6 / 13
別れは突然に
2
しおりを挟む
◆◆◆
それから私がウィリアムに会うことができたのは、二週間も経ってからのことだった。
準備にかかりきりで忙しかったウィリアムは、ほとんどの時間を帝都で過ごし、こちらに帰ってくる暇さえもなかったのだ。そのお陰で、私の中でくすぶっていた感情にもだいぶ整理をつけることができたので、私にとっては有難い時間の猶予だった。
こんな私の為に時間を作ってくれたウィリアムには、本当に感謝の言葉もない。
「ウィル……。本当に、行ってしまうのね」
「私の可愛いリディ。どうか、そんなに悲しい顔をしないで。必ず手紙を出すと約束するよ」
「……本当に?」
「あぁ、本当だとも。いつだって、私の心は君にあるんだ。……決してそれを忘れてはいけないよ」
「……ええ、わかったわ」
「どうか、リディに幸せな毎日が訪れますように──」
そう告げると、私の手を取りそっと優しく口付けたウィリアム。その所作は相変わらずの優雅さで、私の手に顔を寄せながらも伏せた瞳をゆっくりと見上げるその仕草は、思わず息が止まってしまう程に妖しく美しい。
これで暫く彼に会うこともないのかと思うと、胸の奥から激しい荒波のようなものが押し寄せてくる。
(いけないわ……。泣いてはダメよ、リディ)
そう自分に言い聞かせると、恐ろしくも妖艶な微笑みを浮かべるウィリアムを前に、私はその細部まで一つも取りこぼすことのないよう見つめ返すと、これで最後とばかりにその姿を瞳に焼き付けたのだった。
それから直ぐに帝都へと戻ったウィリアムは、再びこちらに戻ることもなく出立の日を迎えると、そのまま帝都から開拓地である都市リベラへと旅立ってしまった。
当日の見送りすらできなかったことに胸を痛めつつも、私はこれで良かったのだと安堵した。きっと、ウィリアムを前にしてしまえば、笑顔で見送るなんてことはできなかっただろうから──。
「ウィル……どうかお元気で。私は──貴方のことが好きでした……」
自室の窓から見える遠い土地を眺めながら、誰に聞かせるでもない告白を小さな声でポツリと呟くと、私は遠い空の下にいるウィリアムを想って静かに涙を流した。
元より叶うはずもなかった私の初恋は、十二になったばかりの秋の暮れ、こうして突然の別れによって終わりを迎えたのだった。
それから待てど暮らせども、一向にウィリアムからの手紙が届くことはなく、私はその事実に悲しみながらも現実から目を背けると、まるでその想いを断ち切るかのように勉学に励んだ。
その甲斐あってか、いつしか私の中にいるウィリアムの存在も薄れてゆき、三年も過ぎる頃には、彼の事を考える時間も殆どなくなっていた。
それから私がウィリアムに会うことができたのは、二週間も経ってからのことだった。
準備にかかりきりで忙しかったウィリアムは、ほとんどの時間を帝都で過ごし、こちらに帰ってくる暇さえもなかったのだ。そのお陰で、私の中でくすぶっていた感情にもだいぶ整理をつけることができたので、私にとっては有難い時間の猶予だった。
こんな私の為に時間を作ってくれたウィリアムには、本当に感謝の言葉もない。
「ウィル……。本当に、行ってしまうのね」
「私の可愛いリディ。どうか、そんなに悲しい顔をしないで。必ず手紙を出すと約束するよ」
「……本当に?」
「あぁ、本当だとも。いつだって、私の心は君にあるんだ。……決してそれを忘れてはいけないよ」
「……ええ、わかったわ」
「どうか、リディに幸せな毎日が訪れますように──」
そう告げると、私の手を取りそっと優しく口付けたウィリアム。その所作は相変わらずの優雅さで、私の手に顔を寄せながらも伏せた瞳をゆっくりと見上げるその仕草は、思わず息が止まってしまう程に妖しく美しい。
これで暫く彼に会うこともないのかと思うと、胸の奥から激しい荒波のようなものが押し寄せてくる。
(いけないわ……。泣いてはダメよ、リディ)
そう自分に言い聞かせると、恐ろしくも妖艶な微笑みを浮かべるウィリアムを前に、私はその細部まで一つも取りこぼすことのないよう見つめ返すと、これで最後とばかりにその姿を瞳に焼き付けたのだった。
それから直ぐに帝都へと戻ったウィリアムは、再びこちらに戻ることもなく出立の日を迎えると、そのまま帝都から開拓地である都市リベラへと旅立ってしまった。
当日の見送りすらできなかったことに胸を痛めつつも、私はこれで良かったのだと安堵した。きっと、ウィリアムを前にしてしまえば、笑顔で見送るなんてことはできなかっただろうから──。
「ウィル……どうかお元気で。私は──貴方のことが好きでした……」
自室の窓から見える遠い土地を眺めながら、誰に聞かせるでもない告白を小さな声でポツリと呟くと、私は遠い空の下にいるウィリアムを想って静かに涙を流した。
元より叶うはずもなかった私の初恋は、十二になったばかりの秋の暮れ、こうして突然の別れによって終わりを迎えたのだった。
それから待てど暮らせども、一向にウィリアムからの手紙が届くことはなく、私はその事実に悲しみながらも現実から目を背けると、まるでその想いを断ち切るかのように勉学に励んだ。
その甲斐あってか、いつしか私の中にいるウィリアムの存在も薄れてゆき、三年も過ぎる頃には、彼の事を考える時間も殆どなくなっていた。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
片想いの相手と二人、深夜、狭い部屋。何も起きないはずはなく
おりの まるる
恋愛
ユディットは片想いしている室長が、再婚すると言う噂を聞いて、情緒不安定な日々を過ごしていた。
そんなある日、怖い噂話が尽きない古い教会を改装して使っている書庫で、仕事を終えるとすっかり夜になっていた。
夕方からの大雨で研究棟へ帰れなくなり、途方に暮れていた。
そんな彼女を室長が迎えに来てくれたのだが、トラブルに見舞われ、二人っきりで夜を過ごすことになる。
全4話です。

私の大好きな彼氏はみんなに優しい
hayama_25
恋愛
柊先輩は私の自慢の彼氏だ。
柊先輩の好きなところは、誰にでも優しく出来るところ。
そして…
柊先輩の嫌いなところは、誰にでも優しくするところ。



ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる