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ホセ2
その11 カスティーリャ王
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カスティーリャ王フアンはたまに教会で懺悔室に入る。
懺悔するためではなく懺悔を聞くためである。
懺悔室では人の醜い面を知り民の率直な意見も聞くことができる。
その日も王は戯れに懺悔室で懺悔を聞いていた。
懺悔室に入ってきたのは貴族の令嬢のようである。
「人を死ねば良いのにと心の中で呪ってしまいました。」
王は令嬢の少し低めの声に聞き覚えがあった。彼女なら呪いよりもっと酷いことをしているはず、と王の眉が釣り上がる。
「心の中で昇華できたのであれば神はお許しになります」
神父らしくそう言うがそれは心の中で昇華できず、嫉妬に狂ってしまっていた彼女への嫌味である。
「本当にお許しいただけるでしょうか」
「呪っただけであれば。それとも、何か直接手を出すようなことをされましたか?」
これは誘導尋問である。王は彼女が酷いイジメをしていたのを知っている。
しかし、女は冷静な口調でこう答えた。
「いいえ、そのようなことはしておりません。」
懺悔室ではその罪は聞かなかったことにされる。だれが懺悔したかも匿名であるので嘘をつく必要などない。なのに彼女はなぜ嘘をつくのだろうかと思った。
「では、神はお許しになられるでしょう。」
そう言いながらも王は混乱していた。
理由を知りたい。そのためにもう少し話を続けたかった。
「何故呪いを?」
そこでこんな質問をしてしまっていた。
「愛する方が居るのですが・・・」
王は彼女が愛するのは隣国の大使だと噂で聞いて知っている。先日の夜会で仲睦まじい様子だったとか。
「彼のお心は他の方のもので・・・」
大使が祖国で王女と恋仲だということは調べがついていた。王とその国の王女との婚約の話があったので調べていた中にあった情報だった。大使と女との噂が流れた時には、大使は女好きなのかと穿った目で見てしまったが、大使は女のことはなんとも思っていないらしい。
舞踏会でエスコートさせていたというのもおおかた、女の我儘なのだろう。大使も気の毒に。
「嫉妬に駆られて、そういう不埒なことを考えてしまいました。本当のことを言うと、私が死を願っていたらその方が本当に亡くなってしまって怖いんです。何度、懺悔しても罪の意識は消えなくて・・・」
王は混乱した。隣国の王女は亡くなっていない。
「これまで何度も懺悔を?」
「はい。何度も。でも罪の意識が消えないんです。」
「自分が呪ってしまったから死んだのではないかと?」
「はい。」
懺悔室の向こうで女性が震えているのがわかった。
彼女の態度に嘘はなさそうだ。
王はこれまで、王妃であるレティシアが女ににいじめられていたと言う話を信じていた。茶会でお茶をかけられたり、ドレスを破られたりしたと。
女、ことマリア・ルイサを断罪した時、彼女は罪を認めたはずだ。だから、マリア・ルイサとの婚約破棄が認められ、レティシアと結婚することができたのだ。
しかし、彼女が早々に罪を認めたため、罪の中身についてまでは互いに言及していない。マリア・ルイサの認めた罪がただ単に嫉妬から心の中で死を願ったというだけだとしたら・・・レティシアは誰に虐められていたのだろうか。
「アマーリア、教えてほしい。レティシアは虐められていたのだろうか。」
王は王宮に戻ってから歳の一番近い妹に聞いてみた。妹とは昔仲が良かったが、最近は話しもしていない。
「あら、お兄様。お久しぶりですわね。いきなり部屋を訪ねて来られるなんて、お兄様は王族としてのマナーをお忘れになったのかしら?それとも、もう王になったからそのようなマナーは必要ないと?」
妹、アマーリアは怒っていた。
「そうだな。すまない。侍従に訪問を言付けてから訪ねるべきだった。」
「次からは気を付けてくださいませ。それで、レティシア様が虐められていたかですか?虐めるではなくて?」
アマーリアは鼻で笑いながらそう言った。
「俺はずっとレティシアがマリア・ルイサに虐められていたと言う話を信じていた。だから彼女を断罪したんだ。だけど・・・」
