ヤメロ

邪神 白猫

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(家に帰っても暇なだけだし、観てみるか)


 それはほんの気紛れだった。
 人混みが苦手な俺は、いくら興味を惹かれたからとはいえ、本来ならば映画館になど足を踏み入れることはしかっただろう。レンタルが開始されるのを待ってから、酒を片手に自宅でゆっくりと鑑賞すればいいのだ。

 だが、目の前に建つさびれた映画館が、そんな選択肢を薄れさせた。
 きっと観客など滅多に来ないのだろう。そう思う程に、目前にあるビルは荒廃して見えたのだ。


 くして、この【スナッフフィルム】を偶然にも観ることとなったのだが──。

 初めに予想していた通りのPOV方式で撮影されたこの映画は、俺の想像を遥かに超えた臨場感で、極上のエンタメと刺激を与えてくれた。
 期待以上の出来にすっかりとハマってしまった俺は、これがシリーズものの三作品目だったと知ると、その足でレンタルショップへと急いだ。だが、何件まわってみても見つからない【スナッフフィルム】。

 後日ネットで調べてみると、どうやら映画館での上映のみでレンタルはされていないらしかった。それどころか、かなりマイナーな作品らしく、上映されている映画館も限られているらしい。
 この作品に出会えたこと自体が奇跡だったのだ。

 だが、いくらマイナーな作品とはいっても、コアなファンとはどこにでも一定数存在するわけで。主にネットを中心として、ちょっとした話題にもなっていた。
 【実際の殺人映像】との触れ込みで、毎回上映されるこの映画。それは、ファン達の間では紛れもなく本物の殺人映像なのだと。誰が言い始めたのか、誰が信じるのか──。
 そんな噂がまことしやかに囁かれていた。

 それからというもの、新作が上映される度に足繁く映画館に通うようになったのだが、次の週末は丁度その新作が上映される日に当たる。正直なところ、好きでもない遊園地に行くよりも【スナッフフィルム】が観たい。
 目の前にいる美穂の様子をうかがうと、その小さく愛らしい唇がゆっくりと動くのを見守った。


「ホラーとか好きじゃないし」

「そんなこと言わないでさぁ……たまには付き合ってくれよ。お願いっ! この通り!」


 どうしても諦めきれない俺は、尚も食い下がって懇願する。
 それには勿論ちゃんとした理由があって、この【スナッフフィルム】の上映期間が、毎回三日間のみの限定上映だからだった。

 いくらマイナーな作品だからとはいえ、短すぎるのもどうかと思う。
 生憎と次の週末は休日出勤で仕事に駆り出される為、貴重な休みは一日しかない。美穂の提案する遊園地に行くことになってしまうと、【スナッフフィルム】の新作を見逃してしまうことになるのだ。


「いつも付き合ってあげてるでしょ! 今だって観てるし」

「いやぁ……あのさ、映画館には一緒に行ったことないよね? だから行こうよ。……ね?」

「もう、知らないっ!」


 ついに顔を背けてしまった美穂。どうやら本気で怒らせてしまったようだ。


「ご、ごめんて。……あっ! じゃあ、来週! 遊園地は来週行こう!?」


 できれば遊園地になど行きたくはないが、こうなってしまったら仕方がない。美穂のご機嫌を取る為に懸命に話しかけ続ける。
 それでも、今週末に遊園地に行こうとはどうしても言い出せないあたり、自分で思う以上に相当あの【スナッフフィルム】にハマッてしまっているらしい。

 その後、美穂の機嫌が直ったかといえばどうにも怪しいものだったが……。きっと明日になれば機嫌も良くなっているだろうと、そう都合よく考える。
 なにせ石のように動かないこの俺が、遊園地に行くと自ら約束をしたのだ。

 美穂を家まで送り届けて自宅へと戻ってくると、来週の遊園地のことを考えて大きく溜息を吐く。


「……ま、これもスナッフフィルムの為だ。仕方ないか」


 一人ポツリと小さく呟くと、俺は疲れた身体を休める為にそのままベッドへと倒れ込んだ。



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