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ホセ2
最終話 結婚
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マリア・ルイサと舞踏会に参加して一ヶ月後、ホセは謁見の間に呼ばれていた。
「よく参った。」
そう言った王の傍にはマリア・ルイサが控えていた。
今まで見た中で最高の笑顔で微笑んでいる。
「察しの良いお主は気づいておるかもしれんが、マリア・ルイサと婚約し直す事になった。それで、アンゴラの王女への婚約の打診は無かった事にしたい。」
「かしこまりました。御婚約おめでとうございます。」
「全てお主の掌の上、という訳か。」
「何のことでしょう?」
「とぼけるな。ルイサにすべて聞いた。あの時間にルイサに教会に懺悔に行くように促したのはお前だそうだな。」
「何のことやら。」
「それで、そちは王女を手に入れるのか。」
「それはベアトリス様のお心次第です。」
「どちらにせよ、ルイサが修道院を出たのはそちのおかげだ、ホセ・ブランコ。何か褒美をつかわそう。」
「それでは、我が領地と定期船の運航のお約束を。」
褒美と言うと金か宝石か土地かと思っていた王は面食らったようだった。しかし、カスティーリャとの定期船が運航されるようになれば領土の発展は約束されたようなものだ。
「なんと!これは面白い。やはり、そちは食えん男だ。アンゴラが嫌になったらすぐにカスティーリャに来い。厚遇を約束しよう。」
ホセは大使館に戻ると早速、国の王に手紙を書いた。
それと共に正式にベアトリスへの婚約の打診もした。
アンゴラ王からは婚約者候補に検討しても良い、という何とも煮え切らない返事が来たが、カスティーリャ王からの婚約の打診がなくなった今、国内外を見渡してもベアトリスに一番相応しい場所にいるのは自分であると信じていた。
ベアトリスが受け入れてくれさえすれば結婚できるはずである。
秋も終わりに近づいた頃、ホセは一時帰国が許された。
半年ぶりにベアトリスに会えるかと思うと毎日、気持ちが昂って寝られなかった。
謁見室に呼ばれると、ベアトリスにしか目に入らない。
ベアトリスはホセを見て驚いた顔をした後、何かを呟いて泣き始めた。
嫌がっている感じはしなかった。
むしろ喜んでくれている。
王族は一段上がった場所にいる。王族以外はその段の上には上がれない。ホセは段の下のベアトリスに一番近い場所に行き
「ベアトリス様」
とつぶやいた。
王妃がベアトリスの手を引いてホセの元まで連れてきてくれる。緑のデイドレスを着ているベアトリスはとても美しかった。泣いた顔まで美しいなんて反則である。
ホセは王の前だということを考え、節度ある距離感を保とうと理性を総動員した。しかし、ベアトリスが涙を流しながら
「ホセ・・・」
と呟き、その目から全てに愛おしいという視線が込められていたので、ホセは理性がどこかへ飛んでいってしまった。ホセはベアトリスをギュッと抱きしめた。
ベアトリスはホセの胸に顔を預けたあと、そのままの姿勢で
「私、あなたと結婚できるのね。嘘じゃないのね。」
と呟いた。ホセは更にベアトリスの体を強く抱きしめた。その後、視界の隅に王の顔が入ったため、理性が少し復活したホセは慌てて腕をほどき、ベアトリスから体を離した。
ベアトリスとホセは見つめ合う。
「あぁ、嘘じゃない。俺と結婚してください。」
「ええ!喜んで!」
ベアトリスは再びホセの胸に再び飛び込んだ。
その様子を見守っていた王が満足そうに話しかけた。
「だから、ベアトリスが幸せになれると信じていると言ったろう?」
ベアトリスは王を振り返って
「ありがとうございます。父上はご存知だったのですね。」
と言った。
「まぁな。ひとまず婚約だ。結婚はホセ・ブランコのカスティーリャ赴任が終わってからになるだろうから早くても2年半後かな。カスティーリャからはホセ殿の優秀さを褒める手紙が届いていたからもっと時間がかかるかもしれんが。」
そう言うと王は少し寂しそうな顔をした。
「二年半なんて待てませんわ。それに、それだと二年半は離れ離れということですか?そんなの耐えられない。一年後に結婚して私もカスティーリャに共に参ります。」
ベアトリスは決意した目で話し始めた。
「べ、ベアトリス?」
慌てたのは王だ。しかしこうなったベアトリスは誰にも止められなかった。
謁見からきっちり一年後の秋。
二人は大聖堂で結婚式を挙げた。
ベアトリスとホセの結婚は国民からも多くの支持を集め、大聖堂前の広場には二人の結婚を一目見ようと多くの民が集まった。
予定にはなかったがあまりに多くの人が集まったため、急遽二人は大聖堂の窓から顔を出し、手を振る事になった。
ベアトリスのつけている白い布に銀の刺繍糸を使ったベールはとても美しかった。これはペネロペ、マリア、イザベラ達、教会の女の子が刺したベールである。
ベアトリスは隣に立つホセを見て微笑んだ。
ホセもベアトリスを見つめる。
「私、ホセと結婚できて幸せですわ。」
ベアトリスがそんな可愛い事を言うのでホセはベアトリスを抱き寄せ大群衆の前でベアトリスにキスをした。
