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後悔
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「居ないってどういうことですか?」
コリンが久しぶりに領都の屋敷に戻るとそこに居るはずの人物が居なかった。
「ジェニファーさんは春に友人の結婚式があるから、それまでショウ家の屋敷で過ごすそうよ。」
「それを許したのですか?」
「え、えぇ。この時期は社交もないし、バネッサのこともあって落ち込んでいるから良い気分転換になるかと思って。」
「春までっていつですか?」
「さぁ、詳しい話は聞いていないのだけど」
のんびりとそう言う伯爵夫人に苛立ってコリンは頭を掻くと、「そうですか、失礼します」と言って扉を乱暴に開けて出て行った。
クイーンズロックでの対応がやっと終わり、久しぶりにジェニファーに会えると思って帰ってきたのにジェニファーが居なくてガッカリする。
コリンはもうだいぶ前からジェニファーに惹かれていた。今から考えれば彼女を見てイライラしてしまっていたのも彼女に惹かれていたからだ。
確かにコリンの初恋はバネッサだった。しかし、バネッサへの感情はいつしか薄れて行った。
きっかけは公爵家の舞踏会での態度かもしれない。ジェニファーがコリンのことを気遣ってくれるのに、バネッサはその事に全く気付きもしない。そういうところに失望したのだ。
コリンはバネッサが海に落ちた時には完全にジェニファーの事が好きだった。だから、ジェニファーよりも冷静に物事を判断できた。
まず、あの高さから落ちた場合、下が海だとは言え、打ちつける衝撃はかなりのものだろう。気を失うか下手をすればその時点で死という可能性もある。
しかもあの辺りは岩場になっていて、波に揉まれて岩にぶつかるとただではすまない。
その日のうちにみつかれば生きている可能性もあったかもしれない。見つからないまま2日目の夜を迎えた時点でコリンはある程度の覚悟をした。
バネッサの事件以来ジェニファーは相当参っているようだった。コリンは下心もあってとても優しく接するようになった。
それなのに出会ってばかりの頃に嫌味を散々言っていたからなのか、どれだけ優しくしてもジェニファーの心には響かなかった。
コリンは嫌味ばかりを言っていた過去をとても後悔した。嫌味を言っていた時にはジェニファーに惹かれていたのに。
なのにそれに気付かず、好きな子の気を引きたい子供みたいに嫌味を言っていたのだから自分は何と未熟だったのだろう。
コリンは次の秋にジェニファーが正式に未亡人になれば結婚を申し込もうと思っていた。
しかし、それでは遅かったのかもしれない。ジェニファーはいつまで経ってもコリンはバネッサを好きだと思っているし、ジェニファーを嫌っていると思っている。
コリンはジェニファーを誘って振る舞い酒のシードルを呑んだ。2人で一つの盃を交わすことはこの領地では特別な事で、これはプロポーズみたいなものである。
しかしジェニファーの領地ではこの風習はないのか全く通じなかった。
コリンは焦っていた。
このままでは他の誰かにジェニファーを取られてしまうのではないかと。しかし、彼女はまだアーロン・ミッドラッツェルの妻であり、コリンの気持ちを直接言うのは躊躇われた。
だからゆっくり進めていけば良いと思っていた。少なくともミッドラッツェルの領地では彼女と結婚できるような年頃の貴族の男性が訪ねて来ることはない。そう思って安心していた。
ジェニファーがショウ家の屋敷に行くなんて。
彼女には兄が2人いて、兄の友人が屋敷を訪ねる可能性はゼロではない。
彼女は魅力的だし、世の男性がコリンのように未亡人になってからちゃんとアプローチしようだなんて紳士なことを考えるとは限らない。
横からかっさわれるのは嫌だ。
しかし、コリンにショウ家を訪ねる理由はない。春になっても彼女が戻ってくるとは限らない。
戻ってきたとしてもうまくいくとは限らない。
彼女は嫌味ばかり言っていたコリンを嫌っているのではないか、と、そんな事ばかりを考えてしまう。