「ルイサお姉様が虐めていなかったと今更になって思い始めたのですか?」
「あぁ。真実を知りたい。」
「あの優しいお姉様がどなたかを虐めると、本当にそうお思いだったのですか?」
アマーリアはため息をついて話し始めた。
「私の目から見ると、虐められていたのはルイサお姉様の方かと。レティシア様は事あるごとにお姉様に不細工だから王妃として相応しくないと発言されておりましたわ。お姉様はそのようなことを言われても気丈に振る舞っておりました。他の令嬢が言い返そうとしても、立場が上の者が何かを言うとそれは抗えない暴力になってしまうからと咎めていらっしゃいましたわ。」
「では、何故、罪を認めたのだ。」
「それは私にもわかりません。お姉様がお兄様を愛していたから、自らが悪役になる事でお兄様の思いを成就させてあげたんじゃいかと。私の目からはそう見えましたわ。」
「そんな・・・」
「有力な貴族でルイサお姉様がお兄様の言う『悪事』を働いたなど信じている者はおりません。恐らく、みな同じ認識をされているかと思いますわ。」
王は目の前が真っ暗になった。信じていたものがガラガラと崩れていった。
「ではレティシアは?」
「あの女が虐められるわけないでしょう?お兄様は彼女をお好きだったのでしょうけれど、王宮で彼女が王妃に相応しいと本気で思っていたのはお兄様だけですわ。マナーもなっていない、頭も空っぽ、ドレスや宝石に湯水のようにお金を使う、みな、外国との社交に出る前に死んでくれてホッとしているのではなくて?」
「レティシアはそんな女では・・・美しく慈愛に満ちた優しい女性で、下級貴族出身だから知識は乏しいが、それも身につけようと懸命に・・・」
「お兄様が何を信じるかは自由ですけれど、普通の女性は婚約者のいる男性に近付いたりしませんわ。あまつさえ、当時王太子だったお兄様に近付くなんて。それで万が一、ルイサお姉様に何かされたとしても普通なら、婚約者を勘違いさせた自分が悪いと思うでしょうね。それを、ルイサお姉様を悪く言うなんて、女性の私から言わせたら厚かましくて反吐が出ますわ。」
妹の発言は全てその通りだと思った。何故当時はそんな事にも気付かなかったのだろうか。
王はマリア・ルイサに謝らなくてはならないと思った。
懺悔するためではなく懺悔を聞くためである。
懺悔室では人の醜い面を知り民の率直な意見も聞くことができる。
その日も王は戯れに懺悔室で懺悔を聞いていた。
懺悔室に入ってきたのは貴族の令嬢のようである。
「人を死ねば良いのにと心の中で呪ってしまいました。」
王は令嬢の少し低めの声に聞き覚えがあった。彼女なら呪いよりもっと酷いことをしているはず、と王の眉が釣り上がる。
「心の中で昇華できたのであれば神はお許しになります」
神父らしくそう言うがそれは心の中で昇華できず、嫉妬に狂ってしまっていた彼女への嫌味である。
「本当にお許しいただけるでしょうか」
「呪っただけであれば。それとも、何か直接手を出すようなことをされましたか?」
これは誘導尋問である。王は彼女が酷いイジメをしていたのを知っている。
しかし、女は冷静な口調でこう答えた。
「いいえ、そのようなことはしておりません。」
懺悔室ではその罪は聞かなかったことにされる。だれが懺悔したかも匿名であるので嘘をつく必要などない。なのに彼女はなぜ嘘をつくのだろうかと思った。
「では、神はお許しになられるでしょう。」
そう言いながらも王は混乱していた。
理由を知りたい。そのためにもう少し話を続けたかった。
「何故呪いを?」
そこでこんな質問をしてしまっていた。
「愛する方が居るのですが・・・」
王は彼女が愛するのは隣国の大使だと噂で聞いて知っている。先日の夜会で仲睦まじい様子だったとか。
「彼のお心は他の方のもので・・・」
大使が祖国で王女と恋仲だということは調べがついていた。王とその国の王女との婚約の話があったので調べていた中にあった情報だった。大使と女との噂が流れた時には、大使は女好きなのかと穿った目で見てしまったが、大使は女のことはなんとも思っていないらしい。
舞踏会でエスコートさせていたというのもおおかた、女の我儘なのだろう。大使も気の毒に。