その瞬間、群衆の歓声は更に大きくなり割れんばかりに響いたのだった。
fin
「よく参った。」
そう言った王の傍にはマリア・ルイサが控えていた。
今まで見た中で最高の笑顔で微笑んでいる。
「察しの良いお主は気づいておるかもしれんが、マリア・ルイサと婚約し直す事になった。それで、アンゴラの王女への婚約の打診は無かった事にしたい。」
「かしこまりました。御婚約おめでとうございます。」
「全てお主の掌の上、という訳か。」
「何のことでしょう?」
「とぼけるな。ルイサにすべて聞いた。あの時間にルイサに教会に懺悔に行くように促したのはお前だそうだな。」
「何のことやら。」
「それで、そちは王女を手に入れるのか。」
「それはベアトリス様のお心次第です。」
「どちらにせよ、ルイサが修道院を出たのはそちのおかげだ、ホセ・ブランコ。何か褒美をつかわそう。」
「それでは、我が領地と定期船の運航のお約束を。」
褒美と言うと金か宝石か土地かと思っていた王は面食らったようだった。しかし、カスティーリャとの定期船が運航されるようになれば領土の発展は約束されたようなものだ。
「なんと!これは面白い。やはり、そちは食えん男だ。アンゴラが嫌になったらすぐにカスティーリャに来い。厚遇を約束しよう。」
ホセは大使館に戻ると早速、国の王に手紙を書いた。
それと共に正式にベアトリスへの婚約の打診もした。
アンゴラ王からは婚約者候補に検討しても良い、という何とも煮え切らない返事が来たが、カスティーリャ王からの婚約の打診がなくなった今、国内外を見渡してもベアトリスに一番相応しい場所にいるのは自分であると信じていた。
ベアトリスが受け入れてくれさえすれば結婚できるはずである。
秋も終わりに近づいた頃、ホセは一時帰国が許された。
半年ぶりにベアトリスに会えるかと思うと毎日、気持ちが昂って寝られなかった。
謁見室に呼ばれると、ベアトリスにしか目に入らない。
ベアトリスはホセを見て驚いた顔をした後、何かを呟いて泣き始めた。
嫌がっている感じはしなかった。
むしろ喜んでくれている。
王族は一段上がった場所にいる。王族以外はその段の上には上がれない。ホセは段の下のベアトリスに一番近い場所に行き
「ベアトリス様」
とつぶやいた。
王妃がベアトリスの手を引いてホセの元まで連れてきてくれる。緑のデイドレスを着ているベアトリスはとても美しかった。泣いた顔まで美しいなんて反則である。
ホセは王の前だということを考え、節度ある距離感を保とうと理性を総動員した。しかし、ベアトリスが涙を流しながら
「ホセ・・・」
と呟き、その目から全てに愛おしいという視線が込められていたので、ホセは理性がどこかへ飛んでいってしまった。ホセはベアトリスをギュッと抱きしめた。
ベアトリスはホセの胸に顔を預けたあと、そのままの姿勢で
「私、あなたと結婚できるのね。嘘じゃないのね。」
と呟いた。ホセは更にベアトリスの体を強く抱きしめた。その後、視界の隅に王の顔が入ったため、理性が少し復活したホセは慌てて腕をほどき、ベアトリスから体を離した。
ベアトリスとホセは見つめ合う。
「あぁ、嘘じゃない。俺と結婚してください。」
「ええ!喜んで!」
ベアトリスは再びホセの胸に再び飛び込んだ。
その様子を見守っていた王が満足そうに話しかけた。
「だから、ベアトリスが幸せになれると信じていると言ったろう?」
ベアトリスは王を振り返って
「ありがとうございます。父上はご存知だったのですね。」
と言った。
「まぁな。ひとまず婚約だ。結婚はホセ・ブランコのカスティーリャ赴任が終わってからになるだろうから早くても2年半後かな。カスティーリャからはホセ殿の優秀さを褒める手紙が届いていたからもっと時間がかかるかもしれんが。」
そう言うと王は少し寂しそうな顔をした。
「二年半なんて待てませんわ。それに、それだと二年半は離れ離れということですか?そんなの耐えられない。一年後に結婚して私もカスティーリャに共に参ります。」
ベアトリスは決意した目で話し始めた。
「べ、ベアトリス?」
慌てたのは王だ。しかしこうなったベアトリスは誰にも止められなかった。
謁見からきっちり一年後の秋。
二人は大聖堂で結婚式を挙げた。
ベアトリスとホセの結婚は国民からも多くの支持を集め、大聖堂前の広場には二人の結婚を一目見ようと多くの民が集まった。
予定にはなかったがあまりに多くの人が集まったため、急遽二人は大聖堂の窓から顔を出し、手を振る事になった。
ベアトリスのつけている白い布に銀の刺繍糸を使ったベールはとても美しかった。これはペネロペ、マリア、イザベラ達、教会の女の子が刺したベールである。
ベアトリスは隣に立つホセを見て微笑んだ。
ホセもベアトリスを見つめる。
「私、ホセと結婚できて幸せですわ。」
ベアトリスがそんな可愛い事を言うのでホセはベアトリスを抱き寄せ大群衆の前でベアトリスにキスをした。
その瞬間、群衆の歓声は更に大きくなり割れんばかりに響いたのだった。
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