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ホセ2
その9 水面下での動き
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「ホセ、今日はマリアたちと花を摘んだのよ。」
「ホセ、エビタシオが合格したって!」
「アマポーラの花が満開だわ、ホセ」
毎日、ベアトリスに随行してベアトリスと言葉を交わす。
ベアトリスがホセに向ける視線の中に時折、友情より濃いものが含まれるようになってきた事にホセは気付いていた。
まだきっと、ベアトリス本人すら気づいていないその想い。
その事に気づいてホセは一人悦に浸っていた。
「カスティーリャの大使が任期半ばで職を辞すらしい」
との一報が入ったのは王との謁見から一ヶ月後のことだ。
婚約を急ぎたいカスティーリャとそれをのらりくらりと交わす王との間で疲れたのだろう。
次のカスティーリャ大使には自分がつく。そして、ベアトリスとの婚約をカスティーリャに諦めてもらう交渉をしよう。幸い、根回しは済んでいる。
「カスティーリャ大使として外務部門に来ませんか?」
とのスカウトが来たのはその直後だった。スカウトされなくても自力でその地位に着く予定だったが余計な手間が掛からなくて良かった。
婚約の話も持ちかけられたが、それは丁重に断っておいた。
ベアトリスと離れることは心苦しいけれど、将来のために今は我慢しなければならない。
「ベアトリス様、お話があります。」
カスティーリャ大使への登用が決まった直後、真っ先にベアトリスに伝える。
「まだ正式に発表されてはいないのですが、この度、外交部門に移ることになりました。それで、ベアトリス様に随行できるのもあと一ヶ月となります。カルナバルが過ぎる頃に後任をご紹介できる流れになるかと思います。」
カルナバルは二週間後から一週間続く祭りである。
カルナバルは一緒に回れるように手配しよう。
「あぁ、そうなの・・・」
ベアトリスの顔色がみるみる悪くなっていく。
「そんな顔なさらないでください。」
自分がいなくなる事にショッを受けているベアトリスを見て不謹慎だが喜んでしまう。土気色になったベアトリスを気遣い、休憩を提案した。
「少し休憩しましょうか」
学園までは後少し。学園前に続くプラタナスの木は冬の青空にその枝を延ばしていた。
ベアトリスを安心させたい一心でホセはベアトリスに誓いを立てた。
「ベアトリス様。私は国でもなく王でもなくベアトリス様に生涯忠誠を誓うとここにお約束します。」
期待させ過ぎて結局、結ばれませんでした、というのは避けたい。しかし、自分の心がどこにあるのかは伝えておきたかった。
「ベアトリス様をお守りするために外交部門での経験がきっとお役に立つと考えました。ですので、私が近くにいない時に何か困ったことがあればすぐにお知らせください。何があっても命ある限りすぐに、馳せ参じます。」
誓いを立てたベアトリスの手は白魚のようだった。
カスティーリャに行く前にこちらの国に駐在しているカスティーリャ大使に挨拶に行った。
「カスティーリャ国に大使として派遣される事になりましたホセ・ブランコと申します。」
この時には既にブランコ辺境伯家との養子縁組が成立していたため、外務部門ではブランコを名乗る事になった。歴史ある辺境伯家の看板は外務部門では役に立つだろう。
「カルロス・シルヴァだ。貴国と我が国との間には長年有効関係が築かれている。ホセ殿にも友好関係の架け橋となって欲しい。」
カルロスは壮年の貫禄ある男性だった。
調べによるとシルヴァ公爵の弟らしい。
「精一杯尽力させていただきます。」
こういう人には遜っておくに越したことはない。
「ところで、カスティーリャからの要望に長い間、色良い返事が貰えていないとの事、非常に心配しております。」
壮年の男性はさして心配でもなさそうトーンで発言をする。
