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ギルバートは、自分が乗ってきた馬車までアイリーンをエスコートすると、自分もそこに乗り込んだ。向かい合わせで座り、馬車が発車してからもお互い暫くは黙ったままであったが、ギルバートがおもむろにその口を開いた。


「ある男の物語を聞いてほしい。」

そう言って、彼は話し始めた。

勿論アイリーンのことは知っていた、と。侯爵家の令嬢なのだから、王太子として知っていて当然だ。夜会でアイリーンと、妹を見かけるたび、厄介な妹を持って大変だと思っていた。それと同時に、興味も持った。あまりの姉妹の差に驚いたんだ。でも、しれば知るほど全てにおいて完璧で、隙を見せないように振る舞っていることに気がつくと、もっと知りたいと思った。そして同時に、自分と似た空気を纏っている、と思った。期待を一身に背負った重圧、責任。気づいた時にはアイリーンに惹かれていた。どうしても結婚したい、と思った。だが、彼女を確実に手に入れたかった男は卑怯な手段にでた。彼女の足元を見たのだ。絶対に逃げられやしないように、侯爵から抱き込むことにした。家同士、王家と侯爵家の契約という形に持っていった。そうすれば意地でも王家と繋がりを持ちたいであろう侯爵が何がなんでも縁談を成功させるために、優秀だと名高いアイリーンを差し出すだろうとわかっていたから。そして、困窮している侯爵家が王家に無理な要求をしないために、弱みを握られたくはなかったから。もし自分がアイリーンに懸想していると知られたら、それは盛大な弱みとなり、幼い頃から弱みを作らないように、見せない様に……としてきたことが全て無駄になってしまうから。
全ては安全に、そして確実にアイリーンを手に入れるため。


「ただ、どうしようもなく惹かれていた。」

彼はそこで一旦口を閉じると、真っ直ぐにアイリーンを見据えた。


「君は、僕のことが嫌いだろうか?」

それは、昼間、ギルバートがアイリーンの見舞いに来た時に言い渋った言葉だった。
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