【完結】婚約者が恋に落ちたので、私は・・・

ゴールデンフィッシュメダル

文字の大きさ
上 下
9 / 13
ホセ2

その9 水面下での動き

しおりを挟む
「ホセ、今日はマリアたちと花を摘んだのよ。」
「ホセ、エビタシオが合格したって!」
「アマポーラの花が満開だわ、ホセ」

毎日、ベアトリスに随行してベアトリスと言葉を交わす。
ベアトリスがホセに向ける視線の中に時折、友情より濃いものが含まれるようになってきた事にホセは気付いていた。

まだきっと、ベアトリス本人すら気づいていないその想い。
その事に気づいてホセは一人悦に浸っていた。




「カスティーリャの大使が任期半ばで職を辞すらしい」
との一報が入ったのは王との謁見から一ヶ月後のことだ。

婚約を急ぎたいカスティーリャとそれをのらりくらりと交わす王との間で疲れたのだろう。

次のカスティーリャ大使には自分がつく。そして、ベアトリスとの婚約をカスティーリャに諦めてもらう交渉をしよう。幸い、根回しは済んでいる。

「カスティーリャ大使として外務部門に来ませんか?」

とのスカウトが来たのはその直後だった。スカウトされなくても自力でその地位に着く予定だったが余計な手間が掛からなくて良かった。
婚約の話も持ちかけられたが、それは丁重に断っておいた。

ベアトリスと離れることは心苦しいけれど、将来のために今は我慢しなければならない。




「ベアトリス様、お話があります。」

カスティーリャ大使への登用が決まった直後、真っ先にベアトリスに伝える。

「まだ正式に発表されてはいないのですが、この度、外交部門に移ることになりました。それで、ベアトリス様に随行できるのもあと一ヶ月となります。カルナバルが過ぎる頃に後任をご紹介できる流れになるかと思います。」

カルナバルは二週間後から一週間続く祭りである。
カルナバルは一緒に回れるように手配しよう。

「あぁ、そうなの・・・」

ベアトリスの顔色がみるみる悪くなっていく。

「そんな顔なさらないでください。」

自分がいなくなる事にショッを受けているベアトリスを見て不謹慎だが喜んでしまう。土気色になったベアトリスを気遣い、休憩を提案した。

「少し休憩しましょうか」

学園までは後少し。学園前に続くプラタナスの木は冬の青空にその枝を延ばしていた。
ベアトリスを安心させたい一心でホセはベアトリスに誓いを立てた。

「ベアトリス様。私は国でもなく王でもなくベアトリス様に生涯忠誠を誓うとここにお約束します。」

期待させ過ぎて結局、結ばれませんでした、というのは避けたい。しかし、自分の心がどこにあるのかは伝えておきたかった。

「ベアトリス様をお守りするために外交部門での経験がきっとお役に立つと考えました。ですので、私が近くにいない時に何か困ったことがあればすぐにお知らせください。何があっても命ある限りすぐに、馳せ参じます。」

誓いを立てたベアトリスの手は白魚のようだった。




カスティーリャに行く前にこちらの国に駐在しているカスティーリャ大使に挨拶に行った。

「カスティーリャ国に大使として派遣される事になりましたホセ・ブランコと申します。」

この時には既にブランコ辺境伯家との養子縁組が成立していたため、外務部門ではブランコを名乗る事になった。歴史ある辺境伯家の看板は外務部門では役に立つだろう。

「カルロス・シルヴァだ。貴国と我が国との間には長年有効関係が築かれている。ホセ殿にも友好関係の架け橋となって欲しい。」

カルロスは壮年の貫禄ある男性だった。
調べによるとシルヴァ公爵の弟らしい。

「精一杯尽力させていただきます。」

こういう人には遜っておくに越したことはない。

「ところで、カスティーリャからの要望に長い間、色良い返事が貰えていないとの事、非常に心配しております。」

壮年の男性はさして心配でもなさそうトーンで発言をする。

「それは我が国の薔薇のことでございますね。」

ベアトリスの話をやはり振ってきたかという感想だった。
この大使の姪(兄である公爵の娘)が幼い頃からの王の婚約者だったのだが、結婚直前に王に婚約破棄されたのは有名な話だった。
婚約破棄した王は平民上がりの娘と結婚した。その二人の結婚は世紀のロマンスとしてカスティーリャでは大変人気だそうだ。

