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ベアトリス2
その7 新たな婚約
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季節は慌ただしく過ぎていった。
ホセは外務部門に移動になり、今は隣国のカスティーリャに大使として行っているらしい。
ベアトリスには新しく護衛がついたがあくまでベアトリスの護衛で、子供たちに剣を教えたりすることはなかった。
夏を迎える少し前、ベアトリスは学園を卒業した。ベアトリスは学園には通ったり通わなかったりだったが、優秀な成績で卒業することができた。
アルトゥールとジュリアは学園では二人で過ごすことが多いようだ。
微笑み合う二人の姿を見てもベアトリスの胸が痛むことはもうなかった。
そこから更に数ヶ月が過ぎた。
ホセと別れたのは冬の終わり。春の訪れを待つカルナバルの時期であった。そして、今は冬の始まり。
寒くなってきて人恋しい季節になったからかもしれない。冬がホセと別れた季節だからかもしれない。ベアトリスはホセと会いたくてたまらなかった。
もうホセとは半年以上会っていない。
いつも守ってくれると言ったのに。
会いたい想いがつのる。
そんな時だった。家族の晩餐の席で父王から思いがけぬ言葉を聞いた。
「ベアトリス、そなたの婚約が決まった。」
ベアトリスはいつかはこの時が来るだろうと覚悟していた。覚悟していたのに、心はひどく落ち込んだ。
「どなたですか?」
それでもなんとか話を続ける。
「ブランコ辺境伯家の嫡男だ。」
王は落ち着いた声で話す。
「父上!それはあんまりだ。ブランコ辺境伯家の嫡男といえば、変人だともっぱらの噂ですよ。たしか、変人過ぎて婚約者に逃げられたとか。」
そう声を上げてくれたのは兄だった。
「そうじゃったかな。しかし、ベアトリスが嫁ぐに相応しい家柄の者で結婚しておらず、婚約もしていないのは彼だけなのじゃ。」
「それはそうかもしれませんが、ベアトリスは民の人気も高いし、王家にずっと名を連ねていても問題はないかと。」
「確かにわしもこの前までそう思っておった。しかし、辺境伯家は噂の嫡男を廃嫡し、優秀な甥を嫡男に指定したらしい。確かに優秀な男のようだ。それに・・・」
そう言うと父王は意味ありげにベアトリスににっこり笑った。
「わしは彼と結婚すればベアトリスが世界一幸せになれると信じているのじゃ。」
「世界一ですか?」
「おそらくは。まぁ、明日、顔合わせをするから、そのつもりでいなさい。」
ベアトリスはホセ以外の人と結婚して幸せになれるとは思わなかった。しかし、王女であるベアトリスから王の決定に文句を言うことなどできない。
ベアトリスは翌日、どんよりと沈んだ気分でドレスを着せられた。日中、教会に行くことの多いベアトリスは貴族のデイドレスを着ることがほとんどないのだが、この日は緑のデイドレスを着せられ、髪を結われ、ばっちり化粧させられた。
父王や母王妃と並んで婚約者とやらが謁見室に入ってくるのを待つ。
ベアトリスは笑顔を顔に貼り付けながら、この婚約の話をホセが聞いたらどう思うだろうと考えていた。
他の男と結婚してもホセはベアトリスの騎士で居てくれるだろうか。
「ブランコ辺境伯とカルメン夫人、嫡男のホセ殿です」
そうして入ってきたのは、あのホセだった。
黒い髪に黒い目をしたがっしりした体躯。あれほどずっと一緒に過ごしたのだ。見間違える訳がない。
「嘘・・・ホセ・・・?」
ベアトリスは感極まって涙が止まらなかった。手で顔を抑えるが次から次へと涙が流れてくる。
母である王妃がベアトリスのせなかをそっとさすってくれた。
「ベアトリス様」
ホセは許される範囲で一番近くに寄ったがそれでもベアトリスとは距離がある。王妃がベアトリスを促して、小上がりになっている段を降りると、ベアトリスをホセの元に連れていった。
「ホセ・・・」
涙を流しながらもなんとかホセを見上げるとホセがベアトリスをギュッと抱きしめてくれた。
ホセの肩に顔を埋める。鼻いっぱいに懐かしい香りが広がった。ホセの匂いだ。
「私、あなたと結婚できるのね。嘘じゃないのね。」
冷静さをとり戻したベアトリスは涙を拭って自らの足で立った。
ベアトリスとホセは見つめ合う。