手紙を書こうかどうしようかと考えながら結局何もできないまま時ばかりが虚しく過ぎていった。
コリンが久しぶりに領都の屋敷に戻るとそこに居るはずの人物が居なかった。
「ジェニファーさんは春に友人の結婚式があるから、それまでショウ家の屋敷で過ごすそうよ。」
「それを許したのですか?」
「え、えぇ。この時期は社交もないし、バネッサのこともあって落ち込んでいるから良い気分転換になるかと思って。」
「春までっていつですか?」
「さぁ、詳しい話は聞いていないのだけど」
のんびりとそう言う伯爵夫人に苛立ってコリンは頭を掻くと、「そうですか、失礼します」と言って扉を乱暴に開けて出て行った。
クイーンズロックでの対応がやっと終わり、久しぶりにジェニファーに会えると思って帰ってきたのにジェニファーが居なくてガッカリする。
コリンはもうだいぶ前からジェニファーに惹かれていた。今から考えれば彼女を見てイライラしてしまっていたのも彼女に惹かれていたからだ。
確かにコリンの初恋はバネッサだった。しかし、バネッサへの感情はいつしか薄れて行った。
きっかけは公爵家の舞踏会での態度かもしれない。ジェニファーがコリンのことを気遣ってくれるのに、バネッサはその事に全く気付きもしない。そういうところに失望したのだ。
コリンはバネッサが海に落ちた時には完全にジェニファーの事が好きだった。だから、ジェニファーよりも冷静に物事を判断できた。
まず、あの高さから落ちた場合、下が海だとは言え、打ちつける衝撃はかなりのものだろう。気を失うか下手をすればその時点で死という可能性もある。
しかもあの辺りは岩場になっていて、波に揉まれて岩にぶつかるとただではすまない。
その日のうちにみつかれば生きている可能性もあったかもしれない。見つからないまま2日目の夜を迎えた時点でコリンはある程度の覚悟をした。
バネッサの事件以来ジェニファーは相当参っているようだった。コリンは下心もあってとても優しく接するようになった。
それなのに出会ってばかりの頃に嫌味を散々言っていたからなのか、どれだけ優しくしてもジェニファーの心には響かなかった。
コリンは嫌味ばかりを言っていた過去をとても後悔した。嫌味を言っていた時にはジェニファーに惹かれていたのに。
なのにそれに気付かず、好きな子の気を引きたい子供みたいに嫌味を言っていたのだから自分は何と未熟だったのだろう。
コリンは次の秋にジェニファーが正式に未亡人になれば結婚を申し込もうと思っていた。
しかし、それでは遅かったのかもしれない。ジェニファーはいつまで経ってもコリンはバネッサを好きだと思っているし、ジェニファーを嫌っていると思っている。
コリンはジェニファーを誘って振る舞い酒のシードルを呑んだ。2人で一つの盃を交わすことはこの領地では特別な事で、これはプロポーズみたいなものである。
しかしジェニファーの領地ではこの風習はないのか全く通じなかった。
コリンは焦っていた。
このままでは他の誰かにジェニファーを取られてしまうのではないかと。しかし、彼女はまだアーロン・ミッドラッツェルの妻であり、コリンの気持ちを直接言うのは躊躇われた。
だからゆっくり進めていけば良いと思っていた。少なくともミッドラッツェルの領地では彼女と結婚できるような年頃の貴族の男性が訪ねて来ることはない。そう思って安心していた。
ジェニファーがショウ家の屋敷に行くなんて。
彼女には兄が2人いて、兄の友人が屋敷を訪ねる可能性はゼロではない。
彼女は魅力的だし、世の男性がコリンのように未亡人になってからちゃんとアプローチしようだなんて紳士なことを考えるとは限らない。
横からかっさわれるのは嫌だ。
しかし、コリンにショウ家を訪ねる理由はない。春になっても彼女が戻ってくるとは限らない。
戻ってきたとしてもうまくいくとは限らない。
彼女は嫌味ばかり言っていたコリンを嫌っているのではないか、と、そんな事ばかりを考えてしまう。
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