【完結】悲劇のヒロインぶっているみたいですけれど、よく周りをご覧になって?

珊瑚

文字の大きさ
上 下
78 / 78
新婚編

~アリシアside~2

しおりを挟む
※1日複数話更新です。お気を付け下さい。

『それで、何もせずとも国王、王太子、宰相それぞれからこちら側に接触があると言ったか?』

 笑いを収めて、声も表情も引き締めてきたテオドル大公に、私も『はい』と頷いた。

『この後会議だって仰ってましたし、、本人じゃなく派閥の誰かかも知れませんけどね?いずれにせよ、探りを入れにくる筈ですよ?』

『うん?あの会議の話は嘘だと?』

『ああ、いや、嘘じゃないとは思います。ただ、わざわざ、夕食は共に出来ないかも知れないと釘を刺すからには、本当は、会議は夕食を兼ねていて、今は派閥で集まる時間にしている可能性もあるんじゃないかと』

『ううむ……それだと、それぞれの思惑はともかく、王と王太子の意見が対立している可能性もあるが……』

『そうとも限りませんよ?国王陛下が、それぞれに情報網や意見、派閥がある事を承知した上で「それぞれの意見を持ち寄って、夕方再度集まろう」とでも仰られたなら、対立と言うよりは、合議制に重きを置いていらっしゃると言うだけの話になりますから』

 裏を返せば、そこに意見を出せなければ、王太子として、あるいは宰相として失格の烙印を、周囲からも国王からも押される事になり、前段階での情報収集含め、法に外れた事でもやらかしてしまえば、それも同様と見做される。

 穏健派と言われている国王ではあるけれど、良い意味で緊張感のある政治を行っているんじゃないだろうか。

 テオドル大公も『うむ、あの陛下であればその方がしっくりくるな』と頷いていた。

『問題は、探りが入った時に、くだんの王弟の存在をそれぞれに明かすか否かだが――』

 その時、不意に部屋の扉がノックされて、侍女と思われる女性の声が来客を告げた。

「大公殿下、失礼致します。ジーノ・フォサーティ宰相令息が、殿下にお会いしたいとの事なのですが……」

「……ほう?」

 僅かに眉を動かしたテオドル大公に視線を向けると、大公は「ふむ…」と、こちらに説明するように顔を向け、口元に手をやった。

彼奴あやつは現宰相の養子であると同時に、王太子殿下の将来の側近候補と言われておってな。恐らくは王太子殿下の意を受けて来たのだろうとは思うが……後から宰相にも話の内容を問い質される可能性はあろうな』

『……ややこしいですね。それだと、結局最後に誰を立てるのか、あるいは上を共倒れさせたいのか、判断が難しいと言うか』

 一見すると宰相家の人間ではあるけれど、養子である時点で、宰相家と言う枠の中に入れてしまって良いのかが、酷く曖昧だ。

 かと言って、ミラン王太子の将来の側近候補だとしても、宰相の養子と言う時点で全幅の信頼を寄せて良いのかが見えづらい。

 宰相家と王太子とが対立をしていないのであれば、確かに心強い側近候補ではあるだろうけど、ビリエル・イェスタフの処遇から推察するに、どうも「そうではない」感が拭えない。

『うむ。実は宰相にはもう一人、愛妾が産んだ息子がいるにはいるのだが、コレがちと問題大アリでな。そう言う意味では養子を取っておる事は王宮にいる大半の人間が納得をしておるのだ。ただ、愛妾はそれでは納得せんと言う訳でな。機会は平等に与える――と、宰相はしておるのだよ。故に、今ジーノが来たなら、後からもう一人の息子であるグイドが押しかけてくるやも知れん。その点は皆も承知しておいてくれるか』

『…まあでも、父親から情報を貰わないと動かないもう一人と、今既に扉の前にいる一人とでは、能力差含めて色々お察しですけどね』

 その時点で、既に機会は不平等だ。
 愛妾の子とは言え、実子の後押しをしていると取られてしまっても不思議じゃない。

『父の心子知らず――と、確かに言いたいところではあるが、宰相フォサーティとしては、不出来な実子を推す声を潰してしまいたいが故に、敢えて「ここまでお膳立てしてやっても出来ない」事を周囲に知らしめたいんじゃないかと、儂なんかは思っとるがな。宰相アレは、あまり家庭を顧みる男ではないし、何よりも宰相家の存続と発展を至上としておるしな』

