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「滞り……なく……?」

両親から聞かされたアイリーンは、呆然とそう呟くことしかできなかった。

婚約式とは、主に貴族、それも高位貴族や王族間の婚約を世間に知らせる目的で行われる、結婚式の簡略版のようなものである。貴族、特に高位貴族は縁談が多く上がるぶん、他の貴族からの妨害も多くなる。その牽制の意味もこめて周知させることで邪魔を入れないために行うのが婚約式であり、婚約式が終わった後は基本的にそれを撤回することが叶わなくなる。特に王族の婚約式に際しては、近隣の王族が出席することもあるため、そうそう簡単に開くことも撤回することも、破棄することもできなくなるのだ。これは特に王族と繋がりを求める家門が多く、幼い頃から決められた婚約者は社交界で嫌がらせにあったり爪弾きにされたり、中には直接危害を与えようとする者も多くいたため、同時に彼ら・彼女らを守るための仕組みでもあるのだ。
つまり何が言いたいかというと。
アイリーンの婚約者だったはずのギルバートは、妹に奪われてしまい、もう取り戻すことが不可能である、と言うことだ。
それだけはどうしても我慢できなかった。
次の瞬間には思わず言葉がアイリーンの口をついて出てしまっていた。


「どうしてそんなことを勝手に……!!!」
「どうしたのよアイリーン?せっかくあなたの代わりにクラリスが婚約してくれたんじゃないのよ。」
「でも本来なら……!」
「五月蝿いぞアイリーン!!我が家の大事な時期を台無しに仕掛けたのは誰だと思っているんだ!?お前にそんな口を出す権利があるとでも思っているのか!!!」

そう吐き捨てると侯爵は荒々しく部屋を出ていってしまった。


「そうよアイリーン……。あなたの失敗をクラリスが取り戻してくれたんだから感謝しなきゃ。」

侯爵夫人は終始ヘラヘラと笑いながらそういうと、侯爵に続いてアイリーンの自室を後にした。
アイリーンはただ信じられない気持ちで絶望する他残された道はなかった。
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