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14. イレーナ
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次の日、カテリーナは公爵家自慢の庭園を散歩していた。
晩餐など久しぶりで、カテリーナにはかなり胃にこたえたため運動が必要だと思ったからだ。
すると同じように庭園を散歩しているイレーナとばったり出会った。
イレーナは白地に紺の刺繍の入ったドレスを着ていて、とても似合っている。
「イレーナさん、こんにちは。」
カテリーナが挨拶するが、イレーナからなかなか返事が返ってこなかった。
目の悪いカテリーナにはイレーナがどのような表情をしているのかもわからなかった。
もしかしたら嫌われてしまったのかもと思ったが、このような場で話しかけられて無視をするのはマナー違反である。
「イレーナさん、どうなさいまして?」
カテリーナがもう一度促してやっとイレーナはカテリーナに挨拶をした。
「カテリーナさん、こんにちは。」と。
カテリーナはイレーナにとてつもなく興味を惹かれていた。
そもそもどうやってセドリックと出会い、どう恋に落ちたのかも興味があるが、カテリーナの一番の関心はイレーナの出自だった。
平民といってもとても貧乏な家から、成功している商家まで様々である。
子のできない貴族が爵位を持たない親戚筋の子、つまり広い目で見れば平民を養子に迎え入れることは珍しくなかった。
しかし、その場合はわざわざ平民出身と話題にはしないだろう。つまり、イレーナはそうではない平民だったと言うことだ。
どのような暮らしをしていたのかしら?
どのような家で、どのような食生活を?
ポランスキではラッシースカヤより貧民は多いのかしら。
イレーナの平民センサーが疼いて仕方なかった。
「イレーナさん、もしよければこの後一緒に散歩しませんか?」
ふと気付くとそんなことを口走っていた。
「え?私と?ですか?」
イレーナは驚いた様子だった。
「えぇ、私イレーナさんと仲良くなりたいですわ。」
カテリーナにっこりと笑みを浮かべた。
イレーナは「ぜひ、よろしくお願いします。」と言ってカテーシーを行った。
きっとあまり上手だとは言えないカテーシーなのだろうな、と思ったが目の見えないカテリーナにはよくわからなかった。
カテリーナはイレーナの手を取り歩く。
イレーナは少し緊張しているようだった。
「イレーナさん、緊張されていますか?」
「えぇ、お恥ずかしい話なのですがこのように連れ立っての散歩の経験が少なく、マナーがちゃんとできるのか不安なんです。」
「まぁ。そうでしたの。散歩などこうやって手を取って歩くだけですわ。だから、あまり気負わずにマナーなんて気になさらなくていいのよ。」
カテリーナが優しくそう言うがイレーナは首を振った。
「ちゃんとした公爵夫人になりたいのであれば息を吸うようにきちんとしたマナーが出来ないとダメだと。どこで誰が見ているかわからないのだからと。」
イレーナの言っていることは正しい。ただ、イレーナが嫁いで一年以上経っているのであればカテリーナにはイレーナがちゃんとした公爵夫人になれる可能性は少ないんじゃないだろうか、とぼんやりと考える。
それでも口から出てくるのは
「立派な心掛けですわね。」
というセリフだった。
「あの、カテリーナさんはなぜ突然この屋敷に?」
イレーナがおずおずと訪ねてきた。
イレーナの出自についてこの後根掘り葉掘り聞きたいと思っているカテリーナは、自分のことについて答えないのはフェアじゃないと考えた。
「公爵やバルバラ様から私のことははなんと聞いてらっしゃいますか?」
「親戚筋の子を少し預かることになったと。」
「親戚筋の子・・・ね。」