『…それはそれで「宰相家おいえでやってくれ。王宮よそを巻き込むな」と言いたくなる気もしますけどね』

 バッサリと切って捨てた私に、テオドル大公は呵々と笑った。

『まあ、所詮バリエンダールの事。アンジェスに実害が及ばぬ内は、遠巻きに見ているのが良かろうて。とりあえずジーノには、くだんの王弟の話は「聞かれればする」の立場でいこうと思っておるよ』

 バリエンダール側からアンジェスへの訪問を約束させる事は、今回の渡航における帰国の為の必須要件であり、その為には、必要以上に情報を出し惜しむ訳にもいかないのだ。

「……殿下?」
「うむ、待たせて済まぬな。中に案内してくれて構わぬぞ」

 侍女からの再確認に答えたテオドル大公の声に前後しつつ、扉は静かに開かれた。

「――おお、王太子殿下もそうだったが、其方も大きくなったな、ジーノ!見違えたぞ」

 深々と〝ボウ・アンド・スクレープ〟の礼儀を遵守する青年に、テオドル大公も大きく頷いている。

 気持ちは分かります。見た目に成長したって言うだけの話じゃないですよね。

 サレステーデの王子サマ方は、ちょっと酷かったですからね。
 これが本来の高位貴族のあるべき姿だと、思わず頷いてしまったんだろうな…。

「お久しぶりです、テオドル大公殿下。アンジェスからお越しになられたばかりで、お疲れであろうところ、お時間を頂戴してしまい申し訳ございません」

 バリエンダールの宰相サマは、多少は王家の血があるのか、年齢故か、見事なグレイヘアだった。

 一方で目の前のこの青年は、晴れた空の色を思わせる水色の髪をしており、養子と言われれば「なるほど」となる外見だった。

「良い良い、気にするな。今回は私的に来ておる訳でもないし、時間は有限だ。其方そなたこそ茶を飲む時間くらいはあるのか?儂を若者イジメをしておるような頑固ジジイにはしてくれるな?」

 暗に「座れ」と大公が言っているのを、この場の全員が察した。

 私とマトヴェイ外交部長はすぐさま、少し離れたソファの方へと移動をし、それを目にしたジーノ青年も「殿下には敵いません」と首を振りつつ、入口付近から部屋の中へと近付いてきた。

「それで今日は其方そなた使者としてここへ来た?あまり駆け引きはせんでくれると有難いんだがな」

 単刀直入なテオドル大公の言葉に「ははは」と、ジーノ青年は乾いた笑い声を洩らした。

 明らかに「どの口が仰るか」と言っている目だ。

 なるほど、無意味にテオドル大公の肩書に委縮したりおもねったりしてこない辺り、優秀さを買われて宰相家の養子になったと言うのも、あながち過大評価ではないんだろう。

「ああ、でも今回は四日間しかいらっしゃらないんでしたね。であれば、確かに昔の様に手ほどきをして頂く訳にもいきませんね」

「まあ、其方そなたやミラン殿下があまりに無鉄砲ヤンチャすぎて、口を挟みたくなっただけの事よ。さすがに少しは成長したのだろう?」

 …何を手ほどきしたのかちょっと、いやだいぶ気になる。
 後で聞いてみよう。

 多分、私のそんな興味津々な視線に気が付いたんだろう。
 テオドル大公が、ちょっと大きめの咳払いをして、ジーノ青年も「すみません、話がそれました」と微笑わらった。

「私は、ミラン王太子殿下からの命でこちらに参りました。大公殿下に、さっき出来なかった質問がある――との事で」

 そしてジーノ青年は浮かべていた笑顔を消して、背筋もピンと伸ばし直した。

「――テオ殿、私に事はないか?――だ、そうです」

 聞き返さずとも、何の話かアンジェス側は全員察しがついていた。
しおりを挟む
感想 29

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(29件)

沙吉紫苑
2022.10.02 沙吉紫苑

なるほど
その場合ですと
例として
「おはようご「今はまだ夜や!!
」」のような表現がよく見られますがそんな感じだったのでしょうか?
失礼しました。

楽しく拝読中です~。

珊瑚
2022.10.02 珊瑚

そうですそうです、そんな感じのイメージでした!
ですが話の流れ的にこちらの方がわかりやすいと思いますので変更後のままで行こうかなと思います✨️
わざわざありがとうございました(*^^*)

解除
沙吉紫苑
2022.10.02 沙吉紫苑

④の所、ヒロインのセリフでしょうが令息と令嬢が逆になってます。
名前で呼ばないでと言っている所です。

元々、栞をつけていたのですけど、完結してからと置いていたのを「秋の」を機会に拝見しました。
楽しいです。
まだ本編までですけどさすがに目立ったので忘れないうちに報告しようと思いました。
うるさいことを言ってすみません。

続きを楽しませていただこうと思います。

珊瑚
2022.10.02 珊瑚

まずはお話を読んでくださりありがとうございます!

そして、重ねてご指摘ありがとうございます。
元々このお話を書いた当時の私の考えとしては、被せ気味に訂正を伝えている、というつもりで書いたのですが、ご指摘を機に読み返して見たところ、たしかに書き間違いに見えて、書いた本人である私も引っかかってしまいましたのでこれを機に修正致しました。
見直しの機会を下さりありがとうございます。
これから先のお話も楽しく読んで頂けますと幸いです。

解除
リンリン
2022.07.31 リンリン

とても面白くてとてもスカッとするお話しですね。私は漫画を読んで続きが読みたいと思い読んでみたのですが、最高でした❤️書籍化されてもおかしくないくらいです‼️ですがせっかくならルーカスとアリシアの
結婚後のエピソードと子供ができたときのエピソード、そしてその後を読みたかったです。差し障りのないようでしたらこれらのお話しを書いていただけないでしょうか?さらにルーカスとアリシアの相思相愛がキュンキュンします💕こんな素晴らしい作品を投稿してくださりありがとうございます。(^.^)(-.-)(__)

珊瑚
2022.07.31 珊瑚

嬉しい感想をありがとうございます!
なんと、漫画の方から来てくださったのですね!どちらもまだまだ拙い作品ですが、そんなふうに言っていただけるなんて嬉しくて転がり回ってます😭🙏✨
それからリクエストもありがとうございます!実は番外編はお題も無くなってきたな〜と困っていたので本当にありがたいです🙏
少し投稿までお時間かかってしまいますが、挑戦してみたいと思いますのでお待ち頂けますと幸いです!

解除

あなたにおすすめの小説

残念ですが、その婚約破棄宣言は失敗です

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【婚約破棄宣言は、計画的に】 今夜は伯爵令息ブライアンと、同じく伯爵令嬢キャサリンの婚約お披露目パーティーだった。しかしブライアンが伴ってきた女性は、かねてより噂のあった子爵家令嬢だった。ブライアンはキャサリンに声高く婚約破棄宣言を突きつけたのだが、思わぬ事態に直面することになる―― * あっさり終わります * 他サイトでも投稿中

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

この国では魔力を譲渡できる

ととせ
恋愛
「シエラお姉様、わたしに魔力をくださいな」  無邪気な笑顔でそうおねだりするのは、腹違いの妹シャーリだ。  五歳で母を亡くしたシエラ・グラッド公爵令嬢は、義理の妹であるシャーリにねだられ魔力を譲渡してしまう。魔力を失ったシエラは周囲から「シエラの方が庶子では?」と疑いの目を向けられ、学園だけでなく社交会からも遠ざけられていた。婚約者のロルフ第二王子からも蔑まれる日々だが、公爵令嬢らしく堂々と生きていた。

妹のことが好き過ぎて婚約破棄をしたいそうですが、後悔しても知りませんよ?

カミツドリ
ファンタジー
侯爵令嬢のフリージアは婚約者である第四王子殿下のボルドーに、彼女の妹のことが好きになったという理由で婚約破棄をされてしまう。 フリージアは逆らうことが出来ずに受け入れる以外に、選択肢はなかった。ただし最後に、「後悔しないでくださいね?」という言葉だけを残して去って行く……。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます

21時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。 エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。 悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

【完結】妹に婚約者を奪われた傷あり令嬢は、化け物伯爵と幸せを掴む

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
伯爵令嬢リューディアは侯爵家次男アルヴィと婚約が決まり友人に祝福されていた。親同士が決めたとはいえ、美しく人気のあるアルヴィとの婚約はリューディアにとっても嬉しいことだった。 しかし腹違いの妹カイヤはそれを妬み、母親と共謀してリューディアの顔に傷をつけた。赤く醜い跡が残り、口元も歪んでしまったリューディア。婚約は解消され、新たにカイヤと結び直された。 もう私の人生は終わったと、部屋に閉じこもっていたリューディア。その時、化け物のように醜い容姿の辺境伯から縁談が持ちかけられる。このままカイヤたちと一緒に暮らすぐらいならと、その縁談を受けることにした。 見合い当日、辺境伯は大きな傷があるリューディアに驚くが、お互いの利害が一致したことで二人は結婚を決意する。 顔と心に大きな傷を負ったヒロインが、優しいヒーローに溺愛されて癒されていくお話です。 ※傷やあざの描写があります。苦手な方はご遠慮ください。 ※溺愛タグは初めてなので、上手く表現できていないかもしれません。ゆるっと見守ってください。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。