3 / 12
3
しおりを挟む
◆◆◆
「近寄んなよっ、性病!」
「うわ……っ! くっせぇ~!」
「ほんとだ! くせぇー!」
「性病の匂いだ! くっせぇ~!」
「「「せ・い・びょ~! せ・い・びょ~! せ・い・びょ~!」」」
学校からの帰り道。いつまでも続く田んぼ道の真ん中で、同級生達に囲まれた俺はそんな悪口を浴びせられながらトボトボと歩いてゆく。
ゲラゲラと笑いながら、代わる代わるに俺を小突く智と司と隆史。
人口の少ないこの片田舎では、大抵の者が皆顔見知りで、その狭いコミュニティの中で複数の女性と関係を持っていた俺の父親。それは勿論周知の事実として、大人達は呑んだくれの父の事を悪く噂した。
それを間近で見ていた子供達は大人達を真似、その悪口の対象は父親ではなくその息子にあたる俺へと向けられた。
悔しさに涙を滲ませた俺は、下唇を噛みしめてグッと堪えると、目の前の智を着き飛ばして一気にその場を駆け出した。
「あー! 性病が逃げたーっ!」
「っ、……いってぇ。……ふざけんな、公平っ!!」
「待てぇ~! 性病ぉーっ!」
逃げ出した俺を捕まえようと、智達はゲラゲラと笑いながら追いかけてくる。捕まってたまるかと必死に走って逃げるその姿は、まるで獣に狩られる兎のようだ。
そのまま必死に走って逃げ切ると、玄関扉に手を掛けて家の中へと入ろうとした──その時。グンッと軽く宙を浮くような感覚とともに、俺の身体は後ろへと引き戻された。
────!?
驚きに反射して背後を振り返ってみると、俺のランドセルを掴んでいる智がゆっくりとした動きで口角を吊り上げた。
俺を見つめて嬉しそうに瞳を細めると、ニヤリと不気味に微笑んだ智。
「つ~かま~えた~」
呆然と、そんな智の姿を見つめたまま硬直した俺は、額から冷んやりとした汗が流れ出るのを感じながら、ゴクリと小さく喉を鳴らした。
「近寄んなよっ、性病!」
「うわ……っ! くっせぇ~!」
「ほんとだ! くせぇー!」
「性病の匂いだ! くっせぇ~!」
「「「せ・い・びょ~! せ・い・びょ~! せ・い・びょ~!」」」
学校からの帰り道。いつまでも続く田んぼ道の真ん中で、同級生達に囲まれた俺はそんな悪口を浴びせられながらトボトボと歩いてゆく。
ゲラゲラと笑いながら、代わる代わるに俺を小突く智と司と隆史。
人口の少ないこの片田舎では、大抵の者が皆顔見知りで、その狭いコミュニティの中で複数の女性と関係を持っていた俺の父親。それは勿論周知の事実として、大人達は呑んだくれの父の事を悪く噂した。
それを間近で見ていた子供達は大人達を真似、その悪口の対象は父親ではなくその息子にあたる俺へと向けられた。
悔しさに涙を滲ませた俺は、下唇を噛みしめてグッと堪えると、目の前の智を着き飛ばして一気にその場を駆け出した。
「あー! 性病が逃げたーっ!」
「っ、……いってぇ。……ふざけんな、公平っ!!」
「待てぇ~! 性病ぉーっ!」
逃げ出した俺を捕まえようと、智達はゲラゲラと笑いながら追いかけてくる。捕まってたまるかと必死に走って逃げるその姿は、まるで獣に狩られる兎のようだ。
そのまま必死に走って逃げ切ると、玄関扉に手を掛けて家の中へと入ろうとした──その時。グンッと軽く宙を浮くような感覚とともに、俺の身体は後ろへと引き戻された。
────!?
驚きに反射して背後を振り返ってみると、俺のランドセルを掴んでいる智がゆっくりとした動きで口角を吊り上げた。
俺を見つめて嬉しそうに瞳を細めると、ニヤリと不気味に微笑んだ智。
「つ~かま~えた~」
呆然と、そんな智の姿を見つめたまま硬直した俺は、額から冷んやりとした汗が流れ出るのを感じながら、ゴクリと小さく喉を鳴らした。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
不思議と戦慄の短編集
羽柴田村麻呂
ホラー
「実話と創作が交錯する、不思議で戦慄の短編集」
これは現実か、それとも幻想か――私自身や友人の実体験をもとにした話から、想像力が生み出す奇譚まで、不可思議な物語を集めた短編集。日常のすぐそばにあるかもしれない“異界”を、あなたも覗いてみませんか?
逢魔ヶ刻の迷い子3
naomikoryo
ホラー
——それは、閉ざされた異世界からのSOS。
夏休みのある夜、中学3年生になった陽介・隼人・大輝・美咲・紗奈・由香の6人は、受験勉強のために訪れた図書館で再び“恐怖”に巻き込まれる。
「図書館に大事な物を忘れたから取りに行ってくる。」
陽介の何気ないメッセージから始まった異変。
深夜の図書館に響く正体不明の足音、消えていくメッセージ、そして——
「ここから出られない」と助けを求める陽介の声。
彼は、次元の違う同じ場所にいる。
現実世界と並行して存在する“もう一つの図書館”。
六人は、陽介を救うためにその謎を解き明かしていくが、やがてこの場所が“異世界と繋がる境界”であることに気付く。
七不思議の夜を乗り越えた彼らが挑む、シリーズ第3作目。
恐怖と謎が交錯する、戦慄のホラー・ミステリー。
「境界が開かれた時、もう戻れない——。」



赤い部屋
山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。
真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。
東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。
そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。
が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。
だが、「呪い」は実在した。
「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。
凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。
そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。
「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか?
誰がこの「呪い」を生み出したのか?
そして彼らはなぜ、呪われたのか?
徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。
その先にふたりが見たものは——。
本当にあった怖い話
邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。
完結としますが、体験談が追加され次第更新します。
LINEオプチャにて、体験談募集中✨
あなたの体験談、投稿してみませんか?
投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。
【邪神白猫】で検索してみてね🐱
↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください)
https://youtube.com/@yuachanRio
※登場する施設名や人物名などは全て架空です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる