【完結】悲劇のヒロインぶっているみたいですけれど、よく周りをご覧になって?

珊瑚

文字の大きさ
上 下
31 / 78
番外編2~ルーカスside~

5話

しおりを挟む
厳しい顔で目を瞑り、ほんの少しの間天を仰いだ国王は、暫しの後、真っ直ぐルーカスを見据えた。
しかし、その表情はなんとも言えない複雑なもので、いつもの彼より一回り小さく見えた。
苦虫を噛み潰したような顔で国王が口を開く。


「アリシアの事については……我々にも責任の一端があると思っている。……お前はずっとわたしたち二人にどれほど彼女を想っているのか何度も何度も説明会してくれていたね。勝手に彼女や彼女の両親に話す事も出来たろうに、お前はそうしなかった。あくまでも王族として相応しい振る舞いを貫き通した。次期国王であるお前に逆らえる者はいないからね。…………わたしはどうにかお前の願いを叶えてやりたいと思う。だが、勝手に決めることが出来ないのは理解してくれるかい?王妃と相談してみよう。」

まさか前向きな返事を貰えるとは思っていなかったルーカスは思わずぽかんとしてしまった。
掛けられた言葉の意味を理解すると、あとからじわじわと嬉しさが込み上げてくる。
今はまだ信じられない気持ちと半々くらいだが。


「本当に宜しいんですか……?てっきり反対されるかと……。」

そんなルーカスの言葉に、国王は優しく微笑んで話し始めた。


「お前は幼い頃から聞き分けが良くてわがままを言わない子だった。王子として文句の付けようもないほど優秀だ。でも、あまりにも完璧であろうとするその姿に少し心配していたんだ。……そんな息子の初めてで唯一の可愛い願い事を叶えてやりたいだなんて親として当然だろう?」

それは、ルーカスが初めて聞いた彼の父親としての愛息子へ率直な言葉だった。
家族として比較的仲の良い方ではあるとは思っていたが、彼は心からルーカスを愛し、そしてずっと気にかけていてくれていたのだ。
国王とは、等しく国民を愛し、守り、時には盾となる職務である。だから、一人一人に細かく目を向けることは本当に大変な事なのだ。
それを正しく理解しているルーカスだからこそ、その喜びもひとしおだった。

諦めなくて良かった。勇気を出してみてよかった。アリシアの事だけじゃない。きっと今日のことが無ければ気が付けなかったであろう事があった。

つい先程までこの世の終わりのような心情だったのが嘘のようだ。

――まだ少し、頑張ってみよう。――

そんな気持ちになれた。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

残念ですが、その婚約破棄宣言は失敗です

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【婚約破棄宣言は、計画的に】 今夜は伯爵令息ブライアンと、同じく伯爵令嬢キャサリンの婚約お披露目パーティーだった。しかしブライアンが伴ってきた女性は、かねてより噂のあった子爵家令嬢だった。ブライアンはキャサリンに声高く婚約破棄宣言を突きつけたのだが、思わぬ事態に直面することになる―― * あっさり終わります * 他サイトでも投稿中

この国では魔力を譲渡できる

ととせ
恋愛
「シエラお姉様、わたしに魔力をくださいな」  無邪気な笑顔でそうおねだりするのは、腹違いの妹シャーリだ。  五歳で母を亡くしたシエラ・グラッド公爵令嬢は、義理の妹であるシャーリにねだられ魔力を譲渡してしまう。魔力を失ったシエラは周囲から「シエラの方が庶子では?」と疑いの目を向けられ、学園だけでなく社交会からも遠ざけられていた。婚約者のロルフ第二王子からも蔑まれる日々だが、公爵令嬢らしく堂々と生きていた。

【完結】妹に婚約者を奪われた傷あり令嬢は、化け物伯爵と幸せを掴む

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
伯爵令嬢リューディアは侯爵家次男アルヴィと婚約が決まり友人に祝福されていた。親同士が決めたとはいえ、美しく人気のあるアルヴィとの婚約はリューディアにとっても嬉しいことだった。 しかし腹違いの妹カイヤはそれを妬み、母親と共謀してリューディアの顔に傷をつけた。赤く醜い跡が残り、口元も歪んでしまったリューディア。婚約は解消され、新たにカイヤと結び直された。 もう私の人生は終わったと、部屋に閉じこもっていたリューディア。その時、化け物のように醜い容姿の辺境伯から縁談が持ちかけられる。このままカイヤたちと一緒に暮らすぐらいならと、その縁談を受けることにした。 見合い当日、辺境伯は大きな傷があるリューディアに驚くが、お互いの利害が一致したことで二人は結婚を決意する。 顔と心に大きな傷を負ったヒロインが、優しいヒーローに溺愛されて癒されていくお話です。 ※傷やあざの描写があります。苦手な方はご遠慮ください。 ※溺愛タグは初めてなので、上手く表現できていないかもしれません。ゆるっと見守ってください。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

妹のことが好き過ぎて婚約破棄をしたいそうですが、後悔しても知りませんよ?

カミツドリ
ファンタジー
侯爵令嬢のフリージアは婚約者である第四王子殿下のボルドーに、彼女の妹のことが好きになったという理由で婚約破棄をされてしまう。 フリージアは逆らうことが出来ずに受け入れる以外に、選択肢はなかった。ただし最後に、「後悔しないでくださいね?」という言葉だけを残して去って行く……。

【完結24万pt感謝】子息の廃嫡? そんなことは家でやれ! 国には関係ないぞ!

宇水涼麻
ファンタジー
貴族達が会する場で、四人の青年が高らかに婚約解消を宣った。 そこに国王陛下が登場し、有無を言わさずそれを認めた。 慌てて否定した青年たちの親に、国王陛下は騒ぎを起こした責任として罰金を課した。その金額があまりに高額で、親たちは青年たちの廃嫡することで免れようとする。 貴族家として、これまで後継者として育ててきた者を廃嫡するのは大変な決断である。 しかし、国王陛下はそれを意味なしと袖にした。それは今回の集会に理由がある。 〰️ 〰️ 〰️ 中世ヨーロッパ風の婚約破棄物語です。 完結しました。いつもありがとうございます!

処理中です...