とする。
 そこに見えるのは、綺麗に整ったひぃくんのつむじ。その更に下の方へと視線を向けてみると、私の胸元で泣いているひぃくんがいる。


(私の胸元で……胸、元……)


「っ……いやぁーーっっ!!!」


 突然の私の叫び声で、驚きに身を固めていたお兄ちゃんが慌てて動き始める。
 お兄ちゃんが引き離そうとしても中々離れてくれないひぃくん。そんなひぃくんの姿を眺めながら、私は一人呆然と考えていた。


(そんな事で泣かないでよ……。ひぃくん、鼻水が垂れてるよ。ああ……っ、私の制服にひぃくんの鼻水が……)


 何だか急に阿呆らしく思えてきた私は、その場をお兄ちゃんに任せるとただジッと目の前の光景を眺めていた。
 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

美少女は保護られる〜私の幼なじみはちょっと変〜

邪神 白猫
恋愛
◆お知らせ◆ 現在、新たに加筆修正したものを新規公開中です 新タイトル 【ぱぴLove〜私の幼なじみはちょっと変〜】 https://www.alphapolis.co.jp/novel/21507582/669902083 ↑ お手間をお掛けして申し訳ありませんが、こちらの作品の方で“しおり”や“お気に入り”等をお願いしますm(._.)m 見た目は完璧な王子様。 だけど、中身はちょっと変な残念イケメン。 そんな幼なじみに溺愛される美少女の物語ーー。 お隣りさん同士で、小さな頃からの幼なじみの花音と響。 昔からちょっと変わっている響の思考は、長年の付き合いでも理解が不能?! そんな響に溺愛される花音は、今日もやっぱり振り回される……! 嫌よ嫌よも好きのうち?! 基本甘くて、たまに笑える!そんな二人の恋模様。 ※ 表紙&作中に出てくるイラストは全てフリーアイコンを使用しています タイトルは造語を使用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

記憶がないなら私は……

しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。  *全4話

偽装溺愛 ~社長秘書の誤算~

深冬 芽以
恋愛
あらすじ  俵理人《たわらりひと》34歳、職業は秘書室長兼社長秘書。  女は扱いやすく、身体の相性が良ければいい。  結婚なんて冗談じゃない。  そう思っていたのに。  勘違いストーカー女から逃げるように引っ越したマンションで理人が再会したのは、過去に激しく叱責された女。  年上で子持ちのデキる女なんて面倒くさいばかりなのに、つい関わらずにはいられない。  そして、互いの利害の一致のため、偽装恋人関係となる。  必要な時だけ恋人を演じればいい。  それだけのはずが……。 「偽装でも、恋人だろ?」  彼女の甘い香りに惹き寄せられて、抗えない――。

処理中です...