「カスティーリャの王は薔薇よりアマポーラの方がお好きだと聞いております。」

薔薇というのは貴族の女性、アマポーラは美しいが雑草であることから平民の女性を意図して発言する。

「カスティーリャの薔薇も手折られる前に踏み躙られたと聞いております。」

するとシルヴァ大使の眉がピクリと動いた。

「わたくし、少し異端な経歴でして、前職は王女の護衛を務めておりました。ですので、例え王が許されても、王女が貴国で幸せになれる保証がないのであれば、大使としてこの話を頓挫させる所存でございます。」

突然の宣言にシルヴァ大使は呆気に取られている。

「そんな事・・・」

「王女の幸せのためであれば命も惜しくはございません。」

ホセはそう言ってにっこりと笑った。

「カスティーリャの薔薇は幸せでいらっしゃるのでしょうか?」

ホセのこの言葉にシルヴァ大使は顔を曇らせた。
公爵令嬢であったシルヴァ大使の姪は修道院に籠っていると聞いている。

ベアトリスとの婚姻の話を握りつぶすには新しい婚約者を立てる必要がある。彼女も王の新しい婚約者候補の一人である事には間違いなかった。




カルナバルでは最終日にベアトリスと過ごすことができた。これは王がわざとそのように仕向けたに違いなかった。


二人の行動は見られている、ということである。


ベアトリスへの発言も気をつけなくてはならない。
ベアトリスがペネロペやマリアたちとキスの言い伝えの件で盛り上がっていたのも聞いていたが、今回は叶えてやることは出来そうになかった。

その代わり、いつもより熱い視線でベアトリスを見る。ベアトリスもこの時ばかりは、と思ったのか熱い視線を返してくれた。

その後、ベアトリスの護衛を他の騎士に任せ、騎士から外務部門に籍を移した。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

真面目くさった女はいらないと婚約破棄された伯爵令嬢ですが、王太子様に求婚されました。実はかわいい彼の溺愛っぷりに困っています

綾森れん
恋愛
「リラ・プリマヴェーラ、お前と交わした婚約を破棄させてもらう!」 公爵家主催の夜会にて、リラ・プリマヴェーラ伯爵令嬢はグイード・ブライデン公爵令息から言い渡された。 「お前のような真面目くさった女はいらない!」 ギャンブルに財産を賭ける婚約者の姿に公爵家の将来を憂いたリラは、彼をいさめたのだが逆恨みされて婚約破棄されてしまったのだ。 リラとグイードの婚約は政略結婚であり、そこに愛はなかった。リラは今でも7歳のころ茶会で出会ったアルベルト王子の優しさと可愛らしさを覚えていた。しかしアルベルト王子はそのすぐあとに、毒殺されてしまった。 夜会で恥をさらし、居場所を失った彼女を救ったのは、美しい青年歌手アルカンジェロだった。 心優しいアルカンジェロに惹かれていくリラだが、彼は高い声を保つため、少年時代に残酷な手術を受けた「カストラート(去勢歌手)」と呼ばれる存在。教会は、子孫を残せない彼らに結婚を禁じていた。 禁断の恋に悩むリラのもとへ、父親が新たな婚約話をもってくる。相手の男性は親子ほども歳の離れた下級貴族で子だくさん。数年前に妻を亡くし、後妻に入ってくれる女性を探しているという、悪い条件の相手だった。 望まぬ婚姻を強いられ未来に希望を持てなくなったリラは、アルカンジェロと二人、教会の勢力が及ばない国外へ逃げ出す計画を立てる。 仮面舞踏会の夜、二人の愛は通じ合い、結ばれる。だがアルカンジェロが自身の秘密を打ち明けた。彼の正体は歌手などではなく、十年前に毒殺されたはずのアルベルト王子その人だった。 しかし再び、王権転覆を狙う暗殺者が迫りくる。 これは、愛し合うリラとアルベルト王子が二人で幸せをつかむまでの物語である。

【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

恋愛
今日、私はお飾りの妃となります。 ※実際の慣習等とは異なる場合があり、あくまでこの世界観での要素もございますので御了承ください。

【完結】貴方の望み通りに・・・

kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも どんなに貴方を見つめても どんなに貴方を思っても だから、 もう貴方を望まない もう貴方を見つめない もう貴方のことは忘れる さようなら

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】恋は、終わったのです

楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。 今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。 『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』 身長を追い越してしまった時からだろうか。  それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。 あるいは――あの子に出会った時からだろうか。 ――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

処理中です...