小畑杏奈の心霊体験録

邪神 白猫

文字の大きさ
上 下
2 / 6

Fちゃん

しおりを挟む



 私がFちゃんの存在を明確に認識したのは、小学校へ入学してから一ヵ月ほどが経った頃だった。

 入学してからずっと同じクラスだったものの、私がいつも同じ顔ぶれとばかり遊んでいたせいか、席替えで同じ班になるまでFちゃんと言葉を交わした記憶さえなかった。とはいえ、班が同じになったからといって特別仲が良くなったわけでもなく、挨拶を交わす程度の関係性を保っていた。
 いつも数人の男女と遊ぶことの多かった私と違って物静かなFちゃん。そんな対称的な性格からか、これといった共通点もなかったのだ。

 そんなFちゃんの印象といえば、いつもどこかしらを怪我している子。といった、少し不思議な印象の残る女の子だった。
 活発に遊んでいる様子もないのに、何故こんなにも怪我が絶えないのだろうか? そんな疑問が芽生えてからというもの、私は気付けば自然とFちゃんの姿を目で追いかけることが多くなっていった。かといって、わざわざ本人に問うほどの疑問を感じていたわけでもなく、何かそれ以上のアクションを起こすつもりは全くなかった。
 
 そんな私の考えが変わったのは、帰宅途中に偶然Fちゃんと出会ったことがきっかけだった。
 普段通りなら、友達複数人とワイワイ騒ぎながら帰宅していたはずだった私。けれど、その日は私が一人トイレに寄っていた間に、仲の良い子達は皆んな先に帰ってしまったようだった。
 置いていかれた事に少しばかり寂しくは思ったものの、私が何より嫌だと感じたのは、一人で帰らなければならないという退屈さの方だった。そんな時、偶然にも前方を歩くFちゃんの姿を発見した私は、迷うことなくFちゃんに駆け寄ると声を掛けた。


「Fちゃん、一緒に帰ろう?」

「うん、いいよ」


 Fちゃんはそう言ってこころよく受け入れてくれたものの、中々思うように会話は弾まなかった。そこで私は、以前から疑問に思っていた事を質問してみることにした。


「ねぇねぇ、Fちゃん。何でいつもケガしてるの?」

「えっとねぇ……私、よく転んじゃうの」


 なんてことのない、そんな返答がFちゃんの口から返ってきた。


「ふ~ん、そうなんだぁ」


 何かもっと別の答えを期待していた私は、少しばかりガッカリとした気持ちでそう声を漏らした。
 と、その時──私の隣で「あっ!」と小さく声を上げたFちゃんは、突然何もない道路の上で派手にすっ転んだ。


「……っ、痛いよぉ~」


 その場に倒れたまま擦りむいた額を抑えて泣き始めたFちゃん。そんなFちゃんを見下ろしながら、私はその視線の先にある足元を見て恐怖に震え上がった。
 なんと、Fちゃんがつまずいたのは人の生首だったのだ。ギョロリと剥き出しになった瞳は何とも恐ろしく、私はギュッと硬く瞼を閉じると大声で泣き始めた。

 子供二人分の泣き声はすぐに方々まで届いたようで、気付けば近所に住んでいる大人達から手当を受けていたFちゃん。そのかたわらで、私は見知らぬ女性に頭を撫でられながらなだめられていた。


「血が出てビックリしちゃったね。お友達は大丈夫だからね」


 そうは言われたものの、血に濡れた生首がすぐそこに転がっているのだから、平静でいられないのも無理はない。あんなものを前にして、何故皆んなはこんなにも冷静でいられるのだろうか?
 むしろ、私にはそのことの方が異常に思えた。


『ばあばには見えないけど杏奈には見えてるんだねぇ』


 昨年亡くなった祖母が、たまにそんな言葉を溢していた。そんな光景を思い出した私は、きっとこの生首は私以外の人達には見えていないのだと、そんな風に思った。

 それから三年に進級するまでの間、Fちゃんとは変わらず同じクラスだったものの、私は必要以上の関わりを持つことはなかった。
 ただ、やはりFちゃんの存在は気にはなっていたので、時折りその姿をこっそりと遠巻きに眺めていた。

 またどこかで“視えない何か”につまずいたのだろうか──。相変わらず生傷の絶えないFちゃんの姿を盗み見ては、私は一人そんな風に思っていた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

短な恐怖(怖い話 短編集)

邪神 白猫
ホラー
怪談・怖い話・不思議な話のオムニバス。 ゾクッと怖い話から、ちょっぴり切ない話まで。 なかには意味怖的なお話も。 ※追加次第更新中※ YouTubeにて、怪談・怖い話の朗読公開中📕 https://youtube.com/@yuachanRio

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【一話完結】3分で読める背筋の凍る怖い話

冬一こもる
ホラー
本当に怖いのはありそうな恐怖。日常に潜むあり得る恐怖。 読者の日常に不安の種を植え付けます。 きっといつか不安の花は開く。

八尺様

ユキリス
ホラー
ヒトでは無いナニカ

意味がわかると怖い話

邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き 基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。 ※完結としますが、追加次第随時更新※ YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*) お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕 https://youtube.com/@yuachanRio

【短編】怖い話のけいじばん【体験談】

松本うみ(意味怖ちゃん)
ホラー
1分で読める、様々な怖い体験談が書き込まれていく掲示板です。全て1話で完結するように書き込むので、どこから読み始めても大丈夫。 スキマ時間にも読める、シンプルなプチホラーとしてどうぞ。

正しい道

空道さくら
ホラー
仕事を辞め、AIのサポートを受けながら新たな生活を始めた佐藤。 導かれるままに行動するうち、少しずつ変化が訪れる。 効率的に、無駄なく、最適な生き方へ。 それは、理想的な未来なのか、それとも——。 「あなたの選択は、最適化されています」

処理中です...