「嫉妬に駆られて、そういう不埒なことを考えてしまいました。本当のことを言うと、私が死を願っていたらその方が本当に亡くなってしまって怖いんです。何度、懺悔しても罪の意識は消えなくて・・・」
王は混乱した。隣国の王女は亡くなっていない。
「これまで何度も懺悔を?」
「はい。何度も。でも罪の意識が消えないんです。」
「自分が呪ってしまったから死んだのではないかと?」
「はい。」
懺悔室の向こうで女性が震えているのがわかった。
彼女の態度に嘘はなさそうだ。
王はこれまで、王妃であるレティシアが女ににいじめられていたと言う話を信じていた。茶会でお茶をかけられたり、ドレスを破られたりしたと。
女、ことマリア・ルイサを断罪した時、彼女は罪を認めたはずだ。だから、マリア・ルイサとの婚約破棄が認められ、レティシアと結婚することができたのだ。
しかし、彼女が早々に罪を認めたため、罪の中身についてまでは互いに言及していない。マリア・ルイサの認めた罪がただ単に嫉妬から心の中で死を願ったというだけだとしたら・・・レティシアは誰に虐められていたのだろうか。
「アマーリア、教えてほしい。レティシアは虐められていたのだろうか。」
王は王宮に戻ってから歳の一番近い妹に聞いてみた。妹とは昔仲が良かったが、最近は話しもしていない。
「あら、お兄様。お久しぶりですわね。いきなり部屋を訪ねて来られるなんて、お兄様は王族としてのマナーをお忘れになったのかしら?それとも、もう王になったからそのようなマナーは必要ないと?」
妹、アマーリアは怒っていた。
「そうだな。すまない。侍従に訪問を言付けてから訪ねるべきだった。」
「次からは気を付けてくださいませ。それで、レティシア様が虐められていたかですか?虐めるではなくて?」
アマーリアは鼻で笑いながらそう言った。
「俺はずっとレティシアがマリア・ルイサに虐められていたと言う話を信じていた。だから彼女を断罪したんだ。だけど・・・」
「ルイサお姉様が虐めていなかったと今更になって思い始めたのですか?」
「あぁ。真実を知りたい。」
「あの優しいお姉様がどなたかを虐めると、本当にそうお思いだったのですか?」
アマーリアはため息をついて話し始めた。
「私の目から見ると、虐められていたのはルイサお姉様の方かと。レティシア様は事あるごとにお姉様に不細工だから王妃として相応しくないと発言されておりましたわ。お姉様はそのようなことを言われても気丈に振る舞っておりました。他の令嬢が言い返そうとしても、立場が上の者が何かを言うとそれは抗えない暴力になってしまうからと咎めていらっしゃいましたわ。」
「では、何故、罪を認めたのだ。」
「それは私にもわかりません。お姉様がお兄様を愛していたから、自らが悪役になる事でお兄様の思いを成就させてあげたんじゃいかと。私の目からはそう見えましたわ。」
「そんな・・・」
「有力な貴族でルイサお姉様がお兄様の言う『悪事』を働いたなど信じている者はおりません。恐らく、みな同じ認識をされているかと思いますわ。」
王は目の前が真っ暗になった。信じていたものがガラガラと崩れていった。
「ではレティシアは?」
「あの女が虐められるわけないでしょう?お兄様は彼女をお好きだったのでしょうけれど、王宮で彼女が王妃に相応しいと本気で思っていたのはお兄様だけですわ。マナーもなっていない、頭も空っぽ、ドレスや宝石に湯水のようにお金を使う、みな、外国との社交に出る前に死んでくれてホッとしているのではなくて?」
「レティシアはそんな女では・・・美しく慈愛に満ちた優しい女性で、下級貴族出身だから知識は乏しいが、それも身につけようと懸命に・・・」
「お兄様が何を信じるかは自由ですけれど、普通の女性は婚約者のいる男性に近付いたりしませんわ。あまつさえ、当時王太子だったお兄様に近付くなんて。それで万が一、ルイサお姉様に何かされたとしても普通なら、婚約者を勘違いさせた自分が悪いと思うでしょうね。それを、ルイサお姉様を悪く言うなんて、女性の私から言わせたら厚かましくて反吐が出ますわ。」
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