「あぁ、嘘じゃない。俺と結婚してください。」
「ええ!喜んで!」
ベアトリスはホセの胸に再び飛び込んだ。
ホセは外務部門に移動になり、今は隣国のカスティーリャに大使として行っているらしい。
ベアトリスには新しく護衛がついたがあくまでベアトリスの護衛で、子供たちに剣を教えたりすることはなかった。
夏を迎える少し前、ベアトリスは学園を卒業した。ベアトリスは学園には通ったり通わなかったりだったが、優秀な成績で卒業することができた。
アルトゥールとジュリアは学園では二人で過ごすことが多いようだ。
微笑み合う二人の姿を見てもベアトリスの胸が痛むことはもうなかった。
そこから更に数ヶ月が過ぎた。
ホセと別れたのは冬の終わり。春の訪れを待つカルナバルの時期であった。そして、今は冬の始まり。
寒くなってきて人恋しい季節になったからかもしれない。冬がホセと別れた季節だからかもしれない。ベアトリスはホセと会いたくてたまらなかった。
もうホセとは半年以上会っていない。
いつも守ってくれると言ったのに。
会いたい想いがつのる。
そんな時だった。家族の晩餐の席で父王から思いがけぬ言葉を聞いた。
「ベアトリス、そなたの婚約が決まった。」
ベアトリスはいつかはこの時が来るだろうと覚悟していた。覚悟していたのに、心はひどく落ち込んだ。
「どなたですか?」
それでもなんとか話を続ける。
「ブランコ辺境伯家の嫡男だ。」
王は落ち着いた声で話す。
「父上!それはあんまりだ。ブランコ辺境伯家の嫡男といえば、変人だともっぱらの噂ですよ。たしか、変人過ぎて婚約者に逃げられたとか。」
そう声を上げてくれたのは兄だった。
「そうじゃったかな。しかし、ベアトリスが嫁ぐに相応しい家柄の者で結婚しておらず、婚約もしていないのは彼だけなのじゃ。」
「それはそうかもしれませんが、ベアトリスは民の人気も高いし、王家にずっと名を連ねていても問題はないかと。」
「確かにわしもこの前までそう思っておった。しかし、辺境伯家は噂の嫡男を廃嫡し、優秀な甥を嫡男に指定したらしい。確かに優秀な男のようだ。それに・・・」
そう言うと父王は意味ありげにベアトリスににっこり笑った。
「わしは彼と結婚すればベアトリスが世界一幸せになれると信じているのじゃ。」
「世界一ですか?」
「おそらくは。まぁ、明日、顔合わせをするから、そのつもりでいなさい。」
ベアトリスはホセ以外の人と結婚して幸せになれるとは思わなかった。しかし、王女であるベアトリスから王の決定に文句を言うことなどできない。
ベアトリスは翌日、どんよりと沈んだ気分でドレスを着せられた。日中、教会に行くことの多いベアトリスは貴族のデイドレスを着ることがほとんどないのだが、この日は緑のデイドレスを着せられ、髪を結われ、ばっちり化粧させられた。
父王や母王妃と並んで婚約者とやらが謁見室に入ってくるのを待つ。
ベアトリスは笑顔を顔に貼り付けながら、この婚約の話をホセが聞いたらどう思うだろうと考えていた。
他の男と結婚してもホセはベアトリスの騎士で居てくれるだろうか。
「ブランコ辺境伯とカルメン夫人、嫡男のホセ殿です」
そうして入ってきたのは、あのホセだった。
黒い髪に黒い目をしたがっしりした体躯。あれほどずっと一緒に過ごしたのだ。見間違える訳がない。
「嘘・・・ホセ・・・?」
ベアトリスは感極まって涙が止まらなかった。手で顔を抑えるが次から次へと涙が流れてくる。
母である王妃がベアトリスのせなかをそっとさすってくれた。
「ベアトリス様」
ホセは許される範囲で一番近くに寄ったがそれでもベアトリスとは距離がある。王妃がベアトリスを促して、小上がりになっている段を降りると、ベアトリスをホセの元に連れていった。
「ホセ・・・」
涙を流しながらもなんとかホセを見上げるとホセがベアトリスをギュッと抱きしめてくれた。
ホセの肩に顔を埋める。鼻いっぱいに懐かしい香りが広がった。ホセの匂いだ。
「私、あなたと結婚できるのね。嘘じゃないのね。」
冷静さをとり戻したベアトリスは涙を拭って自らの足で立った。
ベアトリスとホセは見つめ合う。
「あぁ、嘘じゃない。俺と結婚してください。」
「ええ!喜んで!」
ベアトリスはホセの胸に再び飛び込んだ。
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