少しこの家の親戚について勉強していたら、ラッシースカヤの王太子妃が近しい親戚だと、その者の名前がカテリーナであると思い至るのだろうが、イレーナにはわからないようだった。
「まぁ、親戚であることは確かなのですが、私が誰なのかちゃんと知らなければフェアではございませんわね。私、ラッシースカヤから参りましたの。」
「ラッシースカヤから?」
「えぇ、現リンツ公爵のお母上はラッシースカヤの元王女殿下でいらっしゃいますもの。その縁でリンツ領からはラッシースカヤに多くのライ麦を輸出いただいておりますわ。」
「王女殿下?」
「私は王女ではなくってよ。私は先の王弟の孫で公爵家の産まれです。現在はまだ王太子妃という称号を戴いておりますわ。」
「王太子妃?」
「そうね。ラッシースカヤの王太子妃が蔑ろにされているという話はこの国でも有名なのではなくて?」
「蔑ろに・・・?私はまだ社交にあまり出れていないものですから、詳しくなくて。」
イレーナの声は心底驚いたように聞こえた。本当に何も知らないのだろう。
「そうですか。まぁ、隠していてもそのうちどこからか耳に入ると思いますから言ってしまいますが、蔑ろにされていたのは本当なんですのよ。それで、色々とあって、ちょっとあの人達が信用できないと思って衝動的に出てきてしまったのですわ。」
「衝動的に・・・」
「そうですわ。あの日は色々と考えてしまって眠れなくて、そんな時、第二宮殿の私の部屋の窓からリンツ公爵の馬車が走っていくのが見えましたの。天啓を受けた気分でしたわ。それで何も考えず公爵を追いかけて、今ここにいるというわけですの。」
カテリーナはエラやボリスを思い浮かべながら話をした。そうするといつの間にか興奮していたらしい。自分が思っていたよりも声が大きくなってしまった。
その事にハッと気付いて口をつぐんだ。
「それでは、カテリーナ様はセドリックのお相手候補として来られた訳ではないのですね?」
イレーナは公爵夫人としての勉強があまり身についておらず、いつ離縁させられるのかとビクビクしながらこの一年過ごしていたらしい。
そして、ついに妙齢の令嬢がやって来た。
しかもなぜ来たのかが明言されなかったためにすっかり悪い方向に考えてしまっていたらしい。
「カテリーナさんはとてもお綺麗で、所作もお美しくて一目で高位貴族だとわかりました!」
と言ってくれるイレーナは素直で愛らしい。
しかし、これでは公爵夫人は難しいだろうな、とカテリーナはイレーナと出会って何度目かとなるそんなことを考えていた。
晩餐など久しぶりで、カテリーナにはかなり胃にこたえたため運動が必要だと思ったからだ。
すると同じように庭園を散歩しているイレーナとばったり出会った。
イレーナは白地に紺の刺繍の入ったドレスを着ていて、とても似合っている。
「イレーナさん、こんにちは。」
カテリーナが挨拶するが、イレーナからなかなか返事が返ってこなかった。
目の悪いカテリーナにはイレーナがどのような表情をしているのかもわからなかった。
もしかしたら嫌われてしまったのかもと思ったが、このような場で話しかけられて無視をするのはマナー違反である。
「イレーナさん、どうなさいまして?」
カテリーナがもう一度促してやっとイレーナはカテリーナに挨拶をした。
「カテリーナさん、こんにちは。」と。
カテリーナはイレーナにとてつもなく興味を惹かれていた。
そもそもどうやってセドリックと出会い、どう恋に落ちたのかも興味があるが、カテリーナの一番の関心はイレーナの出自だった。
平民といってもとても貧乏な家から、成功している商家まで様々である。
子のできない貴族が爵位を持たない親戚筋の子、つまり広い目で見れば平民を養子に迎え入れることは珍しくなかった。
しかし、その場合はわざわざ平民出身と話題にはしないだろう。つまり、イレーナはそうではない平民だったと言うことだ。
どのような暮らしをしていたのかしら?
どのような家で、どのような食生活を?
