このインモラルで狂った愛を〜私と貴方の愛の手記〜

邪神 白猫

文字の大きさ
上 下
4 / 13
実ってゆく恋心

しおりを挟む
◆◆◆



「あぁ……ほら、見てごらんリディ。どうやら無事に花が開いたみたいだよ」


 ウィリアムの指し示す方角に目を向けてみると、そこには色鮮やかな薔薇が見事に花を咲かせていた。初夏を告げる品種である花だというのに、秋口である今こうして花を咲かせたのは、この温室の管理がそれだけしっかりと行き届いている証拠なのだろう。

 剣の腕前もさることながら、こうして花を愛でることを趣味とするウィリアムは、薔薇の品種改良でさえも自身で行っているのだとか。そんな話しを、二年程前に話していた事を思い出す。
 その恐ろしいまでに人々を魅了して止まない、この世の者とは思えぬ美しさを持って生まれたウィリアム。彼はまるで神に愛されて生まれた申し子かの如く、あらゆる才にも恵まれていた。


「わぁ……っ! とても綺麗だわ! これがあの、品種改良したという薔薇なの?」

「そうだよ。気に入ってくれたかな?」

「ええ、とっても!」

「それは良かった。これはリディの為だけに作った、世界で一つだけの薔薇だからね」


 興奮して瞳を輝かせる私を見てクスリと声を漏らしたウィリアムは、手近にあった薔薇を一茎手折るとそれを私に向けて差し出した。


「美しいリディに、よく似合うよ」


 その言葉に、私の動きはピタリと止まった。
 本当に、こんなにも美しい薔薇が私なんかに似合うのだろうか——? 

 私のことを、妹のように可愛がってくれているウィリアム。その言葉を決して疑っているわけではないけれど、それはあくまでも妹としての賛美の言葉であり、そうだと分かっているからこそ自信が持てない。
 

「……大丈夫、棘はないから安心してごらん」


 そんな私の気持ちを知ってか知らずか、薔薇を前に躊躇いを見せた私に向けて優しく微笑むと、そっと私の手に薔薇を握らせてくれたウィリアム。


「あぁ……ほら、よく似合っている」


 そう告げながら、私の頬を優しく撫でたウィリアム。その瞳はとても妖艶で、ゾクリとしたものが背筋を走ると、私はその瞳から視線を逸らすこともできずにその場で固まった。
 私の手元にある、品種改良したという色鮮やかな光沢を放つ真っ赤な薔薇。それはまるで、アダムとイブが食べたとされる禁断の果実かのように、ウィリアムの瞳を通して私を誘惑する。

 きっと、悪魔というものが実在するなら、こうして抗えない力でもって人を誘惑するのだろう。そんな風に思ってしまう程に、踏み入れてはならないと抑止よくしする気持ちと、このままいっそ、絡め取られてしまいたいと思ってしまう程の耽美たんびなる誘惑が私を襲う。
 その得体の知れない恐怖に小さく身体を震わせると、私は目の前にいるウィリアムを見上げてコクリと小さく喉を鳴らした。


「……凄いわ、こんなに綺麗な薔薇を作ってしまうなんて。きっと大変なのでしょうね」

「そうだね……。理想の薔薇を作るのに、四年もかかってしまったからね。けど、お陰で納得のいくものができたよ」


 ウィリアムはそう言って苦笑して見せたものの、たったの四年で完成させてしまうとは、やはり彼の才能には目を見張るものがある。


「リディ。君にもいつか、この薔薇の作り方を教えてあげるよ」

「えっ? ……本当に?」

「ああ、勿論だとも。一緒に綺麗な薔薇を咲かせよう」

「……ええ、楽しみだわ!」


 いつかは終わりが来ると分かっている、この甘やかなひと時。
 それでも、私に向けてこうして未来への希望を抱かせてくれたウィリアム。その約束に心躍らせると、私は赤くなった頬を隠すかのようにして、手元の薔薇をそっと顔に近付けた。

 芳醇な果実のような甘みを含むその香りは、私の鼻腔を通して浮き立つ気持ちと混ざり合い、更に私の心を心酔させる。
 

「私の可愛いリディ──君は、本当に美しい」


 そんな言葉と共に、私の髪をすくうとそっと優しく口付けたウィリアム。
 そんな彼の所作を呆然と眺めながらも、その輝く程に美しい黄金色の瞳に釘付けになると、私は小さく感嘆の息を漏らしたのだった。







 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

私の大好きな彼氏はみんなに優しい

hayama_25
恋愛
柊先輩は私の自慢の彼氏だ。 柊先輩の好きなところは、誰にでも優しく出来るところ。 そして… 柊先輩の嫌いなところは、誰にでも優しくするところ。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

処理中です...