このインモラルで狂った愛を〜私と貴方の愛の手記〜

邪神 白猫

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予期せぬ婚約

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◆◆◆



 ウィリアムとの悲しい別れから約四年。
 子供だったあの頃から少女へと成長した私は、小柄ながらにもその身体つきは丸みを帯び、まだその表情にはあどけなさを残しつつも、立派な大人の女性へと変わりつつあった。

 今年の秋に十六を迎える私は、その年に年に一度行われるデビュタントへ向けて、毎日のようにダンスの練習に明け暮れている。時折、様子を見に来てくれる兄に付き合ってもらっているお陰か、ここ最近ではだいぶミスもなく踊れるようになってきた。
 これなら当日もなんとかなるだろうと、少しの自信とともにホッと安堵の息を吐く。私が失敗をすることで、エスコート役である兄にまで恥をかかせたくはないのだ。


「お兄様。お付き合いしてくださって、ありがとう」

「リディの為なら、いつだって付き合うさ。……さぁ、もうダンスの練習は終わりにして、一緒に庭でお茶でもしよう」

「もう少し、私は残ってダンスの練習をしようと思うの。でないと、当日失敗してしまうのではないかと心配で……」

「失敗したって構わないさ。それくらいは、俺がいくらでもカバーするつもりでいるよ」

「でも……」

「リディは、兄である俺のことが信用できないと……?」

「──!? いいえ、そんな事は……っ! お兄様のことは、とても信用しているわ!」


 慌てる私を見て、クスリと声を漏らした兄。


「それなら、もう今日はダンスの練習は終わりにしよう。一人寂しく午後を過ごす兄に、どうか少し付き合ってはくれないか?」


 そう告げながら右手を差し出した兄は、優しく微笑むと私の様子を伺う。そんな優しい兄の心遣いに感謝しながら、私は差し出しされた右手にそっと自分の手を添えると微笑んだ。


「ええ、喜んで」


 優しい兄や両親の愛情に包まれ、私はこうして毎日穏やかな時を過ごせている。あの悲しい出来事を乗り越えられたのも、そんな三人の温かい愛情があってこそだった。
 元より優しかった兄は、悲しむ私を心配して毎日のように会いに来てくれると、何も聞かずにただ寄り添ってくれた。そんな兄には、本当に感謝してもしきれない。

 私の隣で優しく微笑みながら歩く兄の姿を見て、そんな兄のことを誇らしく思うのと同時に、ユリウスが私の兄でいてくれて本当に良かったと、そう心から思ったのだった。



──────


────



「今日、デビュタントへ着ていくドレスが届いたようだね」

「ええ、先程。予想以上に素敵な仕上がりだったわ」

「それは良かった。当日、そのドレスを身にまとったリディを見るのが楽しみだよ」

「そんなに期待なさらないで。私なんかが……恥ずかしいわ」

「そんなことはないさ。リディは誰よりも美しいよ、もっと自信を持って」


 紅茶を片手にそう告げた兄は、私を見つめる瞳に優しい光を宿すと、その口元に薄く弧を描いた。
 身内贔屓びいきな言葉とは分かってはいるけれど、昔からこうして兄は私を褒めてくれる。その言葉に沢山救われてきたことも事実で、幼き頃より自信の持てなかった私は、そのお陰で少しずつではあるけれど自信を持てるようにもなってきた。
 

「ありがとう、お兄様……」


 照れながらも小さく微笑めば、そんな私を見て満足したかのように微笑み返した兄。その手に握られたカップを静かにソーサーへと戻すと、再び私に視線を移した兄はその口を開いた。


「当日の夜は、ドゥーラで一泊する事にしたよ。翌日の午後に、少し帝都で観光でもしてから帰ろう」

「え……、ドゥーラで? そんなに高いところでなくても……」


 帝都まで五十キロも離れているということもあり、泊まりになることは予め分かってはいたけれど、その宿の名前を聞いた私は驚きに身を萎縮させた。
 兄の言うドゥーラとは、この帝都でも一番を誇る高級宿で、諸国から訪れる皇族や王族などが利用することで知られている。デビュタントで訪れる貴族が利用するなど、聞いた事がない。それ程に敷居が高い宿なのだ。


「リディは知らないだろうけど、あの辺りは物騒な事件があってね……。ドゥーラなら警備も万全だし、安心なんだ」

「物騒な事件……?」

「ああ……。六年程前から、複数の若い女性が行方不明になっているんだ。ここ数年は落ち着いていたようだけど、つい先日、町娘が行方不明になったらしい。幸い、町娘しか被害は出ていないようだけど……貴族だからといって、安心できるわけではないからね」

「そんなことが……っ」

「怖がることはないよ、リディ。俺がいる限り、そんな危険な目には合わせやしないから。……ほら、リディの好きなチョコでもお食べ」

「……ええ、お兄様」


 兄から聞かされた話しに恐怖しながらも、どこか自分とは無縁のように聞こえたその話しにそっと蓋を閉じると、差し出されたお皿から一粒のチョコを取り上げた私は、その綺麗に装飾が施されたチョコを自分の口の中へと運んだのだった。





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