「それは我が国の薔薇のことでございますね。」
ベアトリスの話をやはり振ってきたかという感想だった。
この大使の姪(兄である公爵の娘)が幼い頃からの王の婚約者だったのだが、結婚直前に王に婚約破棄されたのは有名な話だった。
婚約破棄した王は平民上がりの娘と結婚した。その二人の結婚は世紀のロマンスとしてカスティーリャでは大変人気だそうだ。
「カスティーリャの王は薔薇よりアマポーラの方がお好きだと聞いております。」
薔薇というのは貴族の女性、アマポーラは美しいが雑草であることから平民の女性を意図して発言する。
「カスティーリャの薔薇も手折られる前に踏み躙られたと聞いております。」
するとシルヴァ大使の眉がピクリと動いた。
「わたくし、少し異端な経歴でして、前職は王女の護衛を務めておりました。ですので、例え王が許されても、王女が貴国で幸せになれる保証がないのであれば、大使としてこの話を頓挫させる所存でございます。」
突然の宣言にシルヴァ大使は呆気に取られている。
「そんな事・・・」
「王女の幸せのためであれば命も惜しくはございません。」
ホセはそう言ってにっこりと笑った。
「カスティーリャの薔薇は幸せでいらっしゃるのでしょうか?」
ホセのこの言葉にシルヴァ大使は顔を曇らせた。
公爵令嬢であったシルヴァ大使の姪は修道院に籠っていると聞いている。
ベアトリスとの婚姻の話を握りつぶすには新しい婚約者を立てる必要がある。彼女も王の新しい婚約者候補の一人である事には間違いなかった。
カルナバルでは最終日にベアトリスと過ごすことができた。これは王がわざとそのように仕向けたに違いなかった。
二人の行動は見られている、ということである。
ベアトリスへの発言も気をつけなくてはならない。
ベアトリスがペネロペやマリアたちとキスの言い伝えの件で盛り上がっていたのも聞いていたが、今回は叶えてやることは出来そうになかった。
その代わり、いつもより熱い視線でベアトリスを見る。ベアトリスもこの時ばかりは、と思ったのか熱い視線を返してくれた。
その後、ベアトリスの護衛を他の騎士に任せ、騎士から外務部門に籍を移した。
「ホセ、エビタシオが合格したって!」
「アマポーラの花が満開だわ、ホセ」
毎日、ベアトリスに随行してベアトリスと言葉を交わす。
ベアトリスがホセに向ける視線の中に時折、友情より濃いものが含まれるようになってきた事にホセは気付いていた。
まだきっと、ベアトリス本人すら気づいていないその想い。
その事に気づいてホセは一人悦に浸っていた。
「カスティーリャの大使が任期半ばで職を辞すらしい」
との一報が入ったのは王との謁見から一ヶ月後のことだ。
婚約を急ぎたいカスティーリャとそれをのらりくらりと交わす王との間で疲れたのだろう。
次のカスティーリャ大使には自分がつく。そして、ベアトリスとの婚約をカスティーリャに諦めてもらう交渉をしよう。幸い、根回しは済んでいる。
「カスティーリャ大使として外務部門に来ませんか?」
とのスカウトが来たのはその直後だった。スカウトされなくても自力でその地位に着く予定だったが余計な手間が掛からなくて良かった。
婚約の話も持ちかけられたが、それは丁重に断っておいた。
ベアトリスと離れることは心苦しいけれど、将来のために今は我慢しなければならない。
「ベアトリス様、お話があります。」
カスティーリャ大使への登用が決まった直後、真っ先にベアトリスに伝える。
「まだ正式に発表されてはいないのですが、この度、外交部門に移ることになりました。それで、ベアトリス様に随行できるのもあと一ヶ月となります。カルナバルが過ぎる頃に後任をご紹介できる流れになるかと思います。」
カルナバルは二週間後から一週間続く祭りである。
カルナバルは一緒に回れるように手配しよう。
「あぁ、そうなの・・・」
ベアトリスの顔色がみるみる悪くなっていく。
「そんな顔なさらないでください。」
自分がいなくなる事にショッを受けているベアトリスを見て不謹慎だが喜んでしまう。土気色になったベアトリスを気遣い、休憩を提案した。
「少し休憩しましょうか」
学園までは後少し。学園前に続くプラタナスの木は冬の青空にその枝を延ばしていた。
ベアトリスを安心させたい一心でホセはベアトリスに誓いを立てた。
「ベアトリス様。私は国でもなく王でもなくベアトリス様に生涯忠誠を誓うとここにお約束します。」
期待させ過ぎて結局、結ばれませんでした、というのは避けたい。しかし、自分の心がどこにあるのかは伝えておきたかった。
「ベアトリス様をお守りするために外交部門での経験がきっとお役に立つと考えました。ですので、私が近くにいない時に何か困ったことがあればすぐにお知らせください。何があっても命ある限りすぐに、馳せ参じます。」
誓いを立てたベアトリスの手は白魚のようだった。
カスティーリャに行く前にこちらの国に駐在しているカスティーリャ大使に挨拶に行った。
「カスティーリャ国に大使として派遣される事になりましたホセ・ブランコと申します。」
この時には既にブランコ辺境伯家との養子縁組が成立していたため、外務部門ではブランコを名乗る事になった。歴史ある辺境伯家の看板は外務部門では役に立つだろう。
「カルロス・シルヴァだ。貴国と我が国との間には長年有効関係が築かれている。ホセ殿にも友好関係の架け橋となって欲しい。」
カルロスは壮年の貫禄ある男性だった。
調べによるとシルヴァ公爵の弟らしい。
「精一杯尽力させていただきます。」
こういう人には遜っておくに越したことはない。
「ところで、カスティーリャからの要望に長い間、色良い返事が貰えていないとの事、非常に心配しております。」
壮年の男性はさして心配でもなさそうトーンで発言をする。
「それは我が国の薔薇のことでございますね。」
ベアトリスの話をやはり振ってきたかという感想だった。
この大使の姪(兄である公爵の娘)が幼い頃からの王の婚約者だったのだが、結婚直前に王に婚約破棄されたのは有名な話だった。
婚約破棄した王は平民上がりの娘と結婚した。その二人の結婚は世紀のロマンスとしてカスティーリャでは大変人気だそうだ。
「カスティーリャの王は薔薇よりアマポーラの方がお好きだと聞いております。」
薔薇というのは貴族の女性、アマポーラは美しいが雑草であることから平民の女性を意図して発言する。
「カスティーリャの薔薇も手折られる前に踏み躙られたと聞いております。」
するとシルヴァ大使の眉がピクリと動いた。
「わたくし、少し異端な経歴でして、前職は王女の護衛を務めておりました。ですので、例え王が許されても、王女が貴国で幸せになれる保証がないのであれば、大使としてこの話を頓挫させる所存でございます。」
突然の宣言にシルヴァ大使は呆気に取られている。
「そんな事・・・」
「王女の幸せのためであれば命も惜しくはございません。」
ホセはそう言ってにっこりと笑った。
「カスティーリャの薔薇は幸せでいらっしゃるのでしょうか?」
ホセのこの言葉にシルヴァ大使は顔を曇らせた。
公爵令嬢であったシルヴァ大使の姪は修道院に籠っていると聞いている。
ベアトリスとの婚姻の話を握りつぶすには新しい婚約者を立てる必要がある。彼女も王の新しい婚約者候補の一人である事には間違いなかった。
カルナバルでは最終日にベアトリスと過ごすことができた。これは王がわざとそのように仕向けたに違いなかった。
二人の行動は見られている、ということである。
ベアトリスへの発言も気をつけなくてはならない。
ベアトリスがペネロペやマリアたちとキスの言い伝えの件で盛り上がっていたのも聞いていたが、今回は叶えてやることは出来そうになかった。
その代わり、いつもより熱い視線でベアトリスを見る。ベアトリスもこの時ばかりは、と思ったのか熱い視線を返してくれた。
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