ポランスキではラッシースカヤより貧民は多いのかしら。
イレーナの平民センサーが疼いて仕方なかった。
「イレーナさん、もしよければこの後一緒に散歩しませんか?」
ふと気付くとそんなことを口走っていた。
「え?私と?ですか?」
イレーナは驚いた様子だった。
「えぇ、私イレーナさんと仲良くなりたいですわ。」
カテリーナにっこりと笑みを浮かべた。
イレーナは「ぜひ、よろしくお願いします。」と言ってカテーシーを行った。
きっとあまり上手だとは言えないカテーシーなのだろうな、と思ったが目の見えないカテリーナにはよくわからなかった。
カテリーナはイレーナの手を取り歩く。
イレーナは少し緊張しているようだった。
「イレーナさん、緊張されていますか?」
「えぇ、お恥ずかしい話なのですがこのように連れ立っての散歩の経験が少なく、マナーがちゃんとできるのか不安なんです。」
「まぁ。そうでしたの。散歩などこうやって手を取って歩くだけですわ。だから、あまり気負わずにマナーなんて気になさらなくていいのよ。」
カテリーナが優しくそう言うがイレーナは首を振った。
「ちゃんとした公爵夫人になりたいのであれば息を吸うようにきちんとしたマナーが出来ないとダメだと。どこで誰が見ているかわからないのだからと。」
イレーナの言っていることは正しい。ただ、イレーナが嫁いで一年以上経っているのであればカテリーナにはイレーナがちゃんとした公爵夫人になれる可能性は少ないんじゃないだろうか、とぼんやりと考える。
それでも口から出てくるのは
「立派な心掛けですわね。」
というセリフだった。
「あの、カテリーナさんはなぜ突然この屋敷に?」
イレーナがおずおずと訪ねてきた。
イレーナの出自についてこの後根掘り葉掘り聞きたいと思っているカテリーナは、自分のことについて答えないのはフェアじゃないと考えた。
「公爵やバルバラ様から私のことははなんと聞いてらっしゃいますか?」
「親戚筋の子を少し預かることになったと。」
「親戚筋の子・・・ね。」
少しこの家の親戚について勉強していたら、ラッシースカヤの王太子妃が近しい親戚だと、その者の名前がカテリーナであると思い至るのだろうが、イレーナにはわからないようだった。
「まぁ、親戚であることは確かなのですが、私が誰なのかちゃんと知らなければフェアではございませんわね。私、ラッシースカヤから参りましたの。」
「ラッシースカヤから?」
「えぇ、現リンツ公爵のお母上はラッシースカヤの元王女殿下でいらっしゃいますもの。その縁でリンツ領からはラッシースカヤに多くのライ麦を輸出いただいておりますわ。」
「王女殿下?」
「私は王女ではなくってよ。私は先の王弟の孫で公爵家の産まれです。現在はまだ王太子妃という称号を戴いておりますわ。」
「王太子妃?」
「そうね。ラッシースカヤの王太子妃が蔑ろにされているという話はこの国でも有名なのではなくて?」
「蔑ろに・・・?私はまだ社交にあまり出れていないものですから、詳しくなくて。」
イレーナの声は心底驚いたように聞こえた。本当に何も知らないのだろう。
「そうですか。まぁ、隠していてもそのうちどこからか耳に入ると思いますから言ってしまいますが、蔑ろにされていたのは本当なんですのよ。それで、色々とあって、ちょっとあの人達が信用できないと思って衝動的に出てきてしまったのですわ。」
「衝動的に・・・」
「そうですわ。あの日は色々と考えてしまって眠れなくて、そんな時、第二宮殿の私の部屋の窓からリンツ公爵の馬車が走っていくのが見えましたの。天啓を受けた気分でしたわ。それで何も考えず公爵を追いかけて、今ここにいるというわけですの。」
カテリーナはエラやボリスを思い浮かべながら話をした。そうするといつの間にか興奮していたらしい。自分が思っていたよりも声が大きくなってしまった。
その事にハッと気付いて口をつぐんだ。
「それでは、カテリーナ様はセドリックのお相手候補として来られた訳ではないのですね?」
イレーナは公爵夫人としての勉強があまり身についておらず、いつ離縁させられるのかとビクビクしながらこの一年過ごしていたらしい。
そして、ついに妙齢の令嬢がやって来た。
しかもなぜ来たのかが明言されなかったためにすっかり悪い方向に考えてしまっていたらしい。
「カテリーナさんはとてもお綺麗で、所作もお美しくて一目で高位貴族だとわかりました!」
と言ってくれるイレーナは素直で愛らしい。
しかし、これでは公爵夫人は難しいだろうな、とカテリーナはイレーナと出会って何度目かとなるそんなことを考えていた。
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