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1話
しおりを挟む爽やかな朝の空気に多くの少年、少女達の朗らかな声が響く。校門の前には送迎の馬車が列をなし、校舎へと続く道では沢山の学生達が優雅に朝の挨拶を交わしていた。
「シャーロット様、ごきげんよう。」
「ごきげんよう、サリア様、ロゼリア様。」
シャーロット・フェローニ公爵令嬢もその一人であった。馬車から降りた所で友人のサリア・ローグレー侯爵令嬢、ロゼリア・ベルトラン伯爵令嬢が彼女を待ち構えていた。彼女達はにこやかに挨拶を交わすと、他愛ない話をしながら連れ立って校舎の方へと歩き始めた。
道の中ほどまで到達した所で、ある集団が目に入った。一人の少年と、その周囲に群がり、きゃあきゃあと黄色い声を上げながらその体に纒わり付く少女達。少年は金髪碧眼で容姿端麗な、いかにも王子様然とした様相を呈していた。――何を隠そう、彼は本物の王子であるのだが。
じゃれ合いながら歩くため、その速度は驚く程遅い。後から来たシャーロット達が容易く追い越してしまう程に。
さっさと通り過ぎてしまいたかった彼女達だが、彼女達にはそうは出来ない理由があった。
「……おはようございます、ロバート様。」
「あ?……あぁ、何だ。シャーロットか。」
振り返った少年は、シャーロットの姿をみとめると、驚く程に低い声でいかにも落胆しましたとでも言うかのようにぞんざいな返答を返す。
そうして、頭を下げたままの彼女に言い放った。
「朝からお前の醜い顔を見なければいけないなんて、今日はなんて厄日なんだ。全くもって不快だ。」
そう言って鼻を鳴らした彼はさっさと彼女から目を逸らした。
彼にまとわりついている少女達もそんなシャーロットの姿に頭の上から爪先までじろじろと不躾な視線を向けると、小馬鹿にしたようにくすくすと笑って、またロバートと呼ばれた少年の気を引くことに注力する。
「ねぇ、ロバート様、今日は髪型を変えてみましたの。」「ロバート様、わたし、今日はココに行きたいですわ!」
ロバート様、ロバート様……。
毎朝毎朝、まるで嵐のようだと思いながらシャーロットが顔をあげると、そこには顔を真っ赤にして怒っている友人達がいた。
「シャーロット様にあまりにも失礼です!」
「いくら王太子だからって婚約者にあんな態度……!」
そう、ロバートはシャーロットの婚約者なのだ。
とはいえ、半ば強制的に決められたもので、シャーロットが望んだものではなかった。
「シャーロット様、ごきげんよう。」
「ごきげんよう、サリア様、ロゼリア様。」
シャーロット・フェローニ公爵令嬢もその一人であった。馬車から降りた所で友人のサリア・ローグレー侯爵令嬢、ロゼリア・ベルトラン伯爵令嬢が彼女を待ち構えていた。彼女達はにこやかに挨拶を交わすと、他愛ない話をしながら連れ立って校舎の方へと歩き始めた。
道の中ほどまで到達した所で、ある集団が目に入った。一人の少年と、その周囲に群がり、きゃあきゃあと黄色い声を上げながらその体に纒わり付く少女達。少年は金髪碧眼で容姿端麗な、いかにも王子様然とした様相を呈していた。――何を隠そう、彼は本物の王子であるのだが。
じゃれ合いながら歩くため、その速度は驚く程遅い。後から来たシャーロット達が容易く追い越してしまう程に。
さっさと通り過ぎてしまいたかった彼女達だが、彼女達にはそうは出来ない理由があった。
「……おはようございます、ロバート様。」
「あ?……あぁ、何だ。シャーロットか。」
振り返った少年は、シャーロットの姿をみとめると、驚く程に低い声でいかにも落胆しましたとでも言うかのようにぞんざいな返答を返す。
そうして、頭を下げたままの彼女に言い放った。
「朝からお前の醜い顔を見なければいけないなんて、今日はなんて厄日なんだ。全くもって不快だ。」
そう言って鼻を鳴らした彼はさっさと彼女から目を逸らした。
彼にまとわりついている少女達もそんなシャーロットの姿に頭の上から爪先までじろじろと不躾な視線を向けると、小馬鹿にしたようにくすくすと笑って、またロバートと呼ばれた少年の気を引くことに注力する。
「ねぇ、ロバート様、今日は髪型を変えてみましたの。」「ロバート様、わたし、今日はココに行きたいですわ!」
ロバート様、ロバート様……。
毎朝毎朝、まるで嵐のようだと思いながらシャーロットが顔をあげると、そこには顔を真っ赤にして怒っている友人達がいた。
「シャーロット様にあまりにも失礼です!」
「いくら王太子だからって婚約者にあんな態度……!」
そう、ロバートはシャーロットの婚約者なのだ。
とはいえ、半ば強制的に決められたもので、シャーロットが望んだものではなかった。
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