【完結】婚約者が恋に落ちたので、私は・・・

ゴールデンフィッシュメダル

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ベアトリス

その2 うわさ

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ベアトリスは何回か学園から抜け出して教会で子供たちとあそぶようになった。そうなると当然、ベアトリスが街で遊んでいるということが噂になった。しかも出入りしているのが娼館街の近くだということもあってあらぬ憶測が飛び始めた。

「学園を抜け出してどこに行っている?」

教会から学園に戻るとアルトゥールがベアトリスに話しかけてきた。

「街の子供たちと遊んで見聞を深めております。抜け出すと言っても1~2時間ですし・・・」

「良からぬところに出入りしていると言う噂もある。将来の公爵夫人として責任ある行動を取ってくれ。」

そう言われてベアトリスは何も言い返せなかった。しかし、悪いことをしているわけでもないので、そのうち噂は消えるだろうと街に通い続けた。

子供達と接するうちにベアトリスは勉強を教えるようになった。はじめはエビタシオにお願いされて教えたのだが、そのうちみんなに教えるようになった。

女の子には刺繍なども教えた。そして、それを売りに出すことにした。
初めて刺繍のハンカチが売れた時はみんなでキャンディを買って食べた。こっそり宮殿から持ち出したハンカチは高級品で、多少刺繍の出来が悪くても高値で売れたので、みんな熱心に刺繍をし始めた。
勉強だけでなく遊びももちろんした。教会には娼婦の子供たちだけでなく他の貧民街の子供たちも来るようになった。ベアトリスはとても充実した日々を過ごしていた。

ベアトリスの悪い噂が流れ始めて一年が過ぎた頃、父が監視役の護衛をつけるようになった。悪いことをしているわけではないのでベアトリスはそれでも堂々と教会に通った。

ベアトリスに付けられた護衛は伯爵家の次男で、ホセという青年だった。ホセは黒髪黒目で絵の中から出てきた騎士のような青年だった。ベアトリスと一緒になって子供たちに文字や歴史を教えてくれた。
ホセは教えるのが上手かった。話を聞くと学園で同級生によく勉強を教えていたそうだ。その上、最後のテストでトップの成績だったらしい。

「首席で卒業したら宰相を目指すんじゃないの?」
とベアトリスが聞くと「宰相になって幸せになる未来が想像ができませんでした。」と呟いた。

ホセは騎士ということもあり男の子たちには剣も教えてくれた。平民では近衛兵や騎士にはなれないが、剣が使えると一般の兵士にはなれるかもしれない。

ベアトリスより四歳ほど年上のホセは寡黙だが、優しく視野の広い青年だった。貴族だと言うのにはじめから平民と壁なく接することの出来る人間は少ない。

ホセは青っ洟あおっぱなを垂らした子供たちが抱きついて服が汚れても気にせず笑ってくれる青年だった。



アルトゥールから忠告を受けて以来、アルトゥールとベアトリスの間には明らかに溝ができていた。茶会を開いても調べもせずに悪いことをしていると一方的に責められ、エスコートしてくれることもなくなった。
それでもベアトリスはどこか心の中で期待していた。アルトゥールがベアトリスを見てくれることに。
ベアトリスは悪いことをしているわけではない。アルトゥールがベアトリスに興味を持ってきちんと調べてくれたらその事はわかるはずである。

しかし、ベアトリスが期待したほどアルトゥールはベアトリスに興味がなかったようだ。
アルトゥールとベアトリスが最終学年に上がる18の歳、アルトゥールから婚約の解消を言い渡された。公爵家の女主人になるには素行が悪いというのが理由だった。

ベアトリスはあらかじめ父に話してあった。
アルトゥールから婚約解消の打診があるなら受けてほしいと。ベアトリスから婚約を解消すると、ともすればアルトゥールが王家から見放されたように見える。それはベアトリスの望むところではない。だから、アルトゥールの方から婚約破棄を言い出してもらう必要があった。

婚約解消の話を聞いた時、ベアトリスの中にはさまざまな思いが渦巻いた。
期待していたほどアルトゥールがベアトリスをなんとも思っていなかったという落胆と怒り、
ジュリアに恋心を抱いているアルトゥールと結婚しなくて良かったという安堵、
アルトゥールとジュリアの恋の邪魔者にならずに済むという喜び、
失恋の悲しみ・・・


「本当にこれで良かったのか?」

父である王はベアトリスに甘い。ベアトリスが否と言うと婚約は継続されるのだろう。しかし、ベアトリスはこれで良かったのだと頷いた。
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