【完結】婚約者が恋に落ちたので、私は・・・

ゴールデンフィッシュメダル

文字の大きさ
上 下
3 / 13
ホセ

その3 出会い

しおりを挟む
ホセはベンボーリオ伯爵家の次男として産まれた。
幸運なことに幼い頃から勉強も武芸もよく出来た。しかし、この国の貴族は長子相続で複数爵位を持っていても分割して相続させたりはしない。
ホセはいくら優秀であっても次男というだけで何も手に入れることができない存在だった。

学園に通っても授業を少し受けるだけで学年で十位以内をキープできたし、小さな剣の大会で優勝したこともあった。
しかし、ホセは恵まれているがゆえに常に斜めに世界を見ていたし、いつも虚しかった。

学園最後の統合試験でトップを取ったホセは誰もが高級文官を目指すと思った。統合試験トップの成績だったらどの部門でも選び放題どころか、毎年、各部門からスカウトが来るくらいである。
しかし、ホセはその全てを断り、騎士になった。理由は特にない。強いて言うなら剣が一番苦手だったからだ。苦手といっても、小さな大会で優勝する程度には得意なのであるが。

ホセが騎士の道を選んだ時、両親や兄は落胆したし、同級生たちも口を揃えて勿体無いと言った。平和なこの国では騎士や兵士の価値は低い。
そんなホセは騎士としても早くに頭角を表した。
特に、予算会議や護衛の配置相談など文官とやりあわないといけないような場面では重宝された。3年も経たないうちに議会で武官の顔として発言するまでになっていた。

そんなホセに王女の護衛を見繕ってほしいと依頼が来たのはホセが二十一歳になったばかりの頃だった。あまり他人に興味のないホセは王女の噂など聞いたこともなかったが、学園に登校したと見せかけて学園を抜け出し遊び歩いていると聞いて驚いた。それと同時に非常に興味を持った。
ホセは学園に通っていた当時、学園などつまらないと思いながら、それでも毎日真面目に通っていた。自分には学校をサボるなどという発想すらなかった。王女は優秀だと聞くが、学校をサボって何をしているのだろうか。

学園は囲まれた箱庭で貴族はみな、身一つで学園に通う。
残り数年で公爵家への降嫁が決まっている王女には、他の貴族同様護衛など付けられていなかった。

ホセは忙しい身でありながら自ら護衛を買って出た。
はじめは、初日だけホセが随行して次の日からは別の者に任せれば良いと考えていた。

初めて対面した王女はクリっとした目をした可愛らしい少女だった。あぶない街に出入りしているらしいとのもっぱらの噂だったがそんな雰囲気は全くなかった。

王女は王宮から馬車で学園まで送ってもらうと校舎に向かおうともせず、そのまま街に向かった。行き先は噂通り娼館街の方である。しかし、到着したのは娼館ではなく教会だった。王女はそこで子供たちに勉強を教えていた。

ホセは自分も王女と共に読み書きや計算、そして大きな男の子供たちには剣術も教えた。教会にいる子供たちは貴族である自分と比べれば何も持っていない。それでも明日を信じて精一杯生きていた。ホセにとつて子供たちはとても眩しく見えた。
ホセは次の日から別の者に護衛を任せるつもりだったのを忘れ、王女の護衛をしながら毎日、子供達の元へ通った。
子供達の中ではリーダー格の少年、エビタシオから兵になる試験を受けたいと相談を受けた時は二つ返事で推薦状を書いてあげた。

ホセが王女の護衛をし続けられたのは王女の街での遊びが毎日、午前中だけだからである。議会などは昼から開催されることが多かったので、午前中は王女の護衛、午後からは議会に参加し、夕方以降に次の日の議会に向けての資料づくりなどをすることにしていた。

ある日、議会が終わり武官の控室に向かう途中で王宮の庭園を散歩する王女が見えた。一緒に居るのは金髪の美しい青年で、王女との距離から見て婚約者だろう。
二人の表情から楽しい話題をしているのでないことは伺えた。

「ベアトリス、もう少し真面目に過ごしてくれ。今の君では公爵家の女主人としては相応しくない。」

風に乗ってそんな声が聞こえてきた。

「学園は確かに少しサボっておりますが、テストでは問題のない点を取っておりますし、真面目に過ごしているつもりです。」

王女は泣きそうな顔をしながらも青年にそう告げた。

「君は社交界で流れている噂を聞いているか?火のないところに煙はたたないだろう?しばらくは大人しくしていてくれ。」
「もし不真面目をお疑いなら、明日ご一緒に街に参りますか?」
「よしてくれよ。俺は生徒会で忙しいんだ。真面目な生徒だからな。」

青年はそう言い捨てると王女を宮殿までエスコートすることもなく立ち去った。
青年を見つめる王女の揺れる瞳を見て、あんなに辛辣なことを言われているのに王女は婚約者を好きらしいと言うことにホセは気付いた。

「どうして言い訳しないんだ?」

急に現れたホセに驚きながらも王女の表情は変わらないままだった。護衛をしている時に身分をバラしたくないという事でホセは王女に気安い口調を許されている。婚約者に代わり王女をエスコートする。

「期待しているのかもしれないわ。」

「期待?」

「彼が自分から興味を持って真実を突き止めてくれるのを。でも今のままじゃ無理ね。」

そう言った王女の瞳の奥には間違いなく恋の炎が灯っていた。

しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

恋愛
今日、私はお飾りの妃となります。 ※実際の慣習等とは異なる場合があり、あくまでこの世界観での要素もございますので御了承ください。

奪われたものは、もう返さなくていいです

gacchi
恋愛
幼い頃、母親が公爵の後妻となったことで公爵令嬢となったクラリス。正式な養女とはいえ、先妻の娘である義姉のジュディットとは立場が違うことは理解していた。そのため、言われるがままにジュディットのわがままを叶えていたが、学園に入学するようになって本当にこれが正しいのか悩み始めていた。そして、その頃、双子である第一王子アレクシスと第二王子ラファエルの妃選びが始まる。どちらが王太子になるかは、その妃次第と言われていたが……

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

【完結・全10話】偽物の愛だったようですね。そうですか、婚約者様?婚約破棄ですね、勝手になさい。

BBやっこ
恋愛
アンネ、君と別れたい。そういっぱしに別れ話を持ち出した私の婚約者、7歳。 ひとつ年上の私が我慢することも多かった。それも、両親同士が仲良かったためで。 けして、この子が好きとかでは断じて無い。だって、この子バカな男になる気がする。その片鱗がもう出ている。なんでコレが婚約者なのか両親に問いただしたいことが何回あったか。 まあ、両親の友達の子だからで続いた関係が、やっと終わるらしい。

真面目くさった女はいらないと婚約破棄された伯爵令嬢ですが、王太子様に求婚されました。実はかわいい彼の溺愛っぷりに困っています

綾森れん
恋愛
「リラ・プリマヴェーラ、お前と交わした婚約を破棄させてもらう!」 公爵家主催の夜会にて、リラ・プリマヴェーラ伯爵令嬢はグイード・ブライデン公爵令息から言い渡された。 「お前のような真面目くさった女はいらない!」 ギャンブルに財産を賭ける婚約者の姿に公爵家の将来を憂いたリラは、彼をいさめたのだが逆恨みされて婚約破棄されてしまったのだ。 リラとグイードの婚約は政略結婚であり、そこに愛はなかった。リラは今でも7歳のころ茶会で出会ったアルベルト王子の優しさと可愛らしさを覚えていた。しかしアルベルト王子はそのすぐあとに、毒殺されてしまった。 夜会で恥をさらし、居場所を失った彼女を救ったのは、美しい青年歌手アルカンジェロだった。 心優しいアルカンジェロに惹かれていくリラだが、彼は高い声を保つため、少年時代に残酷な手術を受けた「カストラート(去勢歌手)」と呼ばれる存在。教会は、子孫を残せない彼らに結婚を禁じていた。 禁断の恋に悩むリラのもとへ、父親が新たな婚約話をもってくる。相手の男性は親子ほども歳の離れた下級貴族で子だくさん。数年前に妻を亡くし、後妻に入ってくれる女性を探しているという、悪い条件の相手だった。 望まぬ婚姻を強いられ未来に希望を持てなくなったリラは、アルカンジェロと二人、教会の勢力が及ばない国外へ逃げ出す計画を立てる。 仮面舞踏会の夜、二人の愛は通じ合い、結ばれる。だがアルカンジェロが自身の秘密を打ち明けた。彼の正体は歌手などではなく、十年前に毒殺されたはずのアルベルト王子その人だった。 しかし再び、王権転覆を狙う暗殺者が迫りくる。 これは、愛し合うリラとアルベルト王子が二人で幸せをつかむまでの物語である。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

[電子書籍化]好きな人が幸せならそれでいいと、そう思っていました。

はるきりょう
恋愛
『 好きな人が幸せならそれでいいと、そう思っていました。』がシーモアさんで、電子書籍化することになりました!!!! 本編(公開のものを加筆・校正)→後日談(公開のものを加筆・校正)→最新話→シーモア特典SSの時系列です。本編+後日談は約2万字弱加筆してあります!電子書籍読んでいただければ幸いです!! ※分かりずらいので、アダム視点もこちらに移しました!アダム視点のみは非公開にさせてもらいます。 オリビアは自分にできる一番の笑顔をジェイムズに見せる。それは本当の気持ちだった。強がりと言われればそうかもしれないけれど。でもオリビアは心から思うのだ。 好きな人が幸せであることが一番幸せだと。 「……そう。…君はこれからどうするの?」 「お伝えし忘れておりました。私、婚約者候補となりましたの。皇太子殿下の」 大好きな婚約者の幸せを願い、身を引いたオリビアが皇太子殿下の婚約者候補となり、新たな恋をする話。

【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。

なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。 追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。 優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。 誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、 リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。 全てを知り、死を考えた彼女であったが、 とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。 後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。